第23話 今の四天王
ゼロは討伐に来た四天王の内二人を倒し後二人となった。しかし100年前にゼロの弟子達が戦った獣人国カサールの四天王の方が遥かに強かったと感じていた。
それはゼロが直接戦った訳ではなかったが近くにいてその戦いを感じ取っていたのでわかった事だった。
一般の兵士や冒険者だけではなかった。この四天王ですらこの100年で弱くなっている。この世界は一体どうなってるんだとゼロは思っていた。
これでは悪魔が攻めて来たらヒューマンの世界だけではなくこの獣人の国ですら直ぐに殲滅されてしまうだろう。これでいいのかと。
さてその四天王と言えば、
「良いだろう。お前の強さ、本物と認めてやろう。我々も少し過小評価していたようだ。ではこれからは本気でやらせてもらおうか。なぁローラント」
「ああ、そうしようぜ、アルノー」
「ああ、期待してるぞ」
残った四天王の二人は共に剣を手にして左右に分かれゼロの両側の斜め45度辺りから攻撃をして来た。
これに対しゼロは腕を気功硬化させてそれらの剣を弾いていた。二人の攻撃に対しても片腕だが十分に対応出来ていた。
ところが不思議な事が起こった。左から攻めていた獣人がいつの間にか右にいる。そうかと思えば右にいるはずの獣人が左から攻めて来た。
目の錯覚ではなかった。彼らは顔つきも着ている服の色も違った。むしろ見分けが付きやすい様な色の服を着ていた。だから余計にその違いが判る。
これは認識誤認の魔法か何かかと思った。しかしそうでもなさそうだ。ともかくこれは意識をかく乱させる。なるほどそう言う戦い方をする二人なのかと目で追うを止めた。
意識センサーを持ちいてともかく攻撃に来る者は誰であれ防ぎ反撃する。そうすればこちらが迷う事はない。そしてゼロの突きが入り一人が吹っ飛ばされた。
しかし直ぐに立ち上がって来た。ゼロはおかしいと思った。今の打撃は確実に殺せる打撃だったはずなのにその効果が落ちている。
その後も何度かゼロの攻撃が確実に捉えたにも関わらずどちらも平然と立ち上がって来た。そしてゼロの意識センサーはダメージの分散化を捉えた。
そう言う事か、ゼロの攻撃は二人の体でそのダメージを分かち合い分散してる様だ。
これなら確実に倒せる攻撃力を倍にしなければならない。それも出来なくはないがそれでも攻撃が届いた初期段階で分離されて行ったら難しくなる。
ならダメージを分離する前に殲滅してしまえばいい。それも可能だがそれでは面白みがないとゼロは思った。やはり戦闘狂なのか。
「いいだろう、見せてやろう俺の必殺技を」
そう言って放ったゼロの突きを一人の四天王が受けて予定通り分離してもう一人の四天王に転送した。
これなら確実にダメージは半減されるはずだった。しかし半分のダメージを転送された方のアルノーが一瞬に弾けて破滅した。
「ど、どう言う事だこれは」
「時間差攻撃と言うやつだ」
「なに、何だその時間差攻撃とは」
「俺の打撃勁の最初の部分に超振動勁を混ぜておいた。あれは第一弾が届いた後で発動する。しかし量的には前半も後半も同じなんだよ。しかし威力は前半と後半とではけた違いになる。前半部を転送されたあいつには確実な死が待っていたと言う事だ」
「まさかそんな攻撃が可能などとは、お前は本当にヒューマンか。それではまるで伝説の獣王様ではないか」
「それは違うな、あいつの技は周囲から魔力を吸収し外的打撃を強化しただけだが俺のは内的打撃の強化だ」
「何を言っている。まるで見た様な事言うな」
「見た様なではない。実際に見たのだからそう言っている」
「ば、馬鹿なあれは100年前の戦いだぞ。お前は一体何を言っているんだ」
「ともかくこれで終わりだな」
そして最後のゼロの打撃を受けた四天王最後の一人ローラントも倒れた。
「おーい、この戦いを盗み見している奴、聞こえるか。お前の主人に伝えておけ。次はお前の番だとな」
そう言ってゼロは悠然とその場を立ち去った。本当に今の四天王も弱くなったなとぼやきながら。
この報告を受けた右大臣ハーライトは心底震えていた。獣人国最強と謳われる四天王をたった一人で全員を倒してしまったあいつは本当にヒューマンなのかと。
ハーライトはこの行政館に陣取っていても不安でならなかった。いつあの男が現れるかも知れないと思うと。既に最高の切り札は無くしてしまったのだから。
しかし今更引く訳にもいかないとも思っていた。だから後は数と権力で乗り切てやると。同時に各地の領主達に檄をとばして新政権への協力と忠誠を誓わせていた。
