第4話 ゼロとの100年目の再会

 ゼロと獣人の子供達が森に籠ってかれこれ6カ月が経った。子供達の成長は著しく各自が一人でも十分に狩りが出来る実力を身に付けていた。


今までそれが出来なかったのは正しい指導者がいなかったからだ。子供と言う者は記憶力がよく色々な物覚えも速い。


正しい指導者がいれば上達しないはずがないのだ。それをゼロが証明して見せたと言う事だ。


 ゼロはそろそろ良いだろうと思って子供達を連れて町に戻った。


これから冒険者ギルドに行って子供達を冒険者として登録するのだ。そうすれば子供達はこの先自分の力で生きて行けるだろう。


 これは奇妙な風景だった。一人のヒューマンに数人の獣人の子供達が従って歩いている。普通では起こり得ない事だ。


 本来獣人の子供がヒューマンに近づく事はない。しかし師弟関係に於いては種族の違いは関係ないのかも知れない。


 それにゼロもこの町では一応名の通った冒険者になっていた。「隻腕の殲滅ヒューマン」と言う二つ名を持っている。


それならこう言う事もあり得るのだろうと町の獣人達もそれなりに理解していた様だ。


 ゼロが子供達を連れて冒険者ギルドに入り、子供達の冒険者登録を頼んだら受付も周囲の冒険者達も驚いていた。


 こんな小さな子供を冒険者にするのかと。普通この歳ではまだあり得ない事だったからだ。


 しかし各自の魔力量を測って納得した。各自が大人を十分に凌ぐ魔力量を持っていたからだ。


 これなら冒険者としての技術さえあれば十分に冒険者に成り得る。そしてそれを保証したのがゼロだった。


 色々あったがともかく子供達は無事冒険者に成る事が出来た。勿論全員がFランクからのスタートだが基本的な事は全てゼロから学んでいる。


 しかも薬草の知識もあるので薬草採取の依頼なら今直ぐにでも始める事が出来るだろう。


 そしてゼロは彼らにパーティーを組ませた。その方が助け合って効率よく仕事をこなす事が出来るだろうと。


 パーティーの名前は「森の妖精達」とした。何で妖精なのかと言う話だがどうやらそれは彼らの夢らしい。


 妖精と契約を結び妖精の力を持つ冒険者に成りたいと言う。夢があっていい。ゼロは了解した。


 久し振りの町なので少し遊んで来るといいと言い、ゼロは子供達に自由時間を与えた。


 子供達の目の色が違っていた。前はいつもオドオドしてドブネズミの様に町の片隅を這いずり回っていたのがまるで嘘の様に感じたからだ。今の彼らの目には輝きがあった。


 彼らに取ってこの町がまるで違う町の様に見えたのだ。これからここが俺達の生きる町なんだと実感出来る一瞬だった。


 しかし世の中、そううまくは行かない。子供達の前に立ちはだかった者がいた。それはかっての親方、子供達にスリをやらせて自分は何もせずにのうのうと生きていた男だった。


 どうやら冒険者ギルドでの噂を嗅ぎつけてやって来たのだろう。しかも今度は逃がさない様に仲間を4人も引き連れていた。


「おい、ガキ共、何処に雲隠れしてやがった。随分探したんだぞ」

「お、親方」


 彼らに取ってはもう二度と会いたくない者だった。


「お前らにはこれまでの分も働いてもらわねーとな。かわってるよな」


 それが当然だとでも言いたそうな口ぶりだったが子供達は違った。


「嫌だ。俺達はもうスリには戻らない。冒険者として生きて行くんだ」

「何を生意気な事をぬかしてやがる。お前らみたいなガキが冒険者になれる訳がないだろうが。どうせ何処かの馬鹿に唆されたんだろうが、それでおまんまが食えるとでも思ってやがるのか、ええ」


