第2話 エルフの少女

 俺から三メートルほど離れた所に立つ少女は、美しい金色の髪に青い瞳をしている。

 そして、特徴的なのは細長く先端がとがった耳。

 

「……エルフ……?」


 俺が呟くと、少女は驚いた顔をして頷いた。


「エルフ、知ってるの? 私の言葉、わかる?」


 エルフ、なのは確からしい。長い時を生きる妖精の一族。見た目は人間に近いけど、確かとても排他的で、気位が高くて人間を見下しているんじゃなかったっけ。

 彼女が着ている服は、俺の服によく似ている。

 黒のパンツに黒い編み上げブーツ。革の鎧に深い青のフードが付いたマント。ってことはこの服は一般的な服なんだろうな。それに大きなリュックを背負っている。きっと冒険の荷物が詰まっているんだろう。

 俺は大して深くもないファンタジーあるあるを思い出しながら頷いた。


「あぁ、わかるよ。でもエルフって独自の言葉を持ってるんじゃないの?」


 という適当知識で俺が言うと、少女は大きく頷いた。


「そう、そうなの! だから私、人の言葉を勉強したんだけど、ちゃんと言ってることわかるんだよね?」


 嬉しそうに言い、少女はまた一歩、俺に近づいてくる。

 どうやら言葉が通じるのが嬉しい、らしい。

 そういうもんなのか。

 とりあえず言葉が通じるならありがたい。

 ここがどこなのか確認しないと。


「俺、道に迷ったみたいなんだけど……ここはどこなんだ?」


「あぁ、だから貴方はエルフの森にいるのね。めったに人が来ないところだからちょっと驚いちゃった」


 ……エルフの森ってほんとにあるんだ。

 いにしえのファンタジー小説を思い出してちょっと心が踊る。


「ここはカシュランの森。ここの奥深くにエルフの村、カシュランがあって、だからそう呼ばれてるらしいわ」


 カシュラン……耳慣れない響きの名前だ。


「それでなんで、貴方は森の中にいるの?」


「え、あ……えーと……気がついたらここにいて……」


 しどろもどろになりながらそう言うと、少女は感心したように頷いた。


「そうなの。かなり道に迷ってるみたいね」


「そ、そうなんだよ。とにかくどこか家を探したいんだけど……」


 ずっと森の中にいるわけにはいかないし、きっと日が暮れたらモンスターが出てくるに違いない。

 根拠はないけど。

 少女は俺の言葉を疑った様子もなく、そうねえ、と小さく首をかしげた。


「森を抜けて一時間も歩けば人の住む村があって、さらに行けばそこそこ大きな街があるわ。私はその街に行こうと思ってるんだけど……いっしょに来る?」


 と言い、少女はにこっと笑った。

 それは正直ありがたい。

 この世界の知識ゼロの状態でさまようのはまっぴらだし、何したらいいかもわからないから。

 でも女の子だしな……いいのかな……


「え、あ、い、いいんですか?」


 不安を抱えつつ尋ねると、少女は小さく首をかしげて言った。


「ええ。だって私、人について色々と聞きたいから!」


 なるほど。目的があるのか。

 ならお言葉に甘えよう。


「じゃあ、よろしくお願いします」


 そう言いながら俺は頭を下げた。

 すると少女は手を叩いて喜びの声を上げる。


「よかったー! 私はアレクシアていうの」


「俺は……ユーキ。よろしく」


 言いながら俺はまた頭を下げてしまう。


「なんでそんなに頭を下げるの? 人の風習?」


 そう突っ込まれて俺は慌てて顔を上げて首を横に振った。


「そ、そういうわけじゃないんだけど……癖っていうか……俺のいた国ではわりと皆のやっちゃうっていうか……」


「つまりは風習なのね」


 ……そうか、これ、日本人の風習か。

 人の風習って言われると違うけど日本人の風習っていったら合ってるもんな……


「まあ……うん、そうだね」


 そして俺は苦笑した。

 




 

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