第18話 獣人国の歴史と首都サルーン

 ゼロは考えていた。自分達がやった獣人の国造りは間違っていたのだろうかと。


 ゼロは改めて獣人国の成り立ちを思い出していた。


 初めはウサギの小さな村で、ウサギ達の自主防衛の為に色々な格闘術を教えた。特にゼロマは同族だったので自分の仲間が傷つくのは見たくなかったのだろう。


 そしてゼロマは自分が奴隷だったと言う経歴を持っていたので余計に不条理な圧政には耐えられなかったのだ。


 それと共にゼロは村の近代化を図った。残念ながら森で住む獣人達にはその様な知識は何一つなかった。だからゼロが前の世界の知識を用いて一から教え建設した。


 それと共に力で負けた他部族達がウサギの村の庇護下に入りたいと参加して来た。しかしこれは決して強制したものではなかった。あくまで自由意志だ。


 やがて村は大きくなり、村から町へと規模を変えて行った。するとそれを好ましく思わないヒューマン達の侵略が始まった。


 それは同じガルゾフ共和国の貴族であり王家だった。彼らは何度も侵略を繰り返したが悉くゼロの戦略によって退けられた。


 当然獣人の町の住民と町を守る為にゼロマは戦い力を貸した。そして敵国の獣人奴隷の開放も行った。


 それに憤慨した国王はゼロとゼロマを国の指名犯に認定し手配書を配布して至る所に圧力をかけた。


 そんな事にめげるゼロではないのでゼロマと共に王城に乗り込んで逆に王を脅して指名手配を撤回させた。


 そして最終的にゼロはこの戦いに勝利し獣人の町と人族の国との間に不可侵条約を結ばせた。そして獣人の町は獣人国へと変貌した。


 今度はそれを良く思わないもう一つの獣人の国が侵略を開始して来た。これもことごとくを撤退させると今度は相手は核戦略ミサイルを使ってきたのでゼロが虚空の彼方へ回避させて、ゼロとゼロマで敵の獣人国を倒しに行った。


 そしてその国の四天王と国王を倒して獣人の国とは姉妹国条約を締結した。


 この頃からゼロは獣人国カールの歴史から姿を消すようにした。英雄ゼロマの評判が上がれば上がるほど、獣人国の設立にヒューマンのゼロが携わっていては何かとやり難いだろう。だからこの時はゼロの方から身を引いた形になった。


 その後もゼロとゼロマは奴隷を開放する為に奔走した。その為に奴隷を有する裕福な者や国からは敵視されていた。


 やがてもう一つの獣人国カサールと国境を接する聖教徒法国の小さな町で小競り合いが起こり、それがやがて大きな戦いへと発展していった。


 それに乗じてガルゾフ共和国の貴族軍の侵攻と言う事で再び獣人国カールとの間で戦争の火蓋が切って落とされた。それは数十万にも達する貴族軍の侵攻だった。


 積極的に獣人国の殲滅を狙っていた聖教徒法国はヘッケン王国に共闘を求め二局面方向からの進軍に入った。


 この時獣人国カールはこの獣人国カサールと姉妹国条約を結んでいたので、カサールの要請に応じて援軍を送った。


 そして北では獣人国カールとガルゾフ共和国との闘い、西と南では獣人国カサールと聖教徒法国とヘッケン王国の合同軍との戦いになった。


 これはもはや大陸の三大大国と二大獣人国との歴史に残る大戦だった。


 ただこの時ゼロは大天使エルリカや最強の魔物と言われる神獣破滅竜と戦っていたので積極的にはそれらの戦いに参加する事が出来なかった。


 いや、むしろ参加しなかった。これはゼロマ達、獣人の尊厳を賭けた戦いだと思ったからだ。


 この間にゼロマはゼロの流派の先輩、超Aランク冒険者「カリヤスの剣」と獣人とヒューマンの行く末をかけて戦い、辛うじて引き分けて「カリヤスの剣」達は大陸を離れて東の孤島に行くと言った。


 そしてゼロは最後の神の最強の刺客、ミレと戦う事になった。


 ミレは聖教徒法国の護神教会騎士団団長だが、神より『神の聖戦士』を任命されてゼロと戦う事になった。この時ミレは神に洗脳されていたと言ってもいいだろう。


 何故ならミレに取ってゼロは小さい頃より共に歩んだ友でありパートナーであり、師であり父でもあった。神はそれでも戦えと言う。そしてゼロはミレとの戦いで片腕を失った。大した成長だ。


