第9話 人間界への帰還
ゼロがカロールの陣営に帰った時一人の兵が待っていた。
「ゼロ様、カロール様が今直ぐにお城に来るようにとのお申しです」
「城?何だその城と言うのは」
「ご存じなかったのですか。各将軍様は各自の城をお持ちなのです」
「へーあいつ城持ちになったのか」
「何か」
「いや、何でもない。ではそこに案内してくれるか」
「畏まりました」
ゼロがカロールの城に着いてみると、そこは四天王の城ほどではなかったがそれなりに立派な城だった。
まずはこちらへと言われて正式な謁見の間に通された。その正面にはカロールが将の座につき左右には側近達が並んでいた。
「何だここは。俺はこんな肩ぐるしいのは嫌いなんだがな」
「あんたね、あんたの為にあたしがどれだけ苦労したと思ってるのよ」
「将軍様、ここは」
「あっ、そうだったわね。ゼロ参謀長、ここで其方に対する論功行賞を与える。そしてまた其方には魔界英雄の称号も与える事とする」
「何だそれは」
「ふん、かさばる物でもなしありがたくいただいておけ」
「はは、有難く頂戴いたします」
本来これは西の四天王ソレイヤの元で行われるはずだったものだが、ゼロが欠席(トンずら)した為、カロールが代理で受理したものだった。
今回の功績に対し魔金貨50,000枚が渡された。これは前回の5倍の金額だ。そして魔界英雄の称号はこの2,000年もの間誰も受賞した者がなかったと言う。
「では授賞式は終わりとする皆の者ご苦労であった。解散」
「じゃーあんた、あたしの部屋へ行こうか」
「ほんと肩ぐるしいのは止めてほしいんだけどな」
「あたしだってこんな面倒臭い事はしたくはないわよ。でも周りの側近がうるさいのよ」
「お前も偉くなって大変だな」
「本当よ。昔に戻りたいわ」
「あのさ、あんた何もしなかったわよね」
「何の事だ」
「南の四天王のハルゲン様が敗戦の認識と誓約文を送って来たそうよ」
「何だその敗戦の認識と言うのは、そこは敗戦の受諾だろう」
「こんな事初めてなんだからこれで納得しなさいよ」
「で、誓約って?」
「ああ、それはここ当分人間界への侵略はしないそうよ」
「その当分と言うのはどれ位だ」
「まぁ魔界の認識だからね、短くて2-30年ってとこかしらね」
「2-30年ね。まぁいいか。来たらまた潰せばいいか」
「今なんか危なそうな事言ってなかった」
「で、あんたこれからどうするの」
「ああ、そろそろ帰ろうかと思ってる」
「どう、もうこっちに落ち着かない。お金もあるし名誉もあるし、何なら女の2-3人つけるわよ」
「いるか、そんなもの」
「やっぱりね」
「それとな、あの金はお前にやるよ」
「うそ、ほんとう、ほんとうにくれるの」
「ああ、あんな物持って帰っても向こうじゃ使えんしな」
「わーあんた気前がいいのね。それでいつ帰るの」
「そうだな、今からちょっと寄る所があるからそこの用事が済んだら帰る。その前に一つ頼みがあるんだが」
そしてゼロが立ち寄った所はかってグルゾーン将軍の従者をやっていたガルーゾルの屋敷だった。ガルーゾルは今では軍を引退して小さな村の領主に収まっていた。
「ようーガルーゾル、久しぶりだな」
「お。お前はゼロか。本当にあの時のゼロなのか」
「ああ、そうだ。お前除隊したんだってな。でもまぁ、元気そうで何よりだ」
「お前もな、だがその腕はどうした」
「ああ、切られた」
「ほう、お前の腕を切れるような者がいるのか」
「世の中広いからな」
「そうか、それで今回は何の用だ」
「実はな、お前に頼みがあって来た。お前も知ってるだろう今回の戦争の事を」
「ああ、聞いてる。それで」
「この西部地区で3人の将軍が亡くなった。それでその補充が必要になるだろう。それにお前に立候補してもらいたと思ってるんだが」
