第7話 新たなネタバレ!
正直言ってとても怖い。火を纏ったゴーレムは俺の倍ぐらいの身長があって、そんなものがゆっくりと、しかし確実に近づいてくるのだ。
「『ビリリンマル2』!」
俺の今打てる最高の魔法……だが、ゴーレムはびくともせず近づいてくる。
「こいつ…雷も効かないのか…!」
水も効かない、雷も効かない。まだ試してないが風魔法も効く気がしない。……こうなると、近接攻撃しかないわけだが…
「!」
その時とてつもない熱風が俺を襲う。ゴーレムが出したのだろう。熱い!肌が焼けるように熱い。もし、近づこうものならすぐさま全身がやけどするだろう……つまり、近接攻撃も…ムリだ!
「サラさん!後ろの火を消しました!」
「ありがとう!」
俺たちは一旦ゴーレムから距離をとる。一旦……と言ってもこのまま近づきたくない…逃げたい…
「サラさん!どうします?」
「……ムリだ。」
「えっ…」
「俺たちじゃ勝てない。……もっと強い人が来るのを待とう!ここは町だし、強い人だって…」
「それは…難しいと思います。」
「!」
「この町付近には比較的弱い魔物しか生息していません。つまり、その魔物たちより圧倒的に強いあのゴーレムを倒せる人がいる可能性は少ないです…」
「じゃあ、どうするんだよ…俺たちだって…」
「そうは思いません!」
「!…何で…!?」
「サラさんは勇者です!もし、あのゴーレムを食い止められるとしたらサラさんしかいません!私だってできる限り手伝います!」
「…けど、俺はまだ……全然…」
そうだ。いくら勇者に選ばれたといえどもこの世界に来たばっかの俺は全然弱い。
「魔法だってまだまだ使えないし…カラシのほうがよっぽど…」
「そんな!私なんか……きゃっ!」
「カラシ!」
カラシに…火の玉が着弾した!俺が…俺が、ぐずぐず言ってるばかりに!
「大丈夫か!?」
「はい…このくらいならすぐ直せます。……サラさん…」
「なんだ!?」
「サラさんは確かにまだ魔法をあまり使えません。…だから、私が補います!けど、私だってできないことがたくさんあるんです!そこを補って欲しいんです!サラさんにしかできないことをして欲しいんです!」
「俺に…できること?」
俺にできること……俺にしかできないこと……剣での攻撃も、魔法での攻撃も、他の人にできる……じゃあ!俺にしかできないことは…!
「ネタ……バレ?」
「サラさん?」
そう、俺にしかできないのはネタバレのみだ。もやっさんから貰ったネタバレスキルだけだ……
「サラさん!危ないです!」
ふと前を見ると火の玉が目の前まで来ている…やばい!と思ったとき、ジュワッと音と共に火の玉が消える。
「大丈夫か!」
後ろを見ると、何人もの人がいる。町にいた他の冒険者だろうか?水魔法や風魔法でゴーレムを攻撃してくれている…が、
「やっぱり、効いてないな…」
俺は力の抜けたようにそう言葉を漏らす。
「サラさん…諦めたらダメです!私たちで食い止めます!」
「カラシ…」
「その内に、あいつの弱点でも探して欲しいでひゅっ」
噛んでる………カラシらしいな。
「おほん。………とりあえず、私も頑張りますから!『アクアパッツァ』!」
それイタリア料理じゃね。…だが、カラシの杖から出たのは魚やトマトではなく、大量の水だった。…なるほど、『アクア』の進化魔法か。………ふっ。
「ありがとう、カラシ…」
「えっ、何か言いました?」
「何か元気でてきたよ……よし!俺にできることをするか!」
「その意気です!」
俺にできるのはネタバレ…今欲しいのはあのゴーレムの弱点にまつわる情報。……俺のネタバレは目が覚めたときにしかされないものだと決めつけていた。けど、本当にそうなのか?ネタバレスキルだって魔法のようにうまく扱うことができるんじゃないか?
「すぅー」
息を深く吸い、ゴーレムのほうをじっと見る。そして、カラシに魔法を教えて貰ったときのことを思い出す。
「ネタネタ!バレバレ!ネタバレ、来い!!」
俺はゴーレムに意識を集中させ、そう唱える。ぐむむむ……これは!
ネタバレーージャクテン ハ ヒ
来た!できた!意識的にネタバレを出せた!弱点は火!……えっ、弱点が火?あいつ、あんなに燃えてるのに?………いや、こうなりゃやってみるしかねぇ!
