第12話 居留地の冒険者ギルド
『この町からの二度目の冒険か。なんだか懐かしいな』
ゼロはソリエンの町を後にしながらそんな事を考えていた。さてこれから何処に行くか。まぁ気の向くままでいいかと。
ただ今のこの世界は確かにヒューマンには住み難い世界になっている。ただ全ての所がそうだと言う事ではない。
この前に行った中央モラン人民共和国は今でもまだヒューマンの国だ。そして後大きな国と言えばドイケル帝国がまだヒューマンの国だと言う事だった。
その他周辺にある小さな国々はまだヒューマンの国だと言うがそれらの国では到底獣人国には逆らえない。今はそんな状況らしい。
折角今は獣人の国にいるんだからもう少し獣人の国を楽しんでみるかとゼロは思っていた。
普通の人間なら獣人の国で楽しむと言う発想は決して浮かばないだろうがゼロとはこんな男だった。
少し歩いていると右から来た道と合流して道幅が広くなった。これなら普通の街道としても十分通用する広さだ。それに馬車の通った跡も結構ある。
恐らく商業用の荷馬車もここを多く通っているんだろう。そんな事を思いながら進んでいると突然数人の男達に取り囲まれた。
全部で8人か、それも皆ヒューマンだ。なんだか昔を思い出すなとゼロは思っていた。
「何だお前らは」
「黙って有り金全部おいて行け。そうすれば命だけは助けてやる」
「なるほど、お前らは追いはぎか。しかしお前らはヒューマンだろう。なら何故同じヒューマンを狙う。獣人を狙えばいいじゃないか」
「馬鹿かお前は、ヒューマンの方が弱っちいから狙い易いに決まってるじゃねーか」
「情けない奴らだな。追いはぎになってもまだ獣人には盾突けないのか。100年経ってもまだ敗戦国民の負け犬根性から抜け出せてないみたいだな」
「う、うるせー、早く出しやがれ」
「嫌だと言ったら」
「かまわねーやっちまえ」
瞬く間に全員が地に這わされていた。リーダーらしき男はまるで信じられない物を見るような目つきで地面の上からゼロを見上げていた。
「何故だ、何故片腕の癖にそんなに強いんだ」
「それはお前らが鍛錬を怠っているからだ。鍛えればヒューマンはもっと強くなれるんだよ」
そしてその男の腹を踏んずけて質問をした。踏まれた男は今にも腹の中の臓物を全て吐き出しそうに苦しんでいた。
「た、助けてくれ。いや、お助けください。もう二度とこんな事はしませんので」
「それは悪人の常套句だな。そう言って改心した奴は今まで一人もいない」
「そ、そんな事はありません。本当に改心いたします」
「ところでお前らはヒューマンを狙ってるようだが、こんな所をヒューマンが通るのか」
「旅人は少ないですがヒューマンの荷馬車は良く通ります」
「荷馬車狙いか。しかし普通そう言う物には護衛が付いてるものだろう」
「へい、ついてます。ですから強そうな護衛のいる荷馬車は狙いません」
「その護衛と言うのは獣人なのか」
「いいえ、やはりヒューマンの護衛が多いです」
「何故だ、獣人の方が強いんではないのか」
「そうですが、獣人の護衛は値段が高いんです。それに高飛車だし」
「それでヒューマンの荷馬車はヒューマンの護衛を雇うと言う事か」
「はい」
「この道の先には何がある」
「はい、以前はアテリアと言う町があったんですが、今はソリエンの居留地と言われる町になってます」
「何だそのソリエンの居留地と言うのは」
「はい、ずーっと昔にソリエンに住んでいたヒューマン達がみなここに移転させられたそうです」
「それで居留地か。そこには獣人の代官の様な者はいるのか」
「はい、町全体の管理はその獣人の町長がやってますが、居留地の中はヒューマン達で自主管理されているようです」
「ほーそれは面白いな、行ってみるか」
そう言ってゼロが背中を向けて歩き出すと、そのリーダーと仲間がまたいきなり襲い掛かって来た。そして全員の首が宙を舞った。
『だから言っただろう。悪人は決して改心しないと』
ゼロはそれらの死体を超高熱手榴弾で灰にしてその居留地に向かった。
その居留地は追いはぎのリーダーが言ったように元アテリアと言う町のあった所だった。ゼロにしても一応は馴染みのある所だが今は随分と様変わりしてしまったようだ。
遠くから見ると町を取り囲む二重の防壁が見渡せた。何となく歪な形のドーナッツの様だ。
最初の防壁の入り口に行ってみると獣人の門番兵がいた。ゼロが門を潜ろうとすると、
「お前はヒューマンだな。居留地の者のか」
「いや違う。俺は旅の者だ」
「なら帰れ。ここには旅行者は入れない」
「冒険者ならどうだ。冒険者に国の垣根はないはずだが」
「お前のランクは」
「Eランクだ」
「そうか、Eランクで片腕か。それなら問題にはならなだろう。よし入っていいぞ」
どうもおかしな取り扱いだなとゼロは思った。一応冒険者は入れてくれるようだが、高ランクの冒険者には注意しているようだ。もしかすると高ランクなら入れてくれなかったかもしれないなと思った。
ともかく中に入ってみたが、ここは本当の町とは言えなかった。ただの防壁と防壁の隙間にある兵隊の駐屯所に様な所だった。