「俺に将軍になれと言うのか」
「そうだ。そして出来ればカロール様をサポートしてほしい」
「カロール様か。しかし何故俺なんだ」
「お前はカロール様とは親しいだろう。それにお前達は同期じゃなかったのか」
「それはそうだが、将軍は俺がなりたいと言ってもなれるもんじゃないぞ」
「それはわかってる。だからカロール様に推薦してもらえるように話はつけておいた。後はお前の気持ち次第だ」
「そうか、俺の気持ち次第か。なら一つ条件がある」
「何だ」
「もう一度俺と立ち会ってくれ。そして俺に勝ったらその話に乗ってもいい」
「たくー、お前もほんと脳筋だな。まぁそう言うの嫌いじゃないがな」
「なんだそれは」
「いやいい。わかった。やろう」
ガルーゾルの館の横にある広い空き地で二人は対峙した。そして戦いの火蓋を切ったがそれはもう常人の戦いを遥かに超えていた。将軍級の戦いとさえ言えた。
その途方もない魔力の放出に家人達は何事かと表に飛び出したが、その場に釘付けになってしまった。
正直な所一体何が起こっているのか、あまりに動きが速過ぎて目視出来ないが、途方もない戦いだと言う事だけはわかった。そして戦ってる一方が自分たちの主人である事も。
我が主がかってこれほどの戦いをした事があっただろうかと家人達は思った。もしあるとすれば100年前のあの模擬戦以来か。しかしこれはそのレベルをも超えていた。
数十合の打ち合いの末、遂にガルーゾルが膝をついた。
「参った。俺の負けだ」
「しかしお前、あの時よりも強くなったな」
「良く言うぜ、俺を負かしておいて」
「じゃーカロールの事、任せていいか」
「ああ、俺に出来る事はやってみよう」
「感謝する。ではな」
『あの野郎、今カロール様を呼び捨てにしてなかったか』
「お館様、あの者は一体何者なのでございますか」
「あれか、あれはまぁバケモノだな」
「バケモノでございますか」
『ああ、バケモノだ。あの野郎、あの状態でまだ本気を出してやがらねぇ」
ゼロはこれで全部終わったと魔界門に戻った。そしてその魔界門にはゼロが想像した通り、その周囲に魔粉石が配置されていた。
あの魔素球から魔力の供給を受けて魔力を増幅させていたんだろう。だからあの魔素球が壊れた今はその魔力の供給も止まり、通常の魔力値に戻ったはずだ。これなら魔界門の封印も可能だろう。
あれから何日経ったのか。ゼロは確か一ヶ月と言っていた。今日で何日目だろうか。
「クリップ、ゼロが魔界に入って今日で何日目になるかしら」
「今日で25日目でございます」
「そう後5日ね。まだ持ちそう」
「かなりキツイですね。やはりもうあの魔石を使って封印するより仕方ないかもしれません」
「そうなるとゼロが帰って来れるかどうかね」
「はい、しかしこちらの世界の安全にはかえられないかと」
「確かにそうね」
カラスもここまで来たら決断をしなければならないと考えていた。一人を犠牲にしても多くの命を救う為には仕方のない決断を。
「あっ、お待ちください。何かが出てまいります」
「悪魔なの」
「かも知れませんがこの魔力は・・・殆どありません」
「まったくもう、心配かけさせてくれたわね」
「カラス様、これは」
「大丈夫よ。見てなさい」
カラスの予想通り魔界門から出てきたのはゼロだった。出て行った時と何ら変わらないゼロの姿を見てカラスは安心した。
それからゼロの説明を聞いて魔界からの魔圧が下がった事も確認出来た。これなら安心して封印出来ると言うものだ。
ただゼロは魔界で戦争に加担して戦っていた事は話さなかったが、カラスはゼロが何か飛んでもない事を魔界でやって来たんではないかと疑っていた。
