第7話-3
悪魔を使役できるようになったからには、土木工事ばかりではもったいない。ここは第六騎士団を拡充できないだろうか? 近衛騎士団長のコンラディン・フォン・チェルハに相談してみる。
「団長。実はひょんなつてがありまして。第六騎士団を増員できないかと考えているのですが」
「各騎士団の定員が五〇〇となっているのは予算の都合だ。予算は増やせないぞ」
「承知しております」
「まさか団員に支給する手当を減らすとは言うまいな?」
「もちろんです。実は裏技がありまして」
相手は悪魔だから当然に手当てなど払わないし、それで彼らが困ることもない。
「そんな裏技があれば俺も教えてもらいたいものだ」
「そこは私にしか使えない方法ですので、ご勘弁ください」
「まあいい。予算増なしに増員ができるというのならば、私としては異存がない。で、何人増やすのだ?」
「まだ確定はしていませんが、数百人規模です」
「数百人!? 本当か?」チェルハ団長は、驚いて目を見開く。
「それができるのです」
「とにかく私の一存では了承できない。軍務卿の了承をもらってくれ」
「承知いたしました」
軍務卿のハーラルト・フォン・バーナーの部屋を訪ねる。
「軍務卿。この度は第六騎士団の増員を考えているのですが……」
「予算は出せないぞ」と、すぐさま釘を刺される。
「それは承知しております」
「予算なしでどうやって増員しようというのだ?」
「そこは私にしかできない裏技がありまして」
「自腹を切るということか?」
「似たようなものです」
「予算がかからないのはよしとしても、騎士団のバランスが崩れるのは困る」
「わかりました」
「どうするというのだ?」
「騎士団がダメなら、食客に回すだけです」
食客はホルシュタインの領軍に五〇〇ほど回したからアウクスブルクにいるのは五〇〇人程度である。しかし、その数の私兵を持っているというのは軍としては脅威だ。現時点で食客を騎士団に取り込むという軍務卿らの企ては破綻しているのである。しかし、それが更に増えるとなると、どうだろう?
軍務卿の顔色が変わった。
「待て! わかった。予算がかからぬということならば認めよう」
「ありがとうございます」
「それで、いかほど増えるのだ?」と尋ねる軍務卿は眉根を寄せている。
「まだ確定はしていませんが、数百人規模です」
「数百人だと!?」軍務卿は、驚いて声を張り上げた。
「まずいですか? では
「わかった。好きにしろ!」
「恐れ入ります」
フェルディナントは早速悪魔たちを召喚した。ベルゼブブ、ベリアル、アスモデウスの三人だ。ベルゼブブが話を切り出した。
「主殿。何用だ?」と代表してベルゼブブが尋ねる。
「土木工事ばかりではつまらないと思ってな。君たちの軍団の一部を第六騎士団に編入したい」
「それは土木工事よりもよほど面白そうだ。それで何人ほど必要なのだ?」
「三人がそれぞれ一〇〇人ずつだ」
「一〇〇人? 五万でも一〇万でもいいのだぞ」
内心、悪魔のスケールの大きさに驚く。確かに、彼らの配下は数十万人のオーダーではあるが……。
「それはいざという時のためにとっておいてもらいたい。今必要なのは各一〇〇人だ。そのかわり精鋭を選んでくれよ」
「承知した」
悪魔の方はなんとかなったが、これは想定どおりだ。問題は天使の方だが……。
フェルディナントはミカエルの部屋を訪ねる。普段は「ミヒャエル」とドイツ式の発音で読んでいる。
「ミヒャエル。実はお願いがあるんだ」
「願いとは何だ? 其方の願いならなんでもかなえよう」
ミカエルは愛妾として事をすませてから、フェルディナントにメロメロになっていた。あの居丈高だったミカエルがとたんに女らしくなって、フェルディナントに甘えてくる。
最高位の熾天使をこんなにしてしまって、人としてどうかとは思う。それはそれとして……。
「第六騎士団に天使の軍団を加えたいのだ」
「なんだそんなことか。我が命じれば造作もないことよ。それでいかほど必要なのだ? 五万か? 一〇万か?」
悪魔といい、天使といいスケールが大きい。
「当面は一〇〇でいい。そのかわり精鋭を選んでくれ」
「あいわかった。そのかわり…………な」
ミカエルはフェルディナントにしなだれかかるとキスをしてきた。そして、そのまま……。
──天使相手にこれでいいのか?