 親方はまるで脅しをかけているようだったが、


「俺達は自分の足で生きて行くんだ。だからもう元には戻らない」

「舐めてんじゃねーぞ。また痛い目に合いてーのか、ええ、てめーら。少し痛めつけてやれ」


 そう言って親方は4人の男達に指図した。5人の子供達は直ぐに防御の陣形を取った。


 これもゼロから教えられたものだった。これは対人用のものだ。レワンを中心に左右に2人づつ矢の様な形を作っていた。


 左の一人が最初に飛び出して子供達を襲って来た。その男に向かって左の2人が飛び出し、一人は足を狙って動きを止め、もう一人が腕の曲げて顔の前で構え肘の先端で体ごと男に体当たりをした。


 その肘がモロに相手の急所の鳩尾に当たり男はノビてしまった。その間レワンは他をけん制していた。そして同じ様な戦法で後の二人も倒した。残るは2人だった。


「この野郎、よくも舐めた真似を。おい、構わねーから一人か二人の手足を切り飛ばしてやれ」

「それは面白れーな」


 子供達に緊張が走った。魔物相手には殺し合いもやったが同じ獣人相手に戦った事はまだなかった。


 どうしても対人相手で殺し合いともなると身が縮こまって動けなくなってしまう。


「ガキ共観念しろや、手間を掛けさせやがって」

「おい、俺の弟子達に何をしている」


 その時後ろから声を掛けて来た者がいた。


「な、何だと、お前は誰だ。お、お前は『隻腕の殲滅ヒューマン』か」

「そいつらは俺の弟子だ。そいつらに手を出すと言う事は俺を敵に回すと言う事だとわかってるんだろうな」


「な、何だと。貴様、ヒューマンの分際で」

「お前達は先に俺の教えた宿屋で待ってろ。俺も直ぐに行く」

「わかったよ、おじさん」


 子供達は安心した様に約束の場所に飛んで行った。後に残ったのはゼロとスリの親方達5人だった。半分は戦意を失ってるがまだ生きている。


「な、何をするつもりだ。俺達獣人に手を掛けたらただじゃすまねーぞ」

「どうすまないと言うんだ」

「お前は官憲に捕まって牢獄行きだと言う事だ」

「なるほどな、しかしそれは訴える者がいたらの話だろう。死人に訴える事は出来ないと思うがな」

「な、何だと」


 その時5人の額は見事に討ち抜かれていた。ゼロの指気弾によって。


 貧民街の悪人達の事だ。官憲と言えども詳しく調べようとはしなかった。どうせ仲間内の抗争だろうと言う事でこの件は片付けられた。


 子供達はゼロの言った宿屋で待っていた。ゼロが現れた事でみんなで昼食となったが、子供達は敢えてあの親方達の事は聞かなかった。


 ゼロの事だちゃんとやってくれたと確信していた。ゼロは基本的に優しいが敵対する者は絶対に容赦はしない事は良く知っていた。


 そこにクロシンがやって来た。


「ようゼロ、そいつらか。今お前が育ててると言うガキ共は」

「みんな紹介しておこう。俺のパーティー仲間のクロシンだ」

「おお、宜しくな、ガキ共」

「なんか偉そう」

「気に入らない」

「強くなさそう」


「おい、ゼロ。こいつらどうなってやがる。生意気じゃねーか」

「まぁそう言うな。お前にもこいつらの面倒を見てもらいたいと思ってる」

「お、俺がか。こんなクソ生意気なガキ共をどう面倒見ろと言うんだ」

「俺達だっていやだよ、こんなオッサン」

「誰がオッサンだ。お兄さんと言いやがれ」

 

