第6話 炎とゴーレム

「カラシ!」

俺は急いでカラシを起こそうと隣を見るが、そこにカラシはいなかった。

「どっどうしました?」

カラシはすでに起きていて、外出の準備をしていた。おそらく魔法の練習をしに行こうとしていたのだろう。

「すみません。うるさかったですか?もう少し寝てても……」

「いや、それどころじゃないんだ!」

「えっ!……まさか、天啓ですか!?やばいことが分かったんですか!?」

「ああ、天啓によると…町が火に包まれるらしい。」

「町が火に!?やっやばすぎません!?どっどうしましょう!まずは町の人たちに避難してもらって……」

「落ち着いて!町の人たちは俺の天啓を知らない。町が火に包まれるって教えてもなかなか信じないだろうな…」

「でっでは、どうします?」

町が火に包まれる……どうしたものか…やはり優先すべきは被害を最小限に押さえることだろう。

「できることは…火の広がりをなるべく押さえることだろう。例えば、水で家を濡らしとくとか!」

「なるほど!では、水魔法で全部の家を濡らしてきます!」

カラシは急いで外に出ようとする。

「まっ待て待て!そんなのどんだけ時間がかかると思ってんだ。それに、家を水魔法で濡らして回ってるやつなんて端から見たら不審者だぞ?捕まるぞ?」

「うっ、確かにそうです……じゃあ、どうするんですか!?」

「それは……うーん…例えば、雨を降らす魔法とかないの?それだったら自然じゃないかな。」

俺はダメもとで聞いてみる。

「あっ、ありますよ!雨を降らす魔法!」

「まっマジか!じゃあ、早速!」

これは良いぞ。天候を操る魔法まであるなんて!

「…すみません!」

「えっ」

「私は使えないんです……天候系の魔法はとても難しいんです。私にはとっても……ごめんなさい!」

「いや、そんなに謝らなくても!カラシは僧侶だしな!こっちこそそんなムズい魔法とは知らなくて、ごめん…」

ぐっ、どうする?別の策を考えるか?

「うう、凄腕の魔法使いさんでもいれば……」

カラシが嘆いている。……凄腕の魔法使い…待てよ。凄腕かは分からないが魔法使いなら…

「カラシ!ヒガンに聞いてみよう!杖の中にいるって言ってたよな。呼び掛けてみよう!」

「あっ!そうですね!ヒガンさんは魔法使いでしたね!もしかしたら…」

俺たちはカラシの杖に向かって「ヒガン!」と何度も呼び掛ける。すると…

「ふわぁ、なにぃ?」

眠そうにあくびをしながらヒガンが杖から出てきた。

「ヒガンさん!ヒガンさんは、雨を降らす魔法を使えますか!?」

「ん?雨を…降らす?」

そうだ…そういえば、ヒガンは記憶が曖昧で、どの魔法が使えたらあやふやなんだっけ。……いけるか?