対抗となる旗頭の首相も左大臣もいないとなれば、今のあの右大臣に逆らう事は非常に難しい。
各地の領主達も今の自分の立場と将来の事を考えながら思案していた。そして誰もが思っていた。もし今ここにゼロマ様がいてくれたらきっとこんな暴挙は起こらなかっただろうと。
しかし起こってしまったものは仕方ないのだが、それにしても自分の力のなさに嘆いている領主も多くいた。
かっての大戦の折は各部族があの強大な国々と堂々と渡り合っていたのだ。そしてその力もあった。それも皆あのゼロマ様とゼロマ軍団の指導の賜物だった。
しかし今はどうだ。この100年これと言った戦いもなく兵の質も戦力も落ちてしまった。
しかしそれでも良かったのだ。戦いそのものがなかったから。しかし今、戦いとなった時に如何に情けない軍力だと思うのは一人や二人の領主ではなかったはずだ。
ゼロに取ってハーライトの事などどうでもよかった。ただ敵対する者は倒すだけだとカールへ向かって進んでいた。
あの戦いを震えながら隠れて見ていたもう一人りの人物、女の冒険者は震えながら聞いて来た。
「あんたって本当に何者なの。本当にヒューマンなの。まさか悪魔だなんて言わないわよね」
「俺が悪魔だったらどうする」
「じょ。冗談は言わないでよ。心臓に悪いわよ。わたしまだ死にたくないんだから」
「まぁいい、行くぞ」
「はい」
そしてゼロ達はまた森に入りながら前進して行った。この頃になるとこの女も少しは森に馴染んできたようだ。かれこれもう1週間森で生活をしている。
「どうだ、森だって生きられない事はないだろう」
「そ、そうね。わたしなんだか自信が出てきちゃったわ」
「言っとくがな今のお前が一人で森に入ったら確実に3日で死ぬぞ」
「脅かさないでよ。でもまぁそうなのかもね。だってこんな森での生き方なんて誰も教えてはくれなかったわ」
「それは学ぼうとしなかったからだ」
「そんな事言ってもさー」
「何か来るぞ。こいつはちょっとでかいな」
ゼロは急いで自分達の陣地を出て行った。でないとここが荒らされる。森の少し空き地になっている所に現れたのは大きなトカゲだった。
「ねーあれってさ、バジリスクじゃないの。あんなの絶対無理よ、だってあれはBランクの魔物よ」
「いいか絶対にあいつの目を見るなよ。石にされるぞ」
ゼロはいつの間に取りだしたのか手には双魔剣を持っていた。そしてバジリスクの前に駆け出し、口から吐き出される酸攻撃を軽くかわしていた。
このバジリスク、同時に二つの攻撃はかけられない。つまり酸攻撃をしている間は目による石化攻撃は出来ないと言う事だ。
そのタイミングでゼロは酸をかわしながらバジリスク近づき、十分至近距離が確保出来た所で迷宮ウサギジャンプを使って空中に飛び出した。
後はそこからバジリスクの首を狙って双魔剣を振り下ろした。勿論その剣のながさなど知れている。
しかしゼロが使えば斬撃で数メートル離れた所の物でも切り裂く事が出来る。そしてバジリスクは息絶えた。
「おい、バジリスクって旨いんだったかな」
「知らないわよ。そんな物食べた事ないし」
「なら今日はトカゲ肉の串焼きでも作るか」
「あんたさー、本当にヒューマンなの」
そんな事を繰り返しながら徐々に獣人達の聖地と呼ばれる所に近づいて来た。
「あのさーこれから何処に行くのよ」
「別にお前が付いて来る必要はないんだぞ」
「そうもいかないのよ。この国じゃまだクラウンの情報網があって直ぐに見つかってしまうんだから」
「なら国外まで逃げるつもりか、それは難しいな」
「どうしてよ」
「俺はまだしばらくはこの国を離れる気はないからな」
「うそ、だってあんた全国指名手配されてるんでしょう。どうしてこの国から逃げないのよ」
「俺にはまだする事があってな」
「する事って何よ」
「あそこだ」
ゼロ達はやっと獣人達の聖地と呼ばれる所に辿り着いた。そこは森だった。
かってはガルゾフ共和国の一部で「ブリッツの森」と呼ばれた所だった。
「あのさーここって『ブリッツの森』って呼ばれてる森じゃないの」
「何だ知ってるのか」
「そりゃ知ってるわよ。第一級危険地帯に指定されてて、冒険者だって誰も近づかない森よ」
『なるほど、そう言う形で保護してたのか』
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