 バタバタとした出会いだったがみんな腹がすいていたんだろう。食事が来たらみんな黙って食いだした。


「そうだゼロ。お前に会いたいと言う奴がこの町に来てたぞ」

「俺に?俺はお前以外に知り合いはいないがな」

「だよな。まぁいい会ってみろよ。何かの儲け話かも知れねーぞ」


 ゼロはクロシンから聞いた相手が泊ってると言う宿屋に行ってみた。ゼロがそこで見た人物は信じられない人物だった。


 相手は女だ。しかもゼロの様にフードを被っていた。その上デコイで獣人に化けていた。


 しかし顔を見なくてもゼロには誰か直ぐに分かった。これだけの魔力を持つ者は他にはいない。


 だたし隠蔽魔法で大きな魔力を隠しているがゼロには隠せない。


「何でお前がここにいる。まだ生きていたのか」

「それってちょっと失礼じゃない。あたいを勝手に殺さないでよね」

「しかしあれからもう何年経ったと思ってる。100年だぞ」


「100年位なによ。あたいはそれまでに500年生きていたんだから追加の100年位どうって事ないわよ」

「益々バケモノになって来たな、お前は」

「人の事言えた義理じゃないでしょう」


「しかしよく俺の事がわかったな」

「こう見えてもあたいも冒険者だからね、情報位は入って来るわよ」

「冒険者ね、冒険者ギルドのギルドマスターを陰から操る冒険者じゃないのか」

「何よそれは、何の事だかわからないわね」


「ところで何の用だ」

「昔のよしみで?」

「嘘つけ。まともな話をしろ。でないと帰るぞ」


「そう慌てないでよ。まだ陽が高いんだからさ。それにちょっと面倒な話なのよ」

「お前の面倒な話と言うのは厄介事しか思いつかないがな」


「厄介事と言えば言えない事もないかも知れないわね。実は悪魔の話なのよ」

「いきなり悪魔とはな。悪魔が出たのか」


「そうね、出たと言えば出たと言えるかも知れないわね。魔界門が壊れそうなのよ」

「魔界門?何だそれは」

「この世界と魔界を繋ぐ門の事よ」


「そんな門があるのか」

「ええ、それを守っているのがあたい達の一族なのよ」

「魔界の門番か」


「そうよ。それが最近突破されそうなのよ」

「それが突破されたらどうなる」

「こっちの世界に悪魔が大量に入って来るでしょうね」

「それは問題だな」


「そうなのよ、問題なのよ」

「あんまり問題そうには見えないがな」

「問題なのよ」


 中央モラン人民共和国の大魔法使い、カラスの話と言うのはその魔界門を守るのを手伝って欲しいと言うものだった。場所は中央モラン人民共和国の王城の奥にあると言う。


 まさかそれは王の膝元もいい所だ。何故そんな所にと聞いたら守り易いからだと言う話だった。


 そこでなら宮廷魔導士もいる。結界を補強するにはもってこいだと言う事だ。それは確かに一理ある。しかし危うい話でもある。


 中央モラン人民共和国はヒューマンの国だ。この国は前の対戦には参加しなかった。


 だから国の被害もないしヒューマンの生活も壊れてはいない。しかしそこに悪魔が出るとなると話は別だ。


 それは中央モラン人民共和国のみに留まらずこの世界全てに関わる大問題となる。まさに世界が亡びるかどうかに関わる大問題だ。


 勿論それはどの程度の悪魔が出て来るのかにもよるし、また先に手を打ってその門を完全に封鎖してしまえば悪魔到来も杞憂に終わらない事もない。しかしその為にはやはりその門の状況確認が必要になる。


『仕方がない、やはり行くしかないか』

「いいぜ、行ってやるよ」


 ゼロは翌日子供達とクロシンを集めてこう言った。


「俺はこれからある依頼を受けて少し旅に出る。クロシン、悪いがこいつらの面倒を頼む」

「おい、依頼って何だ。そんな話、俺は聞いてないぞ」


「これは個人的な依頼なんだが非常に重要な依頼なんだ。だから今回は俺一人で行く」

「じゃーおじさん、俺達は?」


「お前らには基本的な事は全て教えたはずだ。後は実戦で経験を積んで強くなれ。俺が返って来たらその実力を見せてくれ。いいな」

「う、うん。わかった。訓練して強くなるよ。だから絶対に帰って来てね」

「ああ、帰ってくる。じゃークロシン、悪いが頼む」

「しゃーねーな。わかったよ。しかし本当に早く帰って来いよな」

「ああ、そうしよう」


 こうしてゼロは始まりの町ソイエンを離れた。

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