第10話 ソリエンのスタンピード
ゼロがソリエンの町に帰り着いた時、町が何故かざわついていた。
そこでゼロは冒険者ギルドに行ってその事情を聞いてみようとギルドに入ってみると、そこでは更に慌ただしい動きになっていた。
まるで今から戦に出るような。ゼロは受付に行って聞いてみた。
「これは一体どうしたのだ」
「あっ、ゼロさんじゃありませんか、良く帰って来てくださいました。是非ご協力をお願いします」
「何が起こってる」
「はい、スタンピードです」
「スタンピードだと。規模は」
「およそ2,000から3,000と聞いてます」
「どれ位でここに来る」
「恐らくはあと3時間ほどかと」
「3時間か。あまり時間はないな」
「はい、それで今参加してくださる冒険者の皆さんを募ってるところです」
「どれ位集まった」
「一応Dランク以上と言う事で50名ほどでしょうか」
「50対3,000か。とても足らんな」
「はい、でも希望はあります。今こちらにゼロマ遊軍騎士団の皆さんが向かっておられると言う情報が入りました」
「ゼロマ遊軍騎士団、何だそれは」
「ご存じないのですか。中央の誇る精鋭騎士団です。一騎当千と言われている皆さんです」
そんなものがあるのかとゼロは思った。それはゼロマが作った初期の戦闘ウサギ集団の延長線上にあるものなのか。
それとも後続部隊のウサギ防衛部隊やウサギ戦闘部隊の範疇に入るものなのか。
どちらにしてももしそれらが原型ならそこそこには期待出来るだろうとゼロは思っていた。
ただスタンピードの接触までにはまだ少し時間がある。そこでゼロは直ぐに子供達の所に向かった。まだ元気でやってるかと。
ゼロの建てた丸太の家に子供達はいた。
「おい、お前ら元気だったか」
「あ、ゼロさんだ。おーい、みんなゼロさんが帰って来たぞ」
「遅いよ、ゼロさん。長い事待ってたんだよ」
「悪い悪い。ところでお前ら話は聞いてるか」
「うん、何でも魔物がいっぱいこの町を襲いに来るんだって聞いたよ」
「そうだ。そこでだ。選択肢は二つある。一つは森に避難する事だ。ただしこれも確実に安全だとは言い難い。何しろ相手は魔物だ。森にだって入り込んでくるだろう。ただ魔物たちとは逆の方向に退避すればまだ助かる可能性はある」
「もう一つは?」
「それはこの町に残る事だ。これはかなりリスクが高くなる。この町が安全に守られると言う保証は今の所ない。どうしたい」
「うん、俺たちはここの貧民街の大人たちは嫌いだ。でもこの町は俺たちの生まれた町だからこの町と一緒にいたいと思うんだ。危険なのはわかってるけど。なぁみんな」
「うん。僕も」
「私もこの町を守りたい」
「そうか、よく言った。ならもし魔物達がこの町の中に入り込んで来たら、みんなで力を合わせて俺の教えた結界魔法を張って俺が来るまで待ってろ。出来るな」
「うん。出来る」
「俺達頑張るよ」
「ああ、それでいい。じゃ待ってろ、いいな」
ゼロはそう言って一つの準備をしてからまた冒険者ギルドに戻った。そこでクロシンに会った。
「おいゼロ、いつ帰ってきたんだよ。心配してたんだぞ」
「ああ、遅くなった。しかし今はこの町の心配だ。お前もスタンピード討伐に出るのか」
「ああ、ここは俺の生まれた町だしな。ここがなくなったら俺の居場所もなくなっちまうからな」
「そうか、ならついてこい」
そう言ってゼロはクロシンを連れて防壁の上に立った。あの土煙からすると距離は既に500メートルと言った所か。
門の左側の防壁の上では、遠距離魔法の使い手達が今か今かと攻撃の時を待っていた。
しかしあの様子では気が焦って早めに魔法を撃ってしまいそうな雰囲気だった。恐らくそれは恐怖からだろうがそれでは効果がない。
そこでゼロが指示を出した。
「お前ら、まだ魔法は打つな。今撃っても距離があり過ぎて効果はない。ともかくもう少し近づくまで待つ。最低でも100メートルまでは我慢しろ。そうしないとお前らの魔力が先に枯渇してしまうぞ」
ゼロの一言でやっと落ち着きを取り戻した様だった。そしてその時は来た。
「今だ、思いっきり魔法をぶっ放せ」
「おお!!!」
20名からなる魔法軍団の攻撃は魔物の先頭集団の足止めになった。先頭で潰された魔物に後方の魔物がぶつかり、最前線では魔物の混乱が生じていた。
「今だ、第二弾の攻撃を掛けろ」
魔物同士が潰し合ってる今こそが最高の攻撃チャンスだ。効果が倍増する。そこを狙われた魔物達は更に混乱が生じた。
しかしそれでも限度がある。流石に3,000もの魔物は倒せない。今の攻撃と後2-3回も撃てば魔力が枯渇するだろう。
だからゼロは魔力が低下してる者達に魔力ポーションをくばって行った。これでもう少しは持つだろう。
魔法軍団が魔力の補給に入ったその時に、ゼロの指示で門から出撃した冒険者達は魔法攻撃で弱っている魔物達の殲滅を開始した。
しかしゼロは決して深追いはするなと言っておいた。ある程度倒したら直ぐに撤退し、また魔法攻撃を始める。
