第6話-3
挨拶もそこそこにして、いよいよデンマーク軍との戦いだ。
部隊をあらかじめ打ち合わせておいた配置につかせる。それを目視したデンマーク軍の見張りは、想定より早い援軍の到着に右往左往している。今がチャンスだ。
騎馬の活躍の場面が少ないので、第一・第二中隊は歩兵である。
第一中隊長のアダルベルトと第二中隊長のカロリーナに指示を出す。
「私が町の門を破壊したら突撃だ。敵と適当に戦ったら、うまく偽装敗走してくれよ」
「了解!」
皆が配置に着いたことを確認し、フェルディナントはエクスプロージョンの魔法を発動する。ハンブルクの町の門は大爆発し、爆音がこだました。爆発の煙がモクモクと天高く昇っていく。門周辺にいた敵は爆風を受けて多くの者が傷つき、混乱している。
「
アダルベルトを先頭に、第一・第二中隊が鬨の声をあげながら穴の開いた門めがけて突撃していく。
先頭が門を抜け接敵した。アダルベルトはアロンダイトで次々と敵を切り伏せ、無双している。
その頃、ようやく外壁の上の敵が体制を整え、突入途中の味方に対して矢を放ち始めた。ホムンクルスのマリーが時空反転フィールドで矢を反転させると、反転してきた矢に敵は傷つき、目を白黒させている。
アダルベルトが指示を出す。
「ローラとキャリーは壁の上の敵を頼む」
「了解」と2人は、声を揃えて答えた。
2人は時空魔法で空中に瞬間的に足場を作り、反復横跳びの要領で空中に駆け上がると、壁の上に降り立った。
弓兵は驚き、剣を抜いてかかってくるが、弓兵の剣など二入に通用するものではない。二人は集中して半眼になると、背中合わせになり、互いの背を守りながら二刀流で次々と敵を切り伏せていった。
フィリップ・リストの伍は、マリー、ローザ、タラサ、エディタをメンバーとし第一中隊の中でもひときわ強かった。
フリップは技に物を言わせて、次々と敵を屠っていく。
マリーは、フェルディナント譲りの二刀流で無双していた。
ローザ、タラサ、エディの三人は力技である。
ローザとエディが
タラサは、超重量級のモルゲンスタインを左右の手に持ち、有無を言わさず剣や鎧もろとも敵を砕いていく。
「おめえら、こんなもやしっ子相手に何やってんだよ」
身長二メートルは超えていると思われる筋骨隆々としたマッチョ男が、両手にバトルアックスを持って襲ってきた。いかにもヴァイキングの末裔といった感じの残忍そうな男だ。
タラサが男に一撃を加えるが、男はモルゲンスタインを簡単に受け止めた。
──タラサの一撃を止められる者がいるとは!
伍のメンバーは驚愕した。
そこにアダルベルトが割って入る。大男と打ち合っているがアダルベルトが押され気味に見える。
──あの「赤髪のアダル」が?