「カラシ!弱点が分かった!あいつは……火が苦手だ!」
「分かりました!」
すごいな…一瞬で火が弱点であることを受け入れたぞ。そして、カラシは水を出すのをやめ、
「『バーニング』!」
と唱えた。その火はゴーレムに直撃した。…すると、
「グガガガッ!」
「!」
ゴーレムの様子が…変だ!先ほどまでのどっしりとした感じとは一転し、ふらふらしている。
「今だ!」
「はい!『バーニング』!」
再び、火が当たったゴーレムはかなり効いてるようで、その場で膝をついた。そして、他の魔法使いが放った水や風ですらダメージを負っているようだった。
「トドメです!『バーニング』!!!」
「グガッッ!!」
ついにゴーレムはカラシの火に包まれ倒れた。
「……勝った…やったな!カラシ!」
「は……い…」
カラシはその場に座り込む。
「カラシ?」
「すみません……魔法を連発して、疲れました…」
「そうか……あっ」
俺はカラシに近づこうと歩いたが突然、目眩がした。……どうやら、さっきのネタバレでかなり体力を食ったらしい。けど、勝てたからいいか……と安心したときだった。
「やばいぞ!みんな!火が!」
「えっ!」
ふと周りを見ると火に囲まれている。それはそうだ…ゴーレムを倒したからといって、火が消えるわけではない。油のせいで火が広がるのも早いわけだし…やばいぞ…これは。他の人たちが水魔法で必死に消そうとするが、火は勢いをますばかりだ。みんな疲れて、大量の水を出せないのだ。
「くそっ、せっかく倒したのに!」
「サラさん…ヒガンさんにも声をかけているんですが、ダメです…返事がありません。ぐっすりです。」
「このままじゃ、俺たちも幽霊だ……どうすれば…」
「すみません…私が弱いばかりに…」
「そんなこと…」
「そうだな。」
「!!」
誰だ!?今の声は!?男の声か!?
「カラシ…お前は相変わらず弱いままだ。ったく、世話の焼ける。」
その謎の声が聞こえたかと思うと、当然雨が降り始めた。先ほどのヒガンの雨とは比べ物にならない…豪雨だ。
「なんだ、この雨は!」
「恵みの雨だ!助かった!」
周りの人たちは大きな声で喜んでいる。俺たちを囲んでいた火は次第に弱くなる。
「カラシ……俺たちは助かったのか?……それに、これは!」
地面のヌメヌメがなくなっている。水で油が流された?…と言うよりも油が水に戻った?
「……」
「カラシ?」
「あっ、すみません!ボーッとしてました!」
「……心当たりあるのか?今の声?カラシのこと呼んでたし…」
「えっ、いや!気のせいだと思います!…そんなわけないし……」
「残念ながら…そんなわけある。」
背後から先ほどの声が聞こえる。俺たちが後ろを振り向くと、そこには魔法使いっぽい男が立っていた。髪は黒く、少しボサボサしていて、目には隈がある。なんだか気だるそうだ。
「おっおおお兄ちゃん!?どっどうしてここにいるんですか!」
「えっ、おにい……ちゃん?」
カラシってお兄ちゃんがいたの?えっ?どういうこと……?
「ちょうど帰ってきてただけだ……その男は?」
そのお兄ちゃん?は俺のほうを見る。
「あっ、この人はサラさんです!私の仲間です!すごい人なんで」
「あっそう。」
すっごい興味なさそうに言葉を遮る。
「あっあんたこそ誰なんだ!?カラシのお兄ちゃんってどういう!?」
「………カラシ、説明しとけ。俺は他に被害がないか見てくる。」
そう言って、その男は一瞬のうちにどこかへ去っていった。何なんだコイツは…
「カラシ…説明頼む…」
俺が首を曲げカラシのほうをゆっくりと見ると、
「ぐぅー」
「ねっ寝てる!?」
カラシ…よっぽど疲れたのか?ぐぬぬ…ゴーレムも倒したし、火も消えたしで、一件落着のはずなのにモヤモヤする…
「う~ん………ここは…?」
「おっカラシ、起きたか?」
「サラさん?」
「ここは療養所だ。カラシ、あの後疲れて寝ちゃったからな。町の人が案内してくれたんだ。」
「そうですか……火は!?」
「全部消えたよ。ゴーレムが現れた北東部はかなり燃えたけど、それ以外は大丈夫だ。……さっきの…カラシのお兄さん?が消してくれたんだ。」
「!…やっぱり、夢じゃなかったんですね。」
カラシはどこかうれしそうに微笑んだ。
「…あの男は誰なんだ?カラシって兄弟いたの?」
「えっ、ああ、いや!違います!ややこしい呼び方ですみません!兄弟子って意味でのお兄ちゃんです!」
「あっ兄弟子?」
「はい!小さい時に、兄弟子がなんだかよく知らなくて…とりあえず、『兄』ってついてるから、お兄ちゃんって呼んでたんです!」
「あっ、そうなんだ……いや!ってか、弟子ってことは、カラシに師匠がいるの!?」
「あれっ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないよ……」
「あっ、そうでしたか……これこそまさに『てへぺろ』ってやつです!」
「はっはあ、」
「やっちゃったって意味のことわざです!師匠から教わりました!」
「ことわざなの!?」
ていうかこの変なことわざシリーズは師匠が元凶かい。
なにはともかく、2人とも無事だったし、ゴーレムは倒せたし、よかったのかな?兄弟子や師匠のこととか気になるけど、とりあえず、俺も疲れたので一旦眠ることにした……
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