第9話 幽霊村と木こり
「ぐぅー」
やっぱり、寝るの早いな~カラシ。それに比べて俺は……全然眠くねぇ!原因は何となく分かってる。睡眠魔法の多用だ。何回も寝て起きてを繰り返してるから生活バランスがおかしくなってるんだ。
「眠れないの?サラ。」
「ヒガン…」
横を見るとカラシの杖からヒガンが出てきた。
「まあ、睡眠魔法のせいだね~。ドンマイ!」
「……かけたのはヒガンだけどな。」
「頼んだのはそっちでしょ。まあ、そんなことより、どうせ起きてるなら付き合ってよ!」
「付き合うって…どこに?」
「ん~私たちが最初に会った…幽霊村。」
「いいけど…どうして?」
「えっとねぇ~この町、ゴーレムのせいで結構燃えたでしょ?それでね、木材が不足してるらしいから、幽霊村でとってきてあげようかなって。あそこ木で生い茂った山の中じゃん?木こりの幽霊もいたと思うし…」
「なるほど…分かった!行こう!」
ヒガンもこの町のこと考えてくれてるんだな。
「うう、やっぱ薄暗くて怖いな…」
「へぇー、サラは怖いの平気だと思ってたよー。」
ヒガンは立派なアホ毛をゆらゆらさせながら言う。
「まあ、カラシの前だったからな。……我慢してたんだよ…」
「ふーん。以外に男らしいね。」
「以外には余計だろ。」
「あはは、冗談冗談。……半分。」
「半分マジかよ。」
「まっ、そんなことより着いたよ~。みーんな!おっひさあー!」
そうヒガンが呼び掛けると廃れた村から幽霊が出てくる。
「おひさ~ヒガンちゃん。」
「ナノハさん!久しぶりでーす!」
ヒガンがナノハと呼んだその女性も足がふよふよしていて、片目は包帯を巻いていて見えなくなっている。
「君は……少し前に訪ねてきた勇者くんか!私は『ナノハ』。あの時は挨拶できなくてごめんね。」
「いえいえ……俺はサラです。よろしくお願いします。」
「よろしくね。……それで、2人は何しに?」
「サンサードで火災が起きてね。木材が不足してるから、取りに来たの~。」
「サンサード……麓の町か!なるほどね。じゃあ、うちの旦那に頼みな。木こりなんだ。ヒガンちゃんもまだ会ってなかったよね。あっちの村の端のほうにいると思うから。」
「ありがとー!」
言われたところに来てみるとドッドッと何かの音がする。そちらを見ると、誰かが木を切っている。
「すみません…あなたがナノハさんの旦那さんですか?」
俺は恐る恐る声をかける。何てったって斧を持っているんだ。もし、悪い幽霊だったら……
「ん?あんたらはどちらさんだ?見たことねぇが。」
「私はヒガンと申します。ナノハさんの紹介でこちらに来ました。」
「僕は…サラです。」
「ヒガン……ああ!1週間前に来たってやつか!ナノハから聞いたぜ。ほう、噂通りべっぴんさんだ。まだ若いのに幽霊だなんてな…」
「いやいや、そんな!べっぴんだなんて…そんなこと……あるケド。」
「自分で言うか…」
「そして君はサラくんと言ったな?うーん……あっ!もしかして勇者の!聞いたよ。勇者さんが少し前にここに来たって。すまんなぁ、おれはいっつも木を切ってばかりでナノハから聞かなきゃこの辺の情報も知らんのだ。とりあえず、こっちに来てくれ。」
「はい!……えっと、名前は?」
「『キコリ』だ。よろしく。」
木こりのキコリか…分かりやすいな。
「これは…!」
俺たちはキコリさんに小屋へと連れてこられた。そしてその中にはたくさんの木材が積まれてあった。
「死んでも職ってのは体に染み付いてるもんさ。おれはずっと木を切り続けてきた。……別に使うわけでもないのにな。」
「すご~~!こんだけあれば、充分だよ!ありガト!キコリさん!」
「いやいや!それほどでも…あるか!」
この人たち…というより幽霊たちは謙遜というものがないのか…
「ここの木は好きなだけ持ってっていいが……代わりに1つ、頼みたいことがある。」
「なんですか?」
「………おれは木こりとしてずっと夢見てきたことがある。いや!おれだけではない。全ての木こりが夢見たに違いない!」
「何を……?」
「幻の森……『大地の毛根』だ!」
「大地の……もっ毛根?もうちょい良い名前はなかったんですか…?」
「知らん!おれが決めたわけじゃない!」
「そう……それで、大地の毛根ってのは?」
「森さ。とてつもなく巨大な。1本1本の木がめちゃくちゃでかくて、まるで大地に髪の毛が生えてるように見えるからそう名付けられたのさ。おれの夢はその木を1度でいいから切ることだった。…だが!死んで地縛霊となった今!この村からは出られない……そこで、お前たちに切ってきてほしいのだ。そして、欠片でもいい。その木を見してほしい。」
「巨大な木……いったいどこに?」
「さあ?いかんせん幻の森だ。見つからなかったら見つからなかったでその事を教えてほしいんだ。……頼む!」
キコリさんは頭を下げた。もう死んで、自分で叶えられなくなった夢…それを俺たちに…
「分かりました!キコリさんの夢、探して見せます!どのみち冒険してる身ですから!実在するならきっといつか見つかるはずですし!」
「私もできるだけ情報集めとかしてみます!」
「……そうか!ありがとう!じゃあ、ここの木材をほしいだけ持ってけ!」
「ありがとうございます!」
俺とヒガンは声を合わせて感謝した。
「…にしても、この量の木をどうやって運ぶんだ?結構重いだろ、これ。」
「あはは。何言ってるの、サラ。何のために付き合ってもらったと?」
「えっ」
「私はか弱いからね~。魔法を駆使して頑張っても1本ずつってところかな!」
「えっえっ」
「サラは勇者だし……一気に5本とか行けるっしょ!ほら、がんばろ!」
「えっえっえっ」
そして俺たちは力持ちの幽霊たちに手伝ってもらいつつも、朝まで木材を運んだのだった……
「ふわぁ、よく寝ました!…あれ?サラさん?…サラさん!どうしました!?床に寝転がって!何が!?」
ぼんやりとする意識の中、カラシの声が聞こえる。何とか宿まで戻ってきたけどもう…
「ねっ眠い…」
「えっ!朝ですよ!?さっサラさーん!」
俺の意識は夢の中へと落ちていった……
そして…
めっちゃ筋肉痛になった。
俺の異世界生活めっちゃネタバレされるんだが 有部 根号 @aruberoot1879
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