第21話 首都反乱

 今回の首都の防衛軍の壊滅はスタンピードと戦い、首都と都民の生命を守った勇敢な行為だったと美化されて幕を下ろした。その真実を知る者はほんの一握りだった。


 その頃ゼロと別れた遊撃騎士団は報告の為指導部を訪れていた。この遊撃騎士団を統括していたのは左大臣だった。


 そしてそれは左大臣に報告している最中に起こった。情報部員が突然に現れ、お逃げくださいと言った。


 どうしたのだと言う左大臣の問いに、ハーライト様が反旗を翻されましたと言った。


 つまりハートライト捕縛の為に向かった情報部員たちの前に待っていたのはハートライト子飼いの兵士達だったと言う。


 どうやらハートライトはこう言う成り行きもある程度予測していたのだろう。いや、それ以前に3万の兵を出した時から計画していたのかも知れない。


 今なら首都の中心にある行政館の守りも手薄になっている。それはハーライト側にも言える事だが、だからこそ自分の領地から私兵を連れてきていたのだ。


 どうやらハートライトはこの時に首相と左大臣を倒して政権を奪い取る計画だったのだろう。


 幸いと言うか偶然にも遊撃騎士団が来ていたので辛うじて彼らが首相と左大臣の護衛に回った。残念ながら隠密部の実権はハートライトに握られていた。


 その為遊撃騎士団と隠密部隊との間で激しい戦いになった。しかも周りからはハートライトの兵達が攻め入っている。


 これではいくら遊撃騎士団が強かろうとやはり多勢に無勢と言う事になる。


 追い詰められた首相達は最後の手段として代々の首相にだけ伝えられている瞑想の間に入った。


 ここには聖地につながる転移魔法が施されてあった。そしてその作動法は首相にのみ伝授されていた。


 ここは一時撤退もやむなしと首相と左大臣を守った者達も含めて全員が聖地に転移した。


 国の中心部でこんな転覆劇が起きていようとは都民の誰一人として知る者はいなかった。

 