フィリップは違和感の正体をすぐに理解した。そろそろ潮時ということだ。
フィリップが伍のメンバーに目配せをすると、メンバーもその意図を理解したようだ。そのままじりじりと後退して行く。
「こいつら、やっと疲れてきやがった」
「ああ。あんな調子で戦っちゃあいつまでも持たないさ」
敵軍からそんな会話が聞こえる。
ガキン、とひときわ大きな打ち合いの音がすると、アダルベルトは打ち合っていた大男と距離をとった。
「このままでは埒が明かない。いったん撤退だ!」
「了解!」
「そうはいくか。追撃して殲滅してくれる。俺に続け!」と、命令を下しているバトルアックスの大男は、中隊長か何かだったようだ。
アダルベルトとフィリップの伍が
デンマーク軍が追撃し、町の門の外まで釣り出されると、第一・第二中隊は突然左右に展開した。
デンマーク軍の正面にあらわれたのは、ダークナイトの軍団である。始めてみる異形の姿に恐怖したデンマーク軍の足が止まった。恐怖に引きつるデンマーク軍の兵士をダークナイトは無慈悲に屠っていく。
「
ヴェロニアの一声で、両脇からはバイコーン騎兵が突撃をかけてくる。
バトルアックスの大男は啞然としていたところを、ヴェロニアのバイコーンに蹴散らされ、そこを狙ったダークナイトに一刀両断に切り伏せられて絶命した。追撃してきたデンマーク軍は隊長をやられて混乱に陥っている。
ここでフェルディナントは、ペガサス騎兵を投入する。
「ペガサス騎兵は、これ以上の援軍が来ないよう足止めしろ」
「了解しました」
ペガサス騎兵は門から出ようとしているデンマーク軍を襲う。
「炸裂弾、
投下位置付近にいる敵兵は、爆風や破片を浴びて血まみれになって助けを求めている。
「続けて、
ペガサス騎兵から矢の雨が敵に降り注ぐ。これに牽制されて敵の増援は門から出ることができない。
一時間もすると門の外に釣り出されたデンマーク軍は制圧された。これで敵軍の二割、千人ぐらいは削ったはずだ。
フェルディナントは攻勢に出る。
「よしっ。反転攻勢に転じる。ダークナイトを前面に押し出し、再突入せよ!」
「おーっ!」
「ペガサス騎兵と魔道小隊は空から援護だ!」
「おーっ!」
今度はヴェロニアの第三中隊も下馬して歩兵となり、全軍で町へ突入する。
ダークナイトは身長二メートルを超える体格のうえ高度な剣技を持っている。並みの兵士ではとても歯がたたない。また、魔力が尽きるまで動き続けることができて疲れを知らない。デンマーク軍は防戦一方となった。
さて、こんなときは敵の指揮官の首を狩るのが一番だ。フェルディナントは
見つけた。最後尾で震えているかと思えば、前線に近いところで指揮をしているではないか。ここは指揮官を打ち取れば敵の士気はガタ落ちに違いない。だが、ここからだと弓の射線も通りそうにない。こんなときこそあれの出番だ。
フェルディナントはマジックバッグから聖剣クラウ・ソラスを取り出した。クラウ・ソラスはダーナ神族からフェルディナントが借り受けた光の聖剣で、命ずると敵を追尾して攻撃する。自動追尾ミサイルのような優れモノの武器だ。
「行け! クラウ・ソラス。敵指揮官を打ち取れ!」
クラウ・ソラスは敵をかい潜ると光のような速さで敵指揮官に向かっていき、その心臓を貫いた。指揮官の心臓から鮮血がほとばしる。周りにいた副官らが慌てて体を支えるが、既に絶命していた。
クラウ・ソラスは、フェルディナントがダーナ神族から借り受けた光の剣で、自動追尾機能を持っている。
これで副官は撤退を決意したようだ。デンマーク軍は港に向けて撤退していく。
これを容赦なくダークナイトが追撃し、空からはペガサス騎兵の矢が、魔道小隊の魔法が雨のように降り注ぐ。これでトータル三割ぐらいの敵を削っただろう。
しかし、敵は抜かりなく艦船を用意していたらしく、次々と乗り込んでは海上へ逃れていく。
「これで終わりだと思うなよ。二度と帝国に攻め込むことがないよう、完膚なきまで叩いてやる」
これも想定内。事前の準備が生きるというものだ。
フェルディナントは更なる追撃を指示する。
「ペガサス騎兵は矢を補充し、焼夷弾を装填せよ!」
焼夷弾は、発火性の薬剤である焼夷剤を装填した砲弾で、攻撃対象を焼き払うために使用する。このような事態も想定してタンバヤ商会で開発してあったのだ。
「魔道小隊と竜娘たちもスタンバイしておけ」
「了解しました!」
──では、俺も行くか。
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