しかし結果さえ良ければ後の事はどうでもいいとして、後の処理を魔導士達に任せて、カラスはゼロを伴って王の元に向かった。
「今更王さんに会っても何もする事はないぞ」
「あんたこれは一応依頼なんだからね、報酬はもらっときなさいよ」
「そうか、そう言うのがあったか」
「あんた、それでよく冒険者やってるわね」
「いや、色々あり過ぎて忘れてしまった」
「あんた、魔界で何やってきたのよ。まさか魔界で魔将相手に喧嘩なんかしてないでしょうね」
「あはは、流石にそこまでは」
「怪しいわね、正直に白状しなさいよ」
本当は魔将どころかその上の魔界将軍さえ倒して、更にその上の魔界四天王の一人と喧嘩をしてきたとは流石に言えなかった。
この中央モラン人民共和国の今の国王はゼロの知る国王から三代目に当たる。まだ若い。18歳だった。この国王のお守役もやはりカラスがやっていた。
「その方がゼロか。其方の事はこのカラスから聞いておるぞ。よくやってくれた。これで我が国どころかこの世界が救われたも同じじゃ」
「それはどうも」
「それで今回の報酬だが大金貨200枚で良いかの」
大金貨一枚で金貨100枚に相当するので大金貨200枚と言えば金貨20,000枚と言う事になる。庶民には見た事もない大金だ。
「それで結構です」
「それとな、どうじゃこの国の貴族になる気はないか。爵位を授けるが」
「俺は冒険者なので、これからも冒険を続けたいと思ってますので」
「やはりな、カラスの言った通りであったな、しからばこれを受け取ってくれ」
そう言って渡されたのは王家の王君代理紋章だった。ゼロは前にも同じような物を何度かもらっている。
「しかしこんな物をもらっても今俺がいる所は獣人の国だから役には立たんと思うが」
「いいのよ。あんたはいずれこの国に来るわ。その時に役立ててくれればいいのよ」
「そうか、猫に小判にならなければいいが」
「なによそれ」
「いや、無駄にならなければいいがと言ったんだ」
「ではゼロとやら今後の事よろしく頼むぞ」
そう言って王との会見は終わった。
「おい、いいのかあんな頼りない王で」
「今はあれで良いのよ。あたいがちゃんとした王に育てるわ」
「それは、王さんも大変だな」
「なによそれ」
「いや、何でもない」
「それよりもこの国の魔法使いや魔導士をもっと鍛えた方がいいぞ。今のままでは並みの悪魔にも対応出来ん」
「その通りなのよね。だからあたいが王都に魔法学園を作ったのよ。将来の大魔法使いを育成しようと思ってね」
「それはいいが今はどうするんだ。お前位の魔法使はいるのか」
「そこまではまだちょっと難しいのよね」
「そう言えば昔、『薔薇の棘』のリーダーでグレスフラワーと言う魔法使いがいたがあれはお前の妹分だろう。あれくらいならいけるんじゃないか。しかし100年前だしな。もう死んでるか」
「あの子はまだ生きてるわよ」
「まだ生きてる。しかし100年だぞ。お前じゃあるまいし」
「あの子はさ、エルフとのハーフなのよ。だから200年や300年位は生きると思うわよ」
「なるほどな、ならお前の後継者になれると言う事か」
「本当ならそうなんだけどさ。ちょっと家庭の事情と言うか種族の事情と言うのがあって、今エルフの里に帰ってこっちに帰って来ないのよ。一度機会があったらエルフの里に行って調べてくれないかな」
「それは依頼か」
「そうね、そうしてもいいわ」
「そうか、ただいつか時間のある時でいいか」
「ええ、それでいいわ」
「わかった」
こうしてゼロはようやくソリエンの町への帰路についた。
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