第8話 お兄ちゃんは心配
ゴーレム襲来から3日がたった。あれから俺たちは村の修理の手伝いや行方不明者の捜索をした。
「いた!」
「にゃあお」
尻尾だけ黒色で他が白の猫…飼い主が探してたのはこの子だろう。
「あっ、少し傷がついてますね。治します!」
カラシが手をかざすと猫の傷は治る。カラシはそのまま猫を抱え、飼い主のもとへと向かう。
「いや~サラさんの天啓、便利ですね。」
「ああ、役に立ってよかった。」
俺は自分のネタバレスキルを利用して行方不明者の位置を知り、何人も発見した。そのためにヒガンに睡眠魔法をかけてもらい、起きる、を何度も繰り返していたため結構つかれた。
「でも、ほとんどはカラシの…兄弟子だっけ?彼が町の修理をパパパってやってたな。魔法で家の残骸を動かしたりしてさ。」
「そうですね。さすが、お兄ちゃんです!さすおに!」
「…その辺教えてほしいな。師匠とか、お兄さんのこととか。」
「いいですよ!……けど直接あったほうが早いかもです。師匠はこの町から少し行ったところにある村にいますから。」
「そうなんだ…あっ、着いたぞ。」
「ありがとうございます!」
飼い主さんは俺たちに頭を下げ、お礼した。
「いえいえ、どういたしまして。」
やはり感謝されるというのは気持ちがいい。頑張ってよかった。…つっても寝て起きただけだけど。
「んじゃ、もういっちょ寝るか!」
俺たちは宿屋に戻り、杖からヒガンを呼ぶ。
「オッケー、睡眠魔法ね!」
ヒガンに魔法をかけてもらい、みるみる眠くなっていく。この3日で分かったことだが、ネタバレには2時間ほど寝る必要があるらしい……
ネタバレーーユクエフメイ ハ イナイ
「……起きましたか?どうでしたか!?天啓!」
「…行方不明はいない。どうやら、みんな見つかったらしい。ふぅ~~よかったあ!」
行方不明者はもういない…聞いた話によると死者もいないらしいし、全員助かったのか。
「よかったです!さすが、サラさんです!さすがです!」
「そんなそんな…」
そうはいいつつも嬉しい。人助けとはいいものだな。
「やっと起きたか。」
「えっ」
目を擦り、カラシの後ろを見ると……カラシのお兄さんがいた。
「おっお兄さん?どうしてここに?」
「一段落着いたから様子を見に来ただけだ。…それと、」
お兄さんは顔をしかめて言った。
「お前にお兄さんと言われる筋合いはない!」
「うっ、ごめんなさい……でも、名前知らないので…」
「名前?何だカラシ、教えてなかったのか?」
「えっ、はい!お兄ちゃんとしか教えてません!」
「また、勘違いされるような説明を……兄弟子の『ハバネロ』だ。よく、ネロと呼ばれてる。」
「はっハバネロ…」
カラシの次はハバネロときたか…。
「でもでも!兄弟じゃないのに何でお兄ちゃんと呼んでいるのかとか、師匠のこととかは軽く話しましたよ!」
「そうか…よくやった。」
「へへへ…」
カラシは何だか嬉しそうだ。
「それにしても…よく『ヒートゴーレム』を倒せたな。」
「ヒートゴーレム?ああ、俺たちが戦ったやつか…フレイムゴーレムじゃないんですね。」
「まあ、見間違うのも無理はない。そっくりだからな。」
「へー」
「あと俺が聞きたいのは、よく弱点が分かったな、ということだ。」
「ああ!それ!私も気になってました!サラさんの天啓は目覚めたときにされるんですよね?あの時は寝てなかったのにどうして弱点が分かったのかなって。」
「あれな……どうやら俺の天啓の力も成長するらしくてな。ゴーレムをじっと見つめたら弱点が分かったんだ。……代わりにスゲーつかれたけど。」
「へ~!すごいです!さすがサラさん!さすサラです!」
へへ…照れるぜ。
「……なるほどな。カラシからお前が勇者であることは聞いたが、そんな力まで持っているとはな。………カラシ、大丈夫なのか。」
「えっ、何がですか?」
「お前じゃ力不足なんじゃないか。」
「!……それは…」
「ドジで間抜けでおっちょこちょいなお前は勇者の仲間としてやっていけると思わないがな。」
全部同じ意味だろ……それにしても、
「言いすぎじゃないですか。カラシは…」
「………事実だろ。………1つ教えてやる。あのゴーレムはまだ詳しい生体が明らかになっていない。火が弱点だと判明したのもわりと最近だし、なぜあんな燃えてるやつの弱点が火なのかはまだ分かっていない……どうしてゴーレムの研究が進んでないと思う?」
「…知りません。」
「答えは…あいつはある場所にしか生息してないからだ。そしてその地域は四天王の支配する地域だ。だから誰も近づけず、研究が進まない。」
「四天王?」
「知らないか?魔王の最高幹部である4体の魔物だ。」
「最高幹部……そんなやつが支配している地域のゴーレムがどうしてここに?」
「さあな。だが、俺が言いたいのは冒険を続けるとそんな危険な場所に住む魔物と突然戦うことになるかもしれない…ということだ。」
「!」
「そんな奴らとカラシが戦っていけると俺は思わないな。スライムにもびびるようなやつに。」
「そんな!カラシは…!」
俺は思わずネロのほうへ近づく…がカラシに止められる。
「待ってください!……サラさん、大丈夫です…本当のことですから。」
「カラシ……」
そうは言うもカラシは悲しそうな顔をしている。
「カラシ。一旦外に出てくれないか。俺はこの勇者と話したいことがある。」
「お兄ちゃん…分かりました……」
カラシは顔をうつむかせたまま外へと出ていった。カラシ……俺はネロのほうを睨み付ける。
「ネロさん!何であんな強く言うんですか!カラシは…カラシはすごく強いんですよ!」
「知ってるさ。」
「!」
「じゃあ、何で…!」
「こういうことわざがある…『かわいい子には家で遊ばせろ』。」
逆だろ!