「ん~。雨か………使えた気もする?」

「頼む、ヒガン!思い出してくれ!」

「どっどうしたの?そんなに焦って?」

「実は…」

俺は今日のネタバレについてヒガンに話した。

「なるほど…それで雨を降らす魔法ね……頑張って思い出してみるよ!」

ヒガンは額に指を当て、深く考え込んでいる。

「そうだ……確か…………うん!いける気がするよ!」

「ホントか!」

「ホントですか!」

「うん!やってみるよ!……『アメフレイン』!」

何かダジャレみたいな名前だな。

「あっ見てください!」

カラシが窓のほうを指差す。そっちを見ると、

「おお!雨が降ってる。」

ザーザーと結構な量の雨が降っている。

「ふうーー、疲れたあ!多分10分くらいは降り続けると思うから~…私は寝させてもらうよ…」

ヒガンはそう言って杖の中へと戻っていった。雨を降らす魔法と言うのは高度なだけあってかなり体力を使うのだろう。

「とりあえず、これで火が広がりにくくなっただろ!後は…どうするか?」

「そうですね…どうしましょうか?」

「やっぱり怪しいやつでも探すか?突然町が火に包まれるとは考えづらいし…おそらく誰かが火をつけるはずだ。」

「確かにそうですね……やはり、例の悪い勇者が犯人なんでしょうか?」

「どうだろうな…可能性は高そうだが。」

ここ最近のここらで起こった事件にはある勇者が関わっていると、俺のネタバレで分かった。…今回も関わってるかもしれないな。

「まあ、雨がやむまで少し待とうぜ。この雨の中で探すのも大変だし。」

「はい!」

俺たちは外出の準備をし、雨がやむのと同時に外へ出た。

「お~、しっかり濡れてますね!これなら、火も押さえられるでしょう。」

「そうだな。」

俺たちがひとまず安心して、怪しいやつを探し始めたときだった。誰かが大きな声で叫んでるのが聞こえた。

「おーい!逃げろ!フレイムゴーレムが現れた!町の北東部だ!危険だ!戦えるやつ以外はみんな逃げろー!!」

「!」

フレイムゴーレム?何だそれは…なんだかやばそうだ。

「カラシ!フレイムゴーレムって!?」

「フレイムゴーレムは……とにかくやばいやつです!私も戦ったことはありませんが!ちょー危険な魔物っていうのは知ってます!」

そんなやばいやつが町に…?ってか、フレイムってことは……いやな予感がする。……そしてこの予感は的中した。先ほどとは別の叫び声が聞こえたのだ。

「火だ!ゴーレムが火を撒き散らしてる!みんな逃げろ!」

「!……やはりか。」

火をつける犯人はフレイムゴーレムだったってことか!

「サラさん、行きましょう!このままだと、町の人々が危ないです!」

「ああ!」

俺たちはゴーレムが出現したという町の北東部へと走った。ゴーレム…すごい危険なやつらしいが、俺と…カラシがいれば何とかなるかもしれない!ドラゴンだっていけたんだ!俺は心の中で自分を鼓舞した。そして、ゴーレムのいるところへたどり着いた。

「これは……すごい火だ!何でこんなにっ!」

まさにネタバレで言われた通り、町が火に包まれていた。とてつもない量の火がごうごうと町を焼き付くしていっている。現場には俺たちの他にも人がいて、水魔法を使ったり、家を壊したりして、火が広がらないよう必死に食い止めている。

「さっきの雨で火はつきにくくなっていたはずなのに……あっあれ見てください!フレイムゴーレムで……す?」

カラシが指差すほうを見ると、炎に囲まれた中に、石を繋げて作ったような、いかにもゴーレムって感じのずっしりとしたやつがいた。

「どうしたカラシ?」

「いや、あれは…私が本で見た…知ってるフレイムゴーレムと違う…」

「えっ、どういうことだ!?」

「わっ分かりません……ただ、そんじょそこらの魔物とは比べ物にならない…とてつもない魔力量です!」

「そんな…!」

そのフレイムゴーレム?はズシンズシンと音を立て、ゆっくりと歩いている。

「どっ、どうすればいい!?」

「とりあえず!水魔法です!もし、フレイムゴーレムだったら、水が弱点なはずです!」

「分かった!…『アクア』!」

「『アクア』!」

俺とカラシは同時に水魔法を打つ。しかし、ゴーレムに当たる瞬間、ジュワッという音と共に蒸発してしまった。

「なっ!」

「止まったらダメです!打ち続けましょう!」

カラシの言葉に続いて水魔法を何発も打つ。が、どれも蒸発してしまう。やはり、フレイムゴーレムってやつじゃないのか!?

「ジャマ…」

「!今ゴーレムがしゃべった…?」

「サラさん!気を付けてください!なにか来ます!」

ゴーレムはこちらに手を向けて、何かを放ってきた。これは…火の玉!?俺とカラシはとっさに避ける。しかし…

「あっつ!!」

どうやら火の玉だけでなく熱風も出していたらしく、空気が…熱い!

「くっ、危ない!」

ゴーレムはまた火の玉を打ってくる。

「きゃっ!」

「カラシ!」

カラシは足を滑らせこけてしまった…このままだと危ない!

「『アクア』!」

俺は水を火の玉に当て、何とかカラシに当たるのを防いだ。

「大丈夫か!」

「すみません……何か地面がヌメヌメしてて…」

「ヌメヌメ?」

俺は地面に指をつけて、擦ってみる。……ヌメヌメしてる…どうして!?………これはまさか…!

「油…?」

何で油が?それに、地面に水気がない…さっき雨を降らしたはずなのに…

「これ…もしかして、水が油にかえられたんじゃないですか……?」

「そんなことできるのか!?」

「いや!普通はできません!だって、物質を別の物質にかえる魔法は天候を操る魔法よりも、もっともっと難しくて、この世界に100人も使える人はいないって言われてます!私だって1人しか使える人を知りません……」

「でも、実際に変化している…道理で火の広がりが早いはずだ……くそっ、いったい誰が…」

これも例の勇者の仕業か?いや!そんなことを考えるよりもまずゴーレムを何とかしねぇと!

「ジャマ…」

再びゴーレムが火の玉を打つ。

「くっ、一旦退くぞ!」

俺はカラシを抱えて後ろへ走る……が!これは!

「火で囲まれてます!」

火は既に俺たちの後ろまで回っていたのだ。先ほどの火の玉のせいかもしれない。

「カラシ…後ろの火は任せた!」

「サラさん!」

俺はカラシを下ろし、ゴーレムのほうを向く。ズシン、ズシンとゴーレムの歩きに合わせて地面が揺れる。さて…どうするか……!

                ーーー続く


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