エルフ少女とゆっくり異世界旅行

麻路なぎ@コミカライズ配信中

第1話 異世界転移?

 十二月の初め。

 残業して二時間、夜の八時過ぎに俺は会社の最寄駅のホームにいた。

 今年で二十六歳になった俺、七星祐希。

 さすがに五日連続で残業きついわ……

 今、俺の会社は繁忙期。

 だから残業が毎日続くのは仕方ないんだけど、さすがに疲れた。

 明日は休みだ。

 夕食、帰りにスーパーで買って帰らないとなぁ。

 そう思い、俺は顔を上げて辺りを見回す。

 俺みたいに残業がえりなのか、疲れた顔した会社員風の人たちが、スマホを見つめて電車が来るのを待っている。

 俺もきっと、すげー疲れた顔をしてるだろうな。

 そんなことを考えていると、ホームにアナウンスが響いた。


『下り電車が参ります。黄色い線の内側まで下がってお待ちください』


 あぁ、もうすぐ電車が来るんだ。

 そう思い俺はスマホを見つめて時間を確認する。

 二十時二十分。もう少しで電車が来る。

 そして、電車がホームに進入した時だった。


 ドン!


「うわぁ!」


 背中を誰かに推されて俺は、思い切りバランスを崩して前に出てしまい、そのまま線路に落下してしまった。

 え、なんで?

 そんな疑問が頭をよぎるが、線路にうずくまる俺に電車が迫ってくる。



 「きゃー!」


 女性の悲鳴が響きそして、俺の視界を暗闇が支配した。




 痛みとかはなかった。

 ゆっくりと目を開きそして、俺は辺りを見回す。


「……え……?」


 見渡すかぎり木が生えていて、緑色の葉の隙間から日の光が零れ落ちている。

 下に視線を向けるとどう見ても地面。

 どうやら俺は、森の中に座り込んでいるらしい。

 ……ってどういうことだよ?

 俺がいたのは駅のホームで、冬だ。

 でもこれ、明らかに駅じゃないし冬でもない。


「な、なにがあったんだよおい……」


 戸惑いながら俺は立ち上がり、視線を巡らせる。

 俺が着ているのは冬物のコートとスーツなはずなのに、暑さを感じない。

 自分の着ている服を見ると、スーツでもコートでもなかった。

 黒い綿のパンツに、茶色のブーツ、薄手の丈の長いカーディガンみたいなものを羽織っている。

 それに、厚手の布のショルダーバッグ。

 どれも俺の持ち物にはないものばかりだ。

 どういうことだよ? 俺は確か電車を待っててそれで……


「そうだ俺、電車に轢かれて……」


 その瞬間を思い出して俺は、小さく震えながら自分の手のひらを見つめた。

 痛みはない。でも、鮮明に覚えている。迫ってくる電車の光を。


「俺、死んだのか……?」


 そう思い、改めて辺りを見回す。

 じゃあ、ここは天国? でも、いきなり天国とかにいくか?

 なんか三途の川とかあるんじゃないっけ? でも見渡した限り川とかみえない。鳥のさえずりが響く、のどかな森が広がっているだけだ。

 じゃあどこだよここ?

 とりあえず人を捜すか? このままここにいて、熊とかに襲われたら嫌だしなぁ……

 どっちに行けばいいんだろ? なんか手がかりとかねえのかな。

 そう思い、俺はショルダーバッグの中身を確認しようとした。

 その時。知らない少女の声が響いた。


「貴方、どこから来たの?」


「う、えぇ?」


 自分としてもなさけない声をだして顔を上げると、金髪の少女が不思議そうな顔をして俺を見つめていた。

 

 

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