このヒット・アンド・アウエイ攻撃がこの場合は最良の方法だとゼロにはわかっていた。我々の目的はあくまでゼロマ遊軍騎士団が到着するまでの時間稼ぎなんだから。
それでもじりじりと押され始めていた。やはり地力が違い過ぎる。魔法軍団もそろそろ魔力が切れかかっていた。これ以上は無理だろう。
ただ魔物達が防壁の手前20メートルまで来た時にゼロの仕掛けた手榴弾地雷が爆裂した。
横一線の区分区分に張り巡らせた糸に足を引っかけた時に安全ピンが飛んで爆発するように仕掛けてあった。
冒険者達は一体何が起こったのかわからずに驚いていたが、これで少しは魔物達の行進が止まった。しかしこれも一時しのぎでしかない。
後は肉弾戦あるのみと言う所まで来た時に、砂煙を上げて突き進んで来る騎馬の集団があった。
あの集団こそがみんなが待ち望んでいたゼロマ遊軍騎士団なんだろう。その隊列はそのまま魔物の群れに向かって突っ込んでいった。
その後はまさに蹂躙に等し殲滅振りだった。なるほどあれがゼロマの残したものか。よく出来ているとゼロは満足していた。
ただその中に一体、途方もなく大きな個体があった。あれは恐らくオークキングだろう。それに従う中位のオークソルジャー達が10体。
まぁオークソルジャー程度なら何とかなるだろうが、あのオークキングは難しいだろうとゼロは思っていた。
想像通り遊撃隊は果敢に攻めてはいたが一向に歯が立ってない。火炎魔法も体の表面が煤ける程度で直ぐに元に戻ってしまう。
ただ一人、恐らくあれがリーダーなんだろう。彼だけは何とか戦いになっていたがそれでも致命傷は与えられずにいた。
その内オークキングの持つメイズで殴り飛ばされた隊員達は一撃で起き上がる事さえ出来ずにいた。まだ死んではいないがそれでも今直ぐに手当てが必要だろう。
ここまでやれば上等だろうと、ゼロはブーメランを引き出した。そしてオークキングの首を狙ってブーメランを飛ばした。
それは弧を描くように上空を飛んで斜め後ろからオークキングの首をはねてゼロの手元に戻って来た。
恐らくこの軌道なら死角になって何処から攻撃されたのかもわからなかっただろう。だから防ぐ事も出来ずに一瞬で極まった。
ゼロは防壁から飛び降りて、直ぐに倒れている隊員の元に駆けつけてポーションを飲ませて回った。このお陰で誰一人死ぬ事はなかった。
「何処の何方か知らぬがご助勢感謝する。私はこのゼロマ遊軍騎士団のリーダーをやっているダッシュネルと言う者だ」
「いや、俺はこの町の冒険者だから当然の事をしたまでだ。あんた達こそこの町を救ってくれたんだ。こちらこそ感謝する」
「あなたはヒューマンなのか」
「そうだ、珍しいか。それにしてもあんたは驚かないんだな。それに毛嫌いもしないのか」
「まったく毛嫌いしないと言えば嘘になるが、個人的に敵意を持つ事はない」
「そうか、よっぽどいい指導者に恵まれたんだな」
「私もそう思う。ところであなたは?」
「俺はこの町の冒険者でEランクのゼロと言う者だ」
「いや待ってくれ、Eランクだと。あのオークキングを倒したのはあなたではなかったか」
「たまたまだ」
「あれはたまたまで倒せるような物ではないだろう」
その後ゼロマ遊撃騎士団のリーダーであるダッシュネルは町を救ってくれたとギルドマスターに何度も礼を言われていた。
そこに州知事も駆けつけて同じように低姿勢で礼を言っていた。このゼロマ遊撃騎士団のリーダーともなれば、格で言えば地方の州知事よりも上になる。
「ところでギルドマスター、あのゼロと言う冒険者は何者なのですか」
「ああ、あのゼロですか。正直私にもよくわからんのですよ。ある日ふらっとこの町にやって来ましてね。確かにランクはEですが実力は恐らくCランクはあるのではないかと思っているのですが」
「いや、もしかするとそれ以上かもしれませんね。Cランクでは一撃でオークキングは倒せないでしょう」
「ま、まさか、あのゼロがオークキングを倒したと言われるのですか」
「ええ、私の目の前できれいにね」
「信じられませんね。しかも彼は片腕ですよ」
「余程修練を積んだのでしょうね」
その後冒険者ギルドで討伐報酬が分配されたがこの時の最大の功労者は何と言ってもゼロだった。金貨で100枚を受け取った。
ゼロはその足で直ぐに食べ物を買って子供たちの元に戻った。
「おい、今戻ったぞ。ほれ食べ物だ。食え」
「はーい、いただきます」
「俺もいただきます」
「おい、お前ら手は洗ったか」
「いっけねーまだだった」
「洗ってこい」
「はい」
そこにやって来たのはクロシンだった。
「ゼロ、お前何やったんだ」
「何の事だ」
「あのゼロマ遊撃騎士団のリーダーと言う人にお前の事を色々と聞かれたぞ」
「それは俺がヒューマンだったので珍しかったからじゃないのか」
「そうなのかな」
「まぁいい、お前も一緒に食え」
「オッサンも手洗えよ」
「お前な、オッサン言うな」
こうしてゼロの所に日常が戻った。
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