ただ中心部に当たる所には若干の家々が立ち並び、一際大きな建物があった。恐らくあれが町長と言う者の館なんだろうと当たりをつけた。
幸いその周りには露天商の様な店が並んでいたので、その中の串焼屋で3本ほど串焼きを注文した。味は決して悪くはなかった。これなら合格点を出せそうだ。
「おばさん、この串焼き旨いな」
「そうかい、それは嬉しいね。あんた冒険者だろう」
「何でそう思うんだ」
「ここは枠外だからね。あたしらみたいに中で住んでる者はこの中を歩き回れないんだよ。それにここには観光客も旅人も入って来れないからね。入って来れるのは冒険者と商売の荷馬車だけさ」
「なるほど、そう言う事か。でもあんた達は店を出してるじゃないか」
「あたし達はね。ここの町長から出店の許可書をもらってるのさ。だから外枠で商売が出来るって寸法さ」
「そうか。ところでこの中に冒険者ギルドはあるのか」
「ある事はあるけどさ、大した依頼はないよ。冒険者のレベルも低いからね。悪いけどあんたもだろう」
「確かにそうだ。ここには高ランクの冒険者はいないのか」
「そう言うのは中で聞いてくれないかね」
「ああ、わかった。そうしよう」
多分ここでは話す言葉にも色々と制限が掛けられているんだろうと察したゼロは中の冒険者ギルドに向かった。
壁の中は昔のアテリアのままだった。ギルドの建物は大分古びれてはいるが昔とそれほど変わってはいなかった。ただ所々修理の後は見られた。
「どのようなご用件でしょうか」
「冒険者カードの登録をしたいんだが」
「承知いたしました。外から来られた方ですよね。どちらからいらっしゃいました」
「今までソリエンで冒険者活動をやっていた」
ゼロがそう言った途端、受付嬢の目が驚きで見開き、周りの冒険者達も驚きを隠せないようだった。
「どうかしたのか」
「いえ、ソリエンと言われましたので。あそこは獣人の町ですし、冒険者も獣人しかいないと伺っておりましたので」
「だろうな。ヒューマンの冒険者は恐らく俺一人だろう」
「そんな所でよく活動が出来ましたね。きつくなかったですか」
「今の世の中なら何処でも似た様なものだろう」
「た、確かにそうですね。で、ランクは何でしょう」
「俺はEランクだ」
「わかりました。ではカードをお預かりいたします」
「ここには魔物の討伐依頼と言うのはあるのか」
「ある事はありますが、ランクに見合った討伐しかありません」
「ここには高ランクの冒険者がいなうようだが」
「はい、Dランクが最高になります」
「ではそれ以上の魔物が出たらどうするんだ」
「その時は表の兵士達が対応いたします」
「それでも対応出来ない魔物の場合は」
「恐らく撤退するでしょう」
「ここを残してか」
「はい、ここはそう言う所ですから。出来れば早めにこの町を離れられた方がいいと思います」
「了解した。それと薬草採取の依頼はあるか」
「それなら結構あります。私達も薬草が不足しておりますので」
「ではしばらく薬草の採取をしたいんだが、この町で泊まれる所はあるだろうか」
「特に宿屋と言うのはありませんが、食事処の中には上に部屋を持ってる所もありますので、そう言う所なら泊まれると思います」
「では一つ紹介してもらえないだろうか」
「わかりました。若鳥亭と言うのがいいと思います。ここを出て左に50メートルほど行くと四つ辻がありますのでそこを左に曲がった先にあります。鳥の看板が出てますので直ぐにわかると思います」
「ありがとう。ではまた後で」
礼を言ってゼロが冒険者ギルドを出ると、その後をつける男が一人いた。
その男はさっきのギルドのバーカウンターの奥で酒を飲んでいた男だった。
ゼロには初めからゼロの方を意識していたのはわかっていたので当然つけて来るだろうとは思っていた。さてどの辺りで対処したらいいものか。
ゼロが四辻を左に曲がったのでその男も左に曲がったらもうゼロの姿はなかった。男は慌て左右をキョロキョロと探し回っていたが見つからなかった。
その時急に後ろから声を掛けられて男は心臓が飛び上がるほど驚いた。
「どうする、俺の塒までついてくるつもりなのか」
「何の事を言ってるのか俺にはわからないが」
「そうか、それならお前の雇い主にこう伝えてくれ。あの男は薬師で薬草採取が専門なのでご心配いりませんと」
そう言ってゼロは若鳥亭に入って行った。
男は驚いていた。男の職業はシーフで尾行や隠避は得意だと思っていたのにあっさりと見破られてしまった事に。
しかしこの男、もう少し冷静な観察眼があったら自分がどう言う男を相手にしていたのか分かっただろうに。
先行する男を付けて角を曲がったらもういなかった。それなのに後ろから声を掛けられた。これがどう言う事なのか、この男にはわからなかったようだ。
ゼロはこの若鳥亭で、取り敢えず1週間の予約を頼み前金を払っておいた。後は夕食を食べてからゆっくり考えようと思っていた。
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