「あいつは強い……他人のためなら一生懸命戦える。」
「だったら、尚更!俺がカラシと一緒にいたらいいでしょう!誰かといればカラシは力を出せるんだから…」
「そうだな。誰かがいればカラシは迷惑をかけないよう恐怖を我慢して戦うだろう。カラシが怖がりなのは昔からだ。大丈夫そうに見えても必死に押さえているだけだ。……そして、それは大きな負担になる。」
「そう…なのか?」
確かによくよく考えれば当たり前だ。カラシはスライムすら怖く感じている。それなのにドラゴンやゴーレムは大丈夫なわけがない……我慢してたんだ…ずっと。
「カラシが今までに何度か仲間を作っては、別れているのを知ってるか?」
「そういえば、カラシのお母さんが言ってた気がします…長続きしないって。どうしてなんですか?」
「理由は簡単…カラシが強すぎるからだ。強すぎてこの辺のやつじゃ釣り合わない。」
「でも、強いならいいんじゃ…?」
「そんなことはない。カラシは自分が強いと思ってないからな。他のやつからすれば、弱いと言うくせに自分達よりめちゃくちゃ強いんだからな…これほど厄介なのはいないだろう。」
「……」
「そして、仲間から別れを告げられる度にカラシは自分の力不足だと思ってしまう。そのせいでさらに鍛えるんだ。……負の連鎖だな、これが。」
「……そう…なんですね。」
「俺はカラシにできれば冒険に出てほしくない。村から出ず、幸せに暮らしてほしいんだ。」
口は悪いけど、この人はカラシのことをよく考えてるんだ。
「ネロさんは…カラシのことがとても大切なんですね。」
「当たり前だろ。…大事な妹弟子だ。」
「そうですか……でも!俺にとっても大事な仲間なんです!」
「……」
「カラシは、冒険をすごく楽しみにしてました。確かに魔物と戦うのは負担かもしれないけど、きっとカラシにとってはこの冒険はそれ以上のものなんです。じゃなきゃ、俺と旅に出るはずがないです!」
「……」
「俺は絶対にカラシと別れたりはしません!最初で最高の仲間ですから!」
「……そうか。だが、言うのは簡単だ。もし、カラシを傷つけたら…」
「分かってます!何されたって文句は言いません!」
「何されても…か……言っとくが俺は勇者だからと言って手加減はできん。……覚悟しとけよ。」
「えっ…はい!」
うう、怖い…けど、カラシと仲間をやめる気なんてさらさらない!覚悟なら…ある!
「まあ、話は以上だ……そうだ、あと別に敬語はいらん。俺は尊敬もされてないのに敬語を使われたいとは思わん。」
そう言うとネロは扉を開け、カラシを呼んだ。…確かにまだこの人を尊敬してはないな…よく知らないし。
「話は終わりましたか…?」
カラシは寂しそうにうつむきながら入ってきた。
「カラシ……大丈夫だ。俺は仲間をやめる気なんて……」
俺がそう言いかけたときだった。
「カラシ。飯にするぞ。好きなものをおごってやる。…何が食べたい?」
ネロに横入りされた。…カラシは落ち込んでるんだ…飯なんて…
「いいんですか!」
「えっ」
カラシは満面の笑みを見せた。
「カラシ、悪かったな。少し言いすぎた。」
ネロさんはそう言ってポンポンとカラシの頭をたたく。
「大丈夫です!お兄ちゃん!それより、私、ヌルマーニュが食べたいです!」
「ぬっヌルマーニュ?」
なにそれ。
「いいな。俺もしばらく食べてない。…だが、ポットニーじゃなくていいのか?」
は?
「はい!ちょっと前にお母さんに作ってもらったので!今はヌルマーニュと……テンセコの気分です!」
「そうか!じゃあ、トルーマ料理店に行くか!」
「はい!」
ヤバい…何が何だかさっぱりだ…
「ほら、行くぞ。サラ…だったか?」
「は、はい。」
2人が足早に店に向かうのに俺はついてった。…どんな店なんだよ…
「サラ。カラシと冒険するにあたって1つ教えといてやる。…あいつは食事がめちゃめちゃ大好きだ。」
「……肝に銘じとく…」
「ほーら!2人とも!速く速くです!」
カラシはそう言って笑顔で駆け出した。
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