 ゼロはその頃いつもの様に薬草採取をやっていたが、周りに隠れながら様子を見ている者達の事は既に感ずいていた。


「お前らそんなに薬草採取に興味があるのか。言っとくがこれは安いぞ」

「ほー気づいていたか。しかしそんな安い物じゃ稼ぎにはならんだろう。だから我々のクラウンに入れ。そうすればもっと稼がせてやるぞ」

「それはもう断ったはずだ。冒険者は自由な職業だ。俺が一人で何をしようがお前達には関係がないだろう」


「ふん、ヒューマン風情が笑わせるな。お前らは俺達の庇護なしでこの首都で生きて行けるとでも思っているのか」

「ほーヒューマンの冒険者を奴隷の様に引き込んでクラウンの勢力増強か」

「馬鹿め、ヒューマンなぞ戦力にはならんわ。ただ色々と使い道があってな。ただし断ると言うのならここで死んでもらう事になるがどうする」


 この時ゼロを取り巻いていたのは4人、一人は例のヒューマンの女だったが後は獣人の冒険者達、それもCランクはあるようだ。


「何度も言わせるな。邪魔だ消えろ」

「いいだろう、なら死ね」


 まず一人が襲ってきたがこれを軽くあしらって蹴り飛ばした。それだけでその獣人は死んでいた。


「き、きさま、一体何をした」

「ただ蹴っただけだ。獣人と言うのはそんなに軟なのか」

「おのれーおい、一緒にやるぞ」

「おお!」


 威勢だけは良かったが半分は腰砕けになっていた。まさかヒューマンがこんなに強いとは考えてもみなかったのだろう。


 一人はどうやら魔法を使うようだがファイヤーフレームはゼロの手前でかき消されていた。その男は信じられない物でもみる目でゼロを見ていた。


 もう一人は剣に支援魔法をかけて炎の剣にしてゼロに切りかかったがそれを手で握り止められてしまった。


「お、お前それは何をしている。この炎の剣を手で握るだと。そんな事が出来る訳がないだろう」

「ほーこれは炎の剣と言うのか、俺はまた温めた木剣かと思ったぞ」

「ば、馬鹿な。例え燃えずとも俺の一刀を受け止めるなど」

「こんなもの子供でも出来るぞ。お前も修行が足りんな」


 そのまま蹴り飛ばされてこの男もまた命を絶った。


「ま、待ってくれ。俺が悪かった。もうお前を襲う事はしないから許してくれ」

「お前は今までこうして何人のヒューマンを殺して来た。時には自分が殺される事もあるとは思わなかったのか」

「そ、そんな」


 ゼロの鉄拳がその男の顔面を襲った時、顔が爆裂して首から上が消失していた。


 それを見た女のヒューマンは腰を抜かして地面を濡らしていた。


「あ、あ、あんたは一体何者なの」

「それはお前が一番良く知ってるだろう。Eランクの冒険者だ」

「そ、そんな訳あるはずがないじゃない。この男達はみなCランクなのよ」

「なら修行をなまけたんだろう。ちゃんと修行をすれはヒューマンだって獣人より強くなれる」

「そんな話は聞いた事がないわ」

「それはお前も修行をしていないからだ。俺のパートナーだった7歳のヒューマンの子供はこいつらより強かったぞ」

「そ、そんな・・・」


 その時ゼロは首都の中心部で大きな魔力を感じた。


「お前に構ってる時間はなくなった」


 そう言ってゼロは超高速移動を使って首都の中央の館、魔力が放出した所に向かった。


 この時このヒューマンの女はゼロが瞬間移動でもしたのではないかと思った。しかしそんな魔法の使える魔法使いは今の世界には誰もいない。


 ゼロがその建物に辿り着き、中に踏み込んでみると中は戦場の様になっていた。


 そこいらじゅうに遺体が転がり、剣を手にした兵士達が走り回っていた。


 中にはゼロを見つけて襲い掛かって来た者もいたが直ぐに蹴り飛ばされた。


 奥の部屋で震えて固まっている者達がいた。恐らく彼らは事務職だろう。ゼロがその中の一人を捕まえて事情を聞くと、右大臣様の反乱があって、首相と左大臣様が殺されかかってると言った。


 つまり今館の中で剣を握って走り回っている兵士達は右大臣の手の者と言う事になる。なら殺しても問題ないだろうとゼロは魔力の起こった上の部屋に向かった。


 途中で何人もの右大臣の兵士に出会ったが片っ端から殲滅して行った。正直戦いにもならなかった。


 ゼロは最初の迎撃隊との戦闘の時にも感じたが今の獣人の力は弱過ぎると。ゼロとゼロマが鍛えた獣人達はこんなに弱くはなかった。少なくともこの10倍は強いはずだと。


 それは恐らくこの100年戦争もなくただ怠惰に修行を怠っていたからだろう。しかも魔物とも戦った経験もないようだった。


 これでは国が弱って腐って行っても仕方ないなとゼロは思っていた。ただあの遊撃騎士団だけはまだ期待出来そうだとゼロは思った。


 ともかく出会う敵は全て殺して最上階に辿り着いた。そこではまだ何人かの兵士達が部屋の中を探し回っていた。


「よう、何してる」

「貴様こそここで何をしておる。貴様はヒューマンだな、ヒューマンがここに入って来れる訳がなかろう」

「お前らみたいな反逆者が入って来れるんだ。俺が入って来てもおかしくはないだろう」

「何を訳の分からぬ事を言っている。おい、みんなこいつを殺せ」


 その数秒後には全員が息絶えていた。


「さてこの部屋か。何が起こった。かなり大きな魔法の発動があった様だが、周りには何の被害が出ていないと言う事は、攻撃魔法でも結界魔法でもないと言う事か。

なら何だ。・・そうか移転魔法か。ここから何処かに移転したのか。恐らく使ったのは首相と左大臣とか言われている奴らだろう。なら行き先は何処だ。

彼らが行くとしたら。まさかな、いや、それしかないか。俺とゼロマとで作った獣人国カールか。いつかは行ってみないといけないなと思っていた所だ。行ってみるか」


 そう決めるとゼロはまず冒険者ギルドに戻って薬草を納品して依頼報酬をもらった。それからっしばらく旅に出ると言ってギルドを出た。


 すると表にはさっきのヒューマンの女冒険者がいた。


「お前こんなとこで何してるんだ」

「何してるって、どうしてくれるのよ」

「何がだ」

「何がじゃないわよ。わたしはどうしたらいいのよ」

「知るかそんな事、好きなようにしろ」


「だって、だって、あんな事報告したらわたしは殺されるわよ」

「なら報告しなければいいだろう」

「そんな事出来る訳がないじゃない。3人も死んでるしわたしも一緒にいたのよ」

「ならそれも黙ってればいいだろう」

「一緒に行って黙ってられる訳がないでしょう」

「それはお前の問題だ。俺の知った事ではない」


 そう言ってゼロはこの首都から離れて行った。


 一方首都の行政館の制圧を確認した右大臣のハーライトは行政館に戻って来た。しかし中の惨状をみたハーライトは「これは一体どう言う事だと」怒鳴り散らしていた。


 何故なら死体はどれも自分の子飼いの兵士達の者ばかりだったからだ。


 他の兵士の説明で左大臣側には遊撃騎士団が付いて抵抗にあったと報告した。


「そうか、あいつは遊撃騎士団を統括してたんだったな。しかも今は北地区の巡視を終えた一組が報告に帰っていたと言う事か。まぁいいどうせ30人程の小隊だろう。いつでも潰せるわ」


 しかしそれにしても首相と左大臣の消息が掴めない。それも気になる事だがそれよりもこれ程自分の兵士達を殺したのは誰なのか。


 部下の報告によりあれは片腕のヒューマンがやったと言う報告を受けた。その報告を聞いた途端、ハーライトは瞬間寒気がしたが自分を奮い立たせて策を考えた。


 その時ハーライトの腹心の部下マルコが如何いたしましょうと聞いて来た。


「そうだマルコよ、良い方法があるぞ。その片腕のヒューマンを今回の行政館襲撃の首謀者として全国に指名手配を回せ」

「なるほどそれはいい考えですね。しかしあ奴は首都の迎撃隊1,000をたった一人で倒した強者です。一般の兵で討ち取れましょうか」


「それはどうでもいいのだ。こうすればあ奴は何処の町でも追われ食事さえ出来なくなるだろう」

「なるほど、ある意味兵糧攻めですな」

「そうだ、如何に強者と言えども食わずには戦えまい。その内に音を上げよう。その時に討てばよい」

「承知いたしました」


 こうして首都襲撃の首謀者としてゼロの指名手配が全国に配布された。

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