 その戦いに割って入ったのがゼロマだった。ゼロマは同門の大先輩であり、姉とも思うミレに刀を収めるように嘆願したが聞き入れてはもらえなかった。


 そしてゼロマとミレは同門対決の末、どちらも同じ最大、最高の最終奥義、波動拳烈破を出すも引き分けに終わった。


 この戦いを見たゼロは双方に波動拳の免許皆伝を授け、ミレとの最後の戦いに挑んだ。


 そしてゼロマもミレもまだ見た事のないゼロの最終闘法、闘気法を使ってゼロはミレ共々この世から姿を消した。


 ゼロを失ったゼロマはそれでもゼロが生きていると信じでゼロの最後の言葉『神の悪意は俺の全能力を持って防いで見せる。ピョンコ、お前は仲間と力を合わせて住み良い世界を作れ。それが生きると言う事だ』を達成するべく東西南北に獅子奮迅し、遂に獣人に勝利をもたらした。


 大陸からヒューマンの支配が消え、獣人の国は一つとなって一大獣人国キングサルーンと言う国を作った。


 そしてゼロマは英雄神と崇められ獣人達の救世主となって獣人国の精神的支柱となった。


 それから100年、獣人国キングサルーンはヒューマンの三大大国を全て飲み込んで今日まで大陸に君臨し続けた。


 この頃にはゼロの名前は完全に獣人史から消滅させられゼロの事を知る者はもう誰もいなかった。


 ゼロマは戦後100年で尊敬と共に家族と皆に惜しまれながらこの世を去った。


 この100年間でこの獣人国はゼロとゼロマが望み期待した国になったのだろうか。


 いや違う。何かが狂ってきている。そうゼロは思った。確かに奴隷制度はゼロマの力で廃止となった。


 しかし獣人達がヒューマンに対して抱く精神的奴隷化思考は衰えるどころか益々酷くなっている。それはソリエンの町でもゼロに対する態度を見ればよくわかる。


 ましてあの様な「居留地」などは考えてみれば奴隷以上にヒューマンを陥れそこで住む者の生きる自由をも奪うものでしかない。こんな物をゼロマが望んだとはとても思えないしゼロも思わなかった。


『俺達はこんな国を作る為に戦って来たのではない』


 確かに戦争と言うものは過酷なもので無慈悲なものだ。それはゼロ自身がその世界で生きて来た傭兵だからよくわかる。


 戦争は大人にも子供にも分け隔てなく死を振りまいて行く。戦争は誰が悪い悪くないではない。生きる為には殺さなければ生きられない。それが戦争だ。


 人の性とは、いや生きる者の性とはこうも無情で、貪欲で、狂気を含んだものだと言う事が良くわかる。


 しかしそれでも戦後の処理次第では生き者の望みは繋げられるはずだ。戦勝国と敗戦国、その両国の差をどう埋めて行くのか。それが施政者の技量と言うものだろう。


 ゼロマが苦心したのもそこだと思う。ただ残念な事にゼロは今回の戦争の初期段階から援助も助言もゼロマにしてやる事が出来なかった。


 そしてゼロは100年の眠りについていた。本来こんな事はゼロには関係のない事だ。獣人とヒューマンの間で何とかすればいい。


 しかしそれでも今回の事だけはゼロマの為にも尻ぬぐい位はしてやらなければならないだろうとゼロは思っていた。


 そして今回の根本的な問題の解決策が何処にあるのかゼロには凡そ分かっていた。


 『俺の面子を潰した報いは受けてもらおうか獣人国の屑ども』


  今の獣人国の実態を知るにはやはり王都、今で言うなら獣人国キングサルーンの首都に行った方が分かりやすいだろうとその首都に向かった。


 そこはかってのヘッケン国の王都のあった所だ。そこをキングサルーン国の首都サルーンとして使っている。


 獣人国の発祥の地はガルゾフ共和国の西にある「ブリッツの森」の中だ。ゼロとゼロマはそこのウサギ族の村にカールと言う町を作った。


 これが獣人国カールの発祥の地になっている。そこは今では聖地と呼ばれゼロマの館とゼロマに関する資料館があり、今でも戦闘員はここで修行をする習わしになっていて、その戦闘員達は年に一度聖地巡礼としてそこを訪れる。


 『今はその聖地はまだいい。まずは首都のサルーンだ。鬼が出るか蛇が出るか、まずは行ってみるか』

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