第5話 魔界門

 ゼロに取ってもこの中央モラン人民共和国は久しぶりだった。ゼロの感覚では数年前と言う感じだが実に100年以上が経っていた。


「なぁお前、ここに俺達の事を知ってる者はいるのか」

「そんなものいる訳ないじゃない。一体何年経ったと思ってるのよ」

「だろうな。ではお前はどうなってる」


「あたいはいいのよ。不滅の大魔法使いと言う事で通ってるから」

「便利なものだな。ではこの国の王は?」

「それも今ではあれから三代目よ」

「そうか、もう孫の時代になったのか」


「あたい達を除いてはね」

「やはり俺達はバケモノと言う訳か」

「あんたは初めからバケモノじゃないの」

「そう言うお前もな」


「ではクルーゼン侯爵家もそうか」

「ええ、あそこも今は三代目ね」

「何もかも変わってしまった訳だな」

「そう言う事ね」

「では行こうか、その魔界門とやらの所に」


 ゼロとカラスは王城の中に入った。本来ならここは一般人の入れる所ではないが流石はカラスだ。国王の信頼も厚いようでゼロも問題もなく中に入れた。


 王城の中心のそのまた奥の地下にその魔界門は作られていた。その門の前で今も十数人の宮廷魔導士が必死になって結界を守っていた。しかし誰もが疲れ切りもう長くは持たないと言う感じだった。


「カラス様、我々の力ではもう後半日しか持ちません」

「困ったわね、それは。まぁいいわ、助っ人を連れて来たから」

「助っ人と言われるのはその男の事でございますか。しかしそのような男に何が出来るのですか」

「そうね何が出来るのか。あんた達なら一瞬で皆殺しに出来るわね。この男なら」

「えっ、まさか、その様な」


「よせ、カラス様は冗談は言われないお方だ。その男に出来ると言うのなら出来のであろうよ」

「おいおい、俺はここに人殺しに来た訳でないぞ」

「わかってるわよ、一言多かったかしら」

「全くだ。相変わらず困った奴だな、お前は」


「き、貴様。大魔法使いのカラス様に向かって何と言う口の利き方をしておる」

「いいのよ、こいつは昔の戦友だから」

「昔の戦友、ま、まさか、勇者パーティのお仲間」

「勇者パーティの仲間?何だそれは。俺は知らんぞ」

「それはいいわ。それで門の状態はどうなの」


「あっ、はい。中からの魔圧が増して来ております。我々の結界魔法ではもう直ぐ弾き返さるかも知れません」

「そう、そこまで強くなったの。ねぇ、どうするあんた」

「どうすると言われてもな。どんな奴が出て来るかにもよるだろう」


「なっ、何を馬鹿な事を仰ってるおられるのですか。もし本当に悪魔がこの世界に現れたら我々の手には負えないのですよ。この世の破滅です」

「なぁ、今の魔法使いってこんなに弱いのか」

「そうね、悪魔と戦った経験のある者はこの100年いないからね」

「そんなにか、それはまずいだろう」

「そうなのよ。まずいのよ」


「お前はこの100年何をしていた。後輩を鍛えなかったのか」

「それがさ、100年前のあの戦いで魔質が変わったみたいなのよ」

「魔質?何だそれは」


「何処かのお馬鹿さんがあれと天災級の飛んでもない戦いをやってくれたお陰でさ、今までよりも魔質が落ちてるのよ」

「魔質が落ちる。それは魔力や魔力量も落ちてると言う事か」

「まぁ、そうね。どうやらこの世界の魔質に変化が起こったみたいなのよ」


「魔法を構築するシステムに不備が生じたと言う事か。それなら」

「でもね、魔界はその影響を受けてないみたいなのよ。だから今の悪魔は以前の悪魔よりも強いと言う事なのよ」

「なるほど相対的な力の差と言う訳か」


「そう言う事ね。だからここはあんたに責任を取って貰わないとさ」

「何で俺なんだ」

「あんたがその張本人でしょうが」

「そうなのか」

「そうなのよ」

「面倒だな」

「来たわよ」


 部屋の中の空気が震え、弾ける様な音がしたと思うと魔界門の周囲にいた宮廷魔導士達は皆吹き飛ばされた。そして魔界門から異様な魔力が吹き出し部屋の中の空気を変えた。


 そしてそれは途方もない魔圧だった。普通の者ならそれだけで精神的な圧死をしていただろう。流石は宮廷魔導士と言うべきか、まだ息はある。しかしもはや使い物にはならない。