いつか神ヤハウェの天罰が下りそうな気がする。
ミカエルと悪魔代表でベルゼブブを対面させる。
まず、ミカエルが話を切り出した。
「おぬしベルゼブブじゃな。本来ならば即に成敗してくれるところだが、今は旦那様の僕なのであろう。ならば成敗するのは保留してやらぬこともない。せいぜい旦那様のために尽くすことだな」
ベルゼブブが聞こえよがしに返す。
「それはこちらの台詞だ。おまえは主殿の愛妾なのであろう。ならばもはや堕天使と大差ないではないか。おまえこそ主殿のためにせいぜい尽くすがいい」
二人とも火花が散りそうな感じで睨みあっている。
「さすがに仲良くせよとまでは言わないが、争うことだけは避けてくれよ」
「旦那様の願いならばかなえよう」と、ミカエルが答える。
「主殿の命令ならば致し方ない」と、ベルゼブブが答えた。
とりあえずはなんとかなりそうだ。
──全面戦争でもされたら世界が滅びかねないからな。
これとは別に朗報が一つあった。長年開発してきた鉄砲が完成したのである。開発に着手したのが十一歳の時だから九年もかかったことになる。
実は簡単なものであれば、はるか前に出来上がっていた。だが、そこは開発を始めたら凝り性のフィリーネとフェルディナントのことである。当初は薬莢を使ったセミオートライフルを目指していたのだが、気がついてみたら自動小銃ができあがっていた。だいたい第二次大戦ごろに使われていたものである。
併せて、大砲の一種であるカノン砲と榴弾砲も開発した。両者の違いはカノン砲が水平軌道を描くのに対し、榴弾砲は放物線に近い曲線を描くことにある。前者は横から、後者は上からの砲撃に用いる。この時代にこのような兵器を用いるなど反則も甚だしいが、できてしまったものは仕方がない。
自動小銃については、各員に配布し、訓練を施すが、大砲については専門の砲兵が必要である。そこで砲兵の小隊も創設することにした。砲兵小隊の隊長は、なんと冒険者パーティーメンバーのヘルミーネの従者のジョシュアである。ジョシュアは食客たちに混ざって剣術の訓練に励んでいたがなかなか目がでなかった。だが、妙なことに砲術については天才的な才能を持っていたのである。人という者はいつ花が開くかわからないものだ。
また、フライブルグに設立していた魔術師学校も順調に人材を輩出していたので、この際、魔道部隊を増員して中隊にすることとした。
以上を踏まえ軍編成に取り組んだ結果は次のとおりである。
第六騎士団長:フェルディナント・エルデ・フォン・ツェーリンゲン
第六騎士団副管:レギーナ・フォン・フライベルク
第六騎士団参謀:アビゴール(悪魔)
第一中隊:バイコーン騎兵・歩兵一〇〇:隊長:アダルベルト(ハーフインキュバス)
第二中隊:バイコーン騎兵・歩兵一〇〇:隊長:カロリーナ(八尾比丘尼)
第三中隊:バイコーン騎兵・歩兵一〇〇:隊長:ヴェロニア(人狼)
第四中隊:ペガサス騎兵一〇〇:隊長:ネライダ(ハイエルフ)
第五中隊:ダークナイト軍団一〇〇:隊長:オスクリタ(闇精霊)
第六中隊:魔道部隊:魔導士一〇〇:隊長:フランメ(火精霊)
第七中隊:天使軍団:天使一〇〇:隊長:ミヒャエル(熾天使)
第八中隊:
第九中隊:悪魔軍団:悪魔一〇〇:隊長:ベリアル(悪魔)
第一〇中隊:悪魔軍団:悪魔一〇〇:隊長:アスモデウス(悪魔)
砲兵小隊:砲兵隊:砲兵三〇:隊長:ジョシュア
結局、一〇〇〇人を少し超えてしまった。増えたのは数百人といえば数百人だから、まあいいだろう。
──そういえば、鉄砲と大砲の使用については団長に報告しておいた方がいいな。
再び団長のコンラディン・フォン・チェルハを訪ねる。
「団長。一つ報告があります。」
「何だ?」
「第六騎士団の装備として鉄砲と大砲を正式に採用いたします」
「鉄砲など使い物にならないぞ」
この時代、鉄砲は開発されていたが、単発式の単筒で丸い鉛の玉を発射するものだった。物語に出てくる海賊が持っているあれである。この鉄砲は命中精度が非常に低く、威嚇用くらいしか使い道がなかった。チェルハ団長はこれを想像したのだろうが、それはもっともなことだ。
「私が開発したものは優秀ですから」
「そうか。まあ好きにするがいいさ」
その後、フェルディナントが開発した鉄砲と対応は周辺国へ多大なる脅威を与えることになるのだが、それは後の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます