第4話 勇者が善人とは限らない
「まっ、警戒したままでもいいからさ。あそこの家にいこう。ボロボロだけどベッドは残ってるから。その子を地面に寝かしたままってのも良くないでしょ?」
「……」
とりあえず、周りに気を付けつつ俺はカラシを運んで言われた家に入った。全体的にボロボロで家具もいろんな所が破損していたが、ベッドは比較的きれいに残っていた。俺はそこにカラシを寝かせ、ベッドの空いたスペースに腰を下ろした。
「これは……?」
目に入ったのはベッドの横にある小机に置かれた写真立てだった。その机に置いてあるものの内、写真立てだけが誇りを被っておらず、きれいに拭かれた形跡があったのだ。中には男性と女性、そして子供の…家族の写真が飾っていた。
「それは、ハンさんの家族写真だよ。大切なようでね。手だけになってもきれいに保存してるんだ。」
そう言うと、女性の霊の肩からひょこっとさっきの手が出てきた。この手ももとは人間だったのか。
「おっと、自己紹介が遅れたね。私は新米幽霊の『ヒガン』。」
「新米?」
「うん。なんてったって1週間前に死んだばっかだし。」
「えっ」
「あはは、いい顔するね~。気にする必要はないよ。後、こっちの手は『ハン』さん。」
「…そうですか……よろしく。」
ハンさんはお辞儀をするように指を畳んだ。
「他の幽霊たちの紹介は…まあ、いいか。結構いるからね。紹介だけで日が暮れちゃうよ。……あっ、どうやら目覚めたみたいだね。」
もぞもぞとベッドの中でカラシが動き出した。よかった。
「う~ん……サラさん?あれ…ここは?私、いったい……」
カラシはまだ状況をつかめてないらしく周りをキョロキョロしている。
「きゃっ!お化け!さささサラさん!にっ逃げましょう!」
「おっ落ち着いて!」
俺は今起こった出来事を全てカラシに話した。
「なっなるほど…そんなことが…」
「ああ。」
「…確かに、ダジャレを言った以上、悪い幽霊ではないでしょう!」
カラシは先ほどまでの不安そうな顔が嘘みたいに晴れた。なんでだよ。
「そうでしょ!いやぁ、こっちの男は全然信頼してくれなくてさ!ひどいよね~。」
「ぐっ」
俺が悪いの?ダジャレってそんな善悪を判断できるものなの?
「まあ、サラさん優しいですからね!億が一に備えてしっかり気を付けてくれたんでしょう!ありがとうございます!」
「ああ…うん。」
億が一なんだ…
「それより、自己紹介ですね!私はカラシです!」
「俺はサラ…」
「あははっ、よろしくっ!カラシ、サラ!」
ヒガンとカラシは楽しそうに笑った。カラシ……やっぱりこの子が一番こわいよ…
「にしても、1週間前に亡くなられたって何があったんですか?この村自体はずいぶん前から廃れてそうですけど。」
「それがねぇ……分からないの?」
「分からない?」
「うん。他の幽霊にも聞いたんだけど、死んでからしばらくは記憶が曖昧になるのはよくあることなんだって。だから私、いつ、どこで、どうやって死んだか分からないんだ。まあ、1週間前に幽霊としてここで目覚めたから、1週間前にここで死んだんだと思うんだけどね。」
「そうなんですか…」
「他の幽霊たちはどうしたの?」
俺はハンさんの方を見ながら尋ねた。
「基本的には、ここの村人や、育てられてた家畜だね。」
「えっ!てことはこの村の人たちはみんな死んだんですか?他の村に移ったから、廃村になったとかではなくて?」
「うん。違うよ。……誰かに殺されたんだ。」
「!」
「ここが廃村になったのは、かなり昔のことさ。何者かにここに住んでいた人や家畜は全て殺された……それが魔物なのか、はたまた人の仕業なのか…真夜中の出来事らしくてね。誰もはっきり見てないんだ。」
「……」
「私たちがね、君たちを脅かしたのには理由があるんだ。……まあ、ただびびらせたいってのもあったケド。」
「理由?」
「うん。私が提案したんだ。この山に来た人を霧で迷わせるように見せて、この村に誘導して、話を聞く。……犯人につながる情報を得るためにね。それで、記念すべき最初のお客さんが君たちだったんだ。」
「そうだったのか……でも、わざわざ村に誘導しなくてもいいだろ。」
「いやぁ、地縛霊ってゆーの?結構な数の幽霊がこの村から出れなくてね。みんなも聞きたいことあるだろうし、ここに呼んだほうが都合がいいのさ。」
「そうなんだ……でも、悪いな。俺は全然この山…どころかこの辺について知らなくてな。助けになれない…」
「私も、何度かこの山に来てますが、廃村のことすら知りませんでした。」
「そっか…まあ、普段来ないような山奥にあるからね~ココ。……でも、なにかない?この山でなくても、この周辺…例えば、ここに来るまでに村を通ったでしょ?その時に気になることとか?」
「………」
「カラシ?」
カラシは思い当たることがあるのかなにか考え込んでいる。
「気になってたことが2つあるんです。」
「どんなの?聞かせてほしいな。」
「1つは、一昨日にキングドラゴンと戦ったことです。」
「キングドラゴンと?変だね…」
「えっ、そうなの?」
何か俺だけ置いてけぼりにされてる。
「はい…だって、ドラゴンはもっと遠くに住んでますからね。あの時は腹が減ってるから村まで来たって思いましたけど、よくよく考えたら腹が減ってるからといってわざわざこの辺の村まで来るかな?って。」
「それってつまり…?」
「誰かが連れてきたってことだね。ドラゴンを連れてこれるなんてよっぽどのやつだよ。……それで、2つ目は?」
「2つ目は、昨日、ここの近くのメコニ村付近での出来事です。この村では、オークの大量発生に困らされていました。しかも、どこから来ているのか分からなかったらしいです。」
「それで、俺たちが湖の中から出てきたのを