 そしてその門から何やら不吉な匂いを持った黒い闇と供に歪な腕が、そして足が伸びて来た。いよいよ来るのか魔界の物が。


「くっふっふっふ。遂に出たぞこっちの世界に。あははは、これが表の世界か。面白い。これで人の魂を食い尽くせるぞ」


 そう言って一体、また一体と闇の世界からこっちの世界に姿を現したのは紛れもない悪魔だった。魔界の闇を伴った物が4体、こちらの世界に姿を現した。


 その魔力は人間界では途方もない物だった。これでは確かに恐れる訳だ。周りの魔導士達と比べるとまるで大人と子供。それ程の差があった。


「なるほどこれが悪魔の力と言う訳か」

「どう、やれそう?」

「お前はどうなんだ」

「そうね、まぁ何とかってところかしらね」


「おいおい、まだ倒れてない人間がいるぞ。これは面白い。食い応えのありそうな魂だな」

「おい、メゾバールよ、一人で食うなよ。そっちの女をよこせ」

「馬鹿を言うな、あれは俺の獲物だ。こっちの男をやる。残りはそこいらに散らばってる奴らの魂を食らえ」


 どうやら二人が上席の悪魔。そして後の二体はその配下。そんな所だろうか。


「お前らが悪魔か、随分とちんけな悪魔が出て来たもんだな」

「何だと人間風情が。お前らごとき我々の魔圧だけで圧死だ」

「その程度のそよ風でか」

「馬鹿かお前は、俺達二人は中位悪魔だ。この二体の下位悪魔ですらお前ら魔法使いが100人束になって掛かっても勝てぬわ」


「昔この世界には魔将と呼ばれた悪魔が8体いた。そいつらから比べるとお前らは屑だな」

「ば、馬鹿な魔将様だと、その様な上位様がいる訳がなかろう」


「いや待てクロワール。聞いた事があるぞ。100年ほど前に魔界から抜け出した魔将がいたと」

「ん?ああ、あれか。反逆の魔将と呼ばれた」

「そうだ。魔界将様に楯突いて魔界を追われた将がいた。それを反逆の魔将と呼んでいたはずだ」


「しかしそれはもう100年も前の話だ。もしまだこの世界にいたなら人間など生きてはいまいよ」

「それもそうだな」


「ところでカロールは元気でやってるか。確か西部地区のグルゾーン魔界将軍の副団長だったはずだが」

「き、貴様何を言っている、カロールだと。魔界将軍様のお一人を呼び捨てにするな。殺すぞ」

「ほー、魔界将軍にまでなったのか。大したものだ」


「き、貴様は一体何者だ」

「昔カロールにはゼロと言う従者がいた事を知ってるか」

「何?カロール様の従者ゼロだと。知るかそんな者」


「いや待て、カロール様がまだグルゾーン魔界将軍様の魔法騎士団の副団長だった頃に、確かその様な名前の従者がいたような」

「しかしその従者は死んだと聞いたぞ」

「ああ、そうだ。それにあの方もまた悪魔だ。貴様の様な人間ではないわ」


「ねぇ、あんた、魔界で一体何をやってたのよ」

「ちょっとした遠足だ」

「馬鹿じゃないのあんた」

「まぁいい、取りあえずこいつ等を片付けるか」

「そうね」


「あははは、我らを片付けるだと。人間風情が何を馬鹿な事を言っておる。それこそ我らの一振りで終わりだ」


 そう言って振り上げた悪魔クロワールの腕が切り落とされていた。そしてゼロの手には双魔剣が握られていた。


「どう言う事だ。俺の腕が再生出来んぞ」

「この双魔剣で切られたら下級悪魔は再生出来ないそうだな」

「それが双魔剣だと言うのか。そんな事があってたまるか。人間にどうして双魔剣が使える。双魔剣に魂を食われるはずだ」

「なら食われないようにコントロールすればいいだけの話だろう」


「そ、そんな。それは上位悪魔でも難しいと言われているのだぞ。それが出来るのは魔界将クラス以上だけだ」

「なら俺にはそれだけの力があると言う事だろう」

「ば、馬鹿な。信じられるかそんな事が」


「それが出来るのよ、こいつはね」

「早かったな、もう雑魚は片付いたのか」

「ええ、済んだわ」

「な、何なんだお前らは。こっちは悪魔だぞ。それが何故人間ごときに負けるのだ」

「それだけお前らが弱いと言う事だ。それでは俺も片付けるとするか」


 そう言ってゼロはあっさりと2体の中位悪魔の首を刎ねてしまった。これでもう悪魔がこの世界で跳梁跋扈する事はなくなった。


 しかしそれはほんのつかの間の事でしかない。この後も悪魔がこの門を潜ってこの世界に出て来る事は否めないだろう。


「どうだ、これで門は封印出来るか」

「そうね、一時的には可能だけど、これだけ向こう側の魔圧が強いといつまでもと言う訳には行かないわね」

「ではどうするのだ」

「力の強い魔物の魔石があればいいんだけど」


「それはどれ位の強さの魔石がいるんだ」

「そうね、最低でも超Aランクね。Sランクなら申し分ないんだけど」

「Sランクの魔物の魔石か」

「そう、でもそれは無理な話でしょう」


「いや、そうでもないな。確か俺は一つSランクの魔物の魔石を持ってたはずだ」

「うそ。本当なの」

「ああ、前に狩ったSランクの魔物の魔石がある」


「じゃーそれを頂戴。いえ、譲って。王家で買うわ」

「それは構わんがそれよりも少しおかしいと思わんか。何故急に魔界の魔圧が強くなった」

「そうね、それは私もおかしいと思っていたのよ。もしかしたら魔界に何かあったのかも知れないわね」

「そうか」


 ゼロは何かを考えていた。そして何かを決意したようにこう言った。


「いいだろう。魔石は売ってやる。しかし今の状態ならお前の魔力でも少しは持つだろう」

「そうね、これ以上魔圧が上がらなければね」


「ならこうしよう。俺がこれから魔界に行って原因を調べてみる。もしこれ以上魔圧が上がるようならその魔石を使ってこの魔界門を完全に封印してくれ」

「何言ってるのよあんた。もし完全に封印したらあんたはもう戻っては来れないのよ」


「いや大丈夫だ。俺は以前にも魔界に行った事がある。そしてこの世界に帰って来た。この魔界門を使わずにな。だから他にも帰って来る方法はある」

「本当なのね、本当に帰って来れるのね」

「ああ、大丈夫だ。任せておけ」

「じゃーお願いしてもいいのね」


「ああ、原因を調べて来る。そして可能ならその原因を取り除く。もし一カ月経っても俺がここに帰って来なければここを塞げ。いいな」

「わかったわ。あんたがバケモノだと言う事を信じてるからね」

「わかったよ、じゃーな」


 そう言ってゼロは魔界門を潜って再び魔界に足を踏み入れる事になった。

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