第3話ー2

 フェルディナントは、中隊に戻ると第六騎士団の団長を引き受けたことを皆に告げた。

 

「ご昇進おめでとうございます。いつかこういう日が来るとは思っていましたが、こんなに早いとは……」と、アダルベルトは感慨にふけっている。

 

「旦那。すげえじゃねえか! もちろんあたいたちも一緒だよな」と、人狼のべロニアが嬉し気に言う。相変わらず声が大きい。彼女は冒険者時代からのパーティーメンバーである。

「ああ。第五中隊はそのまま第六騎士団へ移行する」


「それで、他の団員はどうするのですか?」とベアトリスが冷静に質問した。

 彼女も冒険者時代からのパーティーメンバーである。ベアトリス・フォン・ヴィッテルスバッハはマインツ大司教の五女だけに治癒魔法を得意とするが、水魔法も使う魔導士である。

 

「それが、俺の才覚で集めろということだそうだ」とフェルディナントは、いたずらっぽく答える。

 

「えっ!  なんて無責任な……で、その話を受けたのですか?」

 ベアトリス驚き、呆れた。危機感をにじませている。

 

 フェルディナントは、それを歯牙にもかけない。

「ああ」と、気のない返答を返した。

 

「そんなっ! 上のいいなりなんて、面白くないじゃないですか」

 ベアトリスは、フェルディナントの不甲斐なさに腹を立てた。

 

「ここで恩を売っておくのもいいかと思ってな。それにどうなっても後から文句は言わせない」とフェルディナントの答えは淡々としている。


「要は食客たちを充てろということね」と、ローザが鋭く指摘した。ローザはヴァンパイアの上位種族のアークイバンパイアで、やはり冒険者時代からのパーティーメンバーだ。

 

「おそらくそれが狙いだろうな。だが食い扶持を軍が払ってくれるというのだからいいんじゃないか」

 フェルディナントは、のんきそうに答える。

 

 食客たちの面倒をみてきた八尾比丘尼のカロリーナが、実感を込めて言う。

「軍の上層部は食客たちの任侠道を甘く見ているのですわ。所属が少し変わったからといって、彼らの忠誠の対象がフェルディナント様以外に向くはずがないじゃないですか」

 

 さすがに、とりまとめ役をやっていただけあって食客たちの心を良くわかっている。


 結局、フェルディナントは軍事畑の食客たちを取り込んで軍編成に取り組んだ。結果は次のとおりである。

 

第六騎士団長:フェルディナント・エルデ・フォン・ツェーリンゲン

第六騎士団副管:レギーナ・フォン・フライベルク

 第一中隊:バイコーン騎兵・歩兵一〇〇:隊長:アダルベルト・フォン・ヴァイツェネガー(ハーフ悪魔)

 第二中隊:バイコーン騎兵・歩兵一〇〇:隊長:カロリーナ(八尾比丘尼)

 第三中隊:バイコーン騎兵・歩兵一〇〇:隊長:ヴェロニア(人狼)

 第四中隊:ペガサス騎兵一〇〇:隊長:ネライダ(ハイエルフ)

 第五中隊:ダークナイト軍団一〇〇:隊長:オスクリタ(闇精霊)

 魔道小隊:魔導士三〇:隊長:フランメ(火精霊)

 

 第一中隊は第五騎士団第五中隊がそのまま移行した。

 第二から第四中隊には食客たちを充てた。武術系の食客たちは三〇〇人ほどに増えていたのだ。

 また、魔導士もフライブルグに作った魔法学校の卒業生を充てたので、人数も充実してきていた。彼らには上位精霊たちという最高の先生がいるので大丈夫だろう。

 

 フェルディナントは、騎士団の編成において、多様な種族の力を結集させることに成功した。人間だけでなく、亜人や闇の者たちも含め、彼らの忠誠心と能力を最大限に活用することで、騎士団の力を増強した。


「我々の力は、多様性に根ざしている。それぞれの個性と能力が、騎士団の強さとなる」とフェルディナントは部下たちに語りかけた。

 

 彼の言葉は、騎士団員たちの心に響き、団結を促すものであった。


 第六騎士団の発足に当たり、フェルディナントは第六騎士団にあえて街中を行軍させた。町の人々に冥界の住人であるダークナイトやバイコーンに免疫をつけさせるためである。人々はこれを見かけると家の中に引きこもり、固く扉を閉ざした。時間がたてば慣れることではあろうが……。

 

 そのうち人々は、第六騎士団のことを畏怖の念を込めて暗黒騎士団ドンクレリッターと呼ぶようになった。

 

 ──それはそれで、開き直ってしまえば、いっそカッコいい名前ではないか。

 

 そうフェルディナントは思い、「ドンクレリッター」の通称を採用することにした。これに伴い、兵装もそれらしく黒備えにする。


「我らの新しい名前は、暗黒騎士団ドンクレリッターだ。この名前が、我々の力と勇気を象徴するものとなるだろう」とフェルディナントは宣言した。彼の声は、騎士団の士気を高め、新たな時代の幕開けを告げるものであった。

 この暗黒騎士団ドンクレリッターの名前は、遠くない将来に帝国中へ鳴り響くことになるだろう。


 





 フェルディナントは、再びバーナー軍務卿の執務室に呼び出された。


暗黒騎士団ドンクレリッターか……」とバーナーは、フェルディナントの提案した通称を反芻する。彼の眉間には、深い皺が刻まれていた。


 フェルディナントは軍務卿が気に入らないことを察したが、あえて言葉は投げかけず、様子見をする。


「あの闇の者は何だ? 聞いておらぬ! 教会から苦情が来るぞ!」とバーナー軍務卿は激昂した。

 

「確か人族以外でもよいというお話でしたが……」

 フェルディナントは、まったく痛痒を感じていない。


「それは、亜人か何かかと思ったからだ。まさか闇の者とは!」

 反省の色がないフェルディナントの様子に、バーナー軍務卿は態度を硬化させる。

 

「闇の者でも、制御ができていれば何の問題もありません。むしろ生身の人間よりも命令に従順で軍隊向きですよ。それに聖書にもかつてソロモン王が悪魔を使役していたという前例が載っているではないですか」

 フェルディナントは、堂々と主張する。


「それはそうだが……」

 常識外れではあるが、禁じる法もない。バーナー軍務卿は、口ごもってしまった。

 

「教会は、私の寄付に感謝しております。また、ソロモン王の逸話を引き合いに出すことで、彼らの理解を得ることができました」とフェルディナントは答えた。彼の答えは、自信に満ちていたが、バーナー軍務卿は不安を隠せない。


「よいか。教会から苦情が来たら、卿が対応するのだぞ」と対応を丸投げした。

「承知しました」とフェルディナントは、涼しい顔で答える。

 

 結局、教会の苦情は来なかった。フェルディナントが事前に手を回して多額の寄付をしていことが功を奏したからだ。今どきの教会は寄付が最優先ということらしい。それにソロモン王の逸話を入れ知恵したことも大きかったようだ。

 

 ひと悶着あったものの、フェルディナントは部隊編成を終えて、無事第六騎士団長に就任した。第六騎士団は現代の兵制でいうとおおむね大隊に相当し、軍階級は大佐に昇進した。就任に伴い、爵位も子爵に昇爵した。昇進に伴うもののため、領地の加増はなかった。

 

 団の新設及び団長就任の披露パーティーがあったが、あいさつをさせられたのは辟易した。これからは、こういうことも苦にならないように慣れていかなければならない。

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