第3話 歩きながら
アレクシアとふたり、並んで歩いているとしばらくして森を出て街道にぶつかった。
俺達の前を馬車が通り抜けていき、俺は思わずその馬車を目で追った。
「すげー……」
馬車なんてまともに見たの初めてかも。
「馬車だー! すごいね、お馬さん大きいー!」
俺よりもハイテンションにアレクシアが言い、文字通り飛び跳ねる。
俺が知っている馬っていうとサラブレットだけど、それよりも身体が大きいし足も太い。荷物を運ぶ役目の馬、なんだろうか。馬には詳しくないから全然分かんないけど。
「えーと、馬車が向かっている方がナトジャの村があるの。その村は私たちもたまに買い物に行くことがあるから顔なじみなの。その先にブレーヌっていうちょっと大きな町があって、私はそこを目指そうと思ってる」
「じゃあ、あっちに行けばいいんだな」
言いながら俺は馬車が進んで行った方を見た。
道はなだらかに下っている様で、もう馬車の姿は見えない。いったいあの向こうにどんな人たちが住んでいるんだろう。
そう思うとわくわくが止まらない。
「そうよ。さあ、早く行きましょう」
アレクシアはそう言って、ぱっと笑顔になった。
歩いて一時間、ってことは十キロ近くあるよなぁ。
普段そんなに歩くことはないから、すぐに足が棒になりそうだ。
歩きながら、俺はアレクシアに尋ねた。
「あの、色々と聞きたいことがあるんですけど……」
「何? そんなかしこまった喋り方しなくても大丈夫よ」
笑顔で言われ、俺は咳払いをしてから聞いた。
「アレクシアさんはその……エルフ、なんですよね?」
「えぇそうよ! あなただって言ってたじゃないの」
そう、なんだけどさ。
にわかに信じられないんだ。エルフを目の前にしているってことが。
それに、俺が知るエルフとアレクシアはイメージが違いすぎる。
「エルフってその、人間嫌いだって聞いていたから……」
俺が知るどの物語でもエルフは人間と仲が悪い。
エルフは人間を毛嫌いしていて近づきたがらないと聞く。でもアレクシアからは嫌悪感を感じないし、むしろ友好的に思えた。
俺の言葉を聞いて、アレクシアは大きく頷いた。
「その通りよ。エルフは人間が嫌いだし見下しているわね」
なんて言って、彼女が笑った。
あ、やっぱりそうなんだ。
嫌いだし見下してるって真正面に言われると微妙な気持ちになる。
「だから私、村を出たの。エルフの村は変化がなくて子供も滅多に生まれない。ゆっくりと滅びようとしているのよね。でもそんなの私には耐えられなくて。それで私、人間に言葉を教わったしモンスターを倒してお金も稼いだわ」
あ、やっぱりモンスターいるんだ。
言われてから俺はアレクシアの装備を改めて見る。
よく見ると腰に短剣をぶら下げている。
エルフって魔法使いのイメージが強いけど武器も使うのか?
「アレクシアさんは戦士?」
腰の短剣に視線を向けて俺が言うと、彼女は首を振った。
「私は非力すぎて戦士にはなれないわ。この短剣は狩りとかに使うの。私は魔法使いよ」
まあそうだよな。エルフといえば魔法使いだよな。
よかった、エルフの拳闘士とかいたらどうしようかと思った。
「魔法ってどういう魔法を使えるんですか?」
「私は攻撃系の魔法が得意なの」
攻撃系って事は炎とか、雷とかだろうか?
今までやってきたゲームの内容を思い出し、魔法ってどんなものがあるのか想像して楽しくなってきた。
「攻撃系って事は、補助系とか回復系とかあるんですか?」
「ええ。って、人間にも魔法使いはいるでしょ? 知らないの?」
う、知るわけないじゃないか。だって俺はただの人間だし、この世界の住人じゃない、から。
なんで俺はここに来たんだろ。もちろん俺の中に答えなんてない。
帰る方法もわからないし、そもそも帰る方法があるかもわからない。
「あー、でも人間って魔法使える人少ないのよね。だから知らなくても仕方ないか。ところで貴方はどんなことができるの?」
目を輝かせて、アレクシアは言った。
どんなことができるのか……俺は冷や汗をかきながら必死に考える。
で、できることなんて俺、ないし……
俺はただのサラリーマンだ。何の能力もない。だから俺ができることなんて思い浮かばない。
「なん、だろう……」
「あ、何ができるかまだわからないの? じゃあどんなことができるか知る楽しみがあるじゃないの」
何ができるのかを知る、か……その発想はなかったな。
「そうか、そうだよね。ありがとう、アレクシアさん」
「なんでお礼を言うの? 面白い人ね」
「だって、何をできるか知る楽しみがある、なんて考えたことなかったからさ」
「あらそうなの? エルフは寿命が長い分、成長や変化を嫌がるのよ。だから人間みたいに成長し変化する存在に私は魅力を感じるの」
成長して変化するねぇ……俺、今年で二十六だし、成長なんてするのかなぁ。
疑問を抱きながら俺は、辺りを見回した。
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