第22話 ゼロ再び森へ入る
ゼロは首都を離れ一路獣人国の聖地カールを目指して旅を続けていたが、その行く先々の町で門を守る衛兵や中の兵士達が出て来てゼロを逮捕しようとした。
いや指名手配には生死を問わず大枚の賞金が報酬と明示されていたので兵士どころか冒険者達からも狙われる事になった。
ここで初めてゼロは自分が指名手配犯になってる言事を知った。それも首都襲撃の首謀者として。
「面白い事をしてくれる。これもあの右大臣とやらの知恵か。こちらとしても手間が省けて助かると言うものだ」
それは自分から仕掛けなくても相手からいくらでも襲って来るから探す手間が省けて殲滅出来るからだったが、そんな事を理解出来る者は誰もいなかった。
ただ門番達を蹴散らして町の中に入ったとしても何処の食堂でも食事を断られ宿も取る事が出来なかった。
これで冒険者ギルドにでも顔を出そうものなら大騒動になる事は目に見えていた。
『これで俺を兵糧攻めにしたつもりか、甘いな』
こうしてゼロが街道を歩いていると後ろからついて来る者がいた。
「どうした、お前も俺の賞金が欲しくなったか」
「馬鹿言わないでよ。逆立ちしてもあんたに勝てる訳ないじゃない」
「なら何でついて来る」
「わたしもね。行くとこがなくなったのよ。だからあの町から逃げて来たのよ」
「なら何故俺の後をついて来る。俺は賞金首だぞ。いつも狙われている。危ないとは思わなかったのか」
「それは思ったわよ。巻き添えを食ったらたまらないってね。でもさーあんたに勝てる奴なんて誰もいないじゃない。なら逆に安全かなって思ってさ」
「お前は女の癖に人の褌で相撲をとるのか」
「何それ、よくわかんないんだけど、何か凄く醜いこと言ってない」
「まぁいい。勝手にしろ」
そう言われてもそのヒューマンの女冒険者はゼロの後をついて来た。そして、
「あんたさ、今指名手配になってるのよね。じゃー仮に町の中に入れても食べ物も買えないし泊る所もないでしょう。どうするの?わたしが何か食べる物買って来てあげようか」
「別に必要ない」
「必要ないって事ないでしょう。人間食べなければ死ぬのよ」
「食べ物ならいくらでもあるだろう」
「いくらでもって何処によ」
「そこだ」
「そこって・・森じゃないの。森でどうするのよ。まさか森に入ろうってんじゃないでしょうね。それこそ死ぬわよ」
「どうしてそう思う。森では小動物でもちゃんと物を食って生きているぞ」
「そ、それはそうかも知れないけどさ、ヒューマンは森では生きては行けないのよ」
「そんな事はないぞ。かって7歳の女の子が4歳からたった一人で3年間森の中で生きていたぞ」
「そ、そんなの嘘に決まってるじゃない。大人だって3日も生けてはいけないのよ」
「いつからヒューマンも獣人もそんなに弱くなってしまったんだ。あの大戦ではみんな強かったぞ。特にゼロマは」
「ゼロマってこの獣人国を作ったって言う英雄さんの事でしょう。それってきっと誇張されて伝わってるのよ」
「何故そう思う」
「そんなのあり得ないわよ。たった一人で何千もの敵を倒したなんてさ」
「そうか、まぁそう思うのはかってだ。ではな」
そう言ってゼロは躊躇なく森の中に入っていた。初めはどうしようと思っていた女冒険者だから諦めたようにゼロの後をついて森に入った。
そこでまずゼロが始めた事は寝床の確保だった。これはサバイバルの基本だ。
「ねぇ、あんた。何してるの」
「見てわからんか。今寝床を作ってる」
「寝床って、まさかここで寝るつもりなの」
「ではお前は何処で寝るんだ。木の上か」
「そ、それはそうだけど、でもここじゃ魔物が襲って来るんじゃないの」
「その時はその時だろう」
「そんなの滅茶苦茶じゃない」
「帰りたければ帰っていいぞ。別にお前について来いと言った覚えはないからな」
「そんなの無責任じゃない。ここまで連れて来ておいてさ」
「うるさい奴だな。帰らないのならお前も早く寝床を作れ」
こうしてゼロはサバイバルの基本として森での寝床の作り方から教えた。勿論四方には魔物の嫌う匂い結界棒を設置しておいた。
それから食事の準備だ。魔物や動物の殺し方から血抜きをして解体。それに水の確保。
この女は本当に何も知らなかった。これで冒険者だと言ってるのだからその程度がわかる。
「ねえ、あんた。いつもこんな事して生活してるの」
「ああ、そうだ。だから別に食事に困る事も寝床に困る事もないし、みんなただだ」
「そうだろうけど信じられないわ。ヒューマンにこんな事が出来るなんて」
「お前らが軟弱過ぎるんだろう。冒険者なら出来て当然だ」
「こんな事の出来る冒険者なんて獣人でもいないわよ」
こう言う森での生活を繰り返しながら、昼間は兵士と戦いながらゼロは更に北西を目指した。
一方首都の右大臣の所では一向に片腕のヒューマンの餓死した報告が届かないのでハーライトはイライラしていた。
「本当に店や宿屋では飯を食わせてはいないんだな」
「はい何処でも食べ物を与えたと言う報告は一切入っていません」
「ではどうして奴は生きているんだ」
「はい、考えられる事は一つです。奴は森で生活してるのではないかと言う事です」
「冗談も休み休み言え、ヒューマンが、いや獣人だって森で3日も生きていられると思うか」
「無理かと思いますが、他に心当たりがありません」
「もういい、下がれ」
「はい」
こうなればやはり奴が昼間現れた時に殺すしかないだろう。
「もっと兵士を集めて奴が現れそうな所に配置せよ」
「右大臣閣下、それが最近こちらへの集まりが悪くなっているのです」
「何故だ」
「恐らくは奴の強さだと思います」
「何度、または何人兵士達をぶつけても全て返り討ちにされ誰も生きては帰って来ません。それで兵士達も恐れて戦おうとしないのです」
「クソーあのヒューマンめ、ならうちの四天王を出せ」
「出すのですかあの者達を」
「そうだ。それしか手があるまい。奴らなら簡単に倒して来るだろう」
「御意」
そして右大臣ハーライトの持つ最強の戦士四天王がゼロ討伐に向かった。
「俺達もまた随分と舐められたもんだな。俺達4人でたった一人のヒューマンを倒して来いとはよ」
「まぁ良いじゃないか。特別手当が出るんだしよ」
「それも結構な額だ。それに遊びと思えばいいじゃないか」
「それもそうか。ところでそのヒューマンってどんな奴なんだ」
「首都の行政館襲撃の首謀者で指名手配のヒューマンらしい」
「なるほど、なら殺してもいい訳だ」
「ああ、生死を問わずとあったからな」
「ところでそいつは強いのか」
「さーどうかな。ただ今まで生き延びてる所を見ると少しは出来るのかも知れんな」
「しかし所詮はヒューマンだろう。片手で十分だろう」
そんな事を言い合いながらゼロの元に向かっていた。
「あ、あのさー大変よ。さっき町で情報を仕入れて来たんだけどさ。今回の指名手配の討伐に四天王が抜擢されたんだってよ。これでもう終わりだと町の住民は言ってるわ」
「四天王、何だそれは」
「この獣人の国で一番強い奴らよ」
「どれ位強いんだ」
「それがさ兵隊500人位を一人で殺しちゃうそうよ。それ位すごいんだから。あんたもこれでもう終りかもね」
「何だ嬉しいのか」
「そんな訳ないでしょう。心配してやってるのよ」
「それではその四天王の顔でも見に行ってくるか」
「あんたね、何考えてんのよ」
そしてゼロはようやく四天王に巡り合う事が出来た。
「随分探したぞ。お前らを」
「何、探しただ。逃げ回ったの間違いじゃねーのか」
「四天王でいいんだな。それで誰から来る。それとも4人一緒にか」
「おい、こいつちょっとおかしいんじゃないのか。彼我の力の差が見えないらしい。おい、コンラートちょっと遊んでやれ」
「俺か、まぁいいか。おい、ヒューマン遊んでやるから殴って来いよ」
「いいのか俺から殴って行っても」
そう言ってゼロは普通にそのコンラートと言う獣人に近づいて、ゆっくりとパンチを顔面に放った。
普通なら目をつぶっていても避けられるクズパンチだ。途中まで来たので避けようとした時にはもう命中していてコンラートは数メートルを吹っ飛ばされていた。
これには見ていた他の四天王達も驚いた。一番驚いたのは当の本人だろう。
「てめー何をやりやがった」
「ほー四天王と言うだけあってちょっとは丈夫なんだな」
「だからてめー、何をやったかと聞いてるんだよ」
「お前の言った通り殴っただけだ。何ならもう一発行くか」
「おもしれえ、殴ってみな」
今度こそはと身構えてゼロは殴る構えを取った時にはもう当てられていた。今度もまた数メートルをぶっ飛んだ。それに今度は大分ダメージがあった。足がふらついていた。
「ほーまだ立てるのか。それなりには大したもんだな」
「コンラート、遊びはもういい。やれ」
「おーよ」
コンラートと言われた男は両手に突起の付いたガンレットを嵌めてゼロを殴り殺しに来た。
右のストレートパンチを外側ギリギリでかわし交差しながら右手拳をコンラートの腹に当てそのまま勁を放った。
今度は後ろに吹っ飛びはしなかったがその場で固まった様になってその後崩れる様に倒れてもう立ち上がって来る事はなかった。
「これで一丁上がりだな。次は誰だ」
「貴様、コンラートに何をした」
「何をしたって、さっきと同じだ。突きを当てただけだ。ただし今度は死んだがな」
「馬鹿な、そんな事があってたまるか。しかもあの丈夫なコンラートがだと」
「どんなに丈夫な獣人にも急所と言う物はあるんだよ」
「貴様、拳闘士の達人か」
「では次行こうか」
流石の四天王も少し慎重になったがそれでもまだヒューマン程度がと高を括っていた。
二番手に出てきたのがニクラスと言った。彼は魔法が得意な様だ。ただ獣人で魔法が得意な者は比較的少ない。
最初からファイアーボール、ファイアーランサーと積極的に攻めて来た。恐らくは接近戦に持ち込ませないた為だろう。
ゼロは最低限の動きでそれらをかわしていた。それならと10個同時に仕掛けて来たがそれも簡単にかわしてしまった。
「そんな物か、もっと強力なのはないのか」
「いいだろう、特大魔法で消し炭にしてくれるわ」
そう言ってファイアーフレームと言う特大の火炎魔法を放って来たが、この程度では到底特大と呼べるようなものではなかった。
ゼロが手をかざしてその火を消し飛ばしてしまった。
「ば、馬鹿な、あの特大魔法を片手だけで消すだと」
「何を言ってる。俺は片手しかないから当たり前だろう」
「そ、そんな事が信じられるか」
「お前それでもこの国最強と言われる四天王か、昔の四天王の方がもっと強かったし、ザームエルの火炎魔法はもっと強かったぞ」
「ザ、ザームエル様だと。それは伝説の四天王様のお一人ではないか」
「しかしあいつも魔族に負けたがな」
「何故それを知っている。それは誰も知らないはずだ」
「お前の火炎魔法など、あいつの足元にも及ばんぞ」
そう言った時には縮地でゼロはもうニクラスの懐に入っていた。そして同じ勁で倒した。この動きは他の四天王には見えなかった。
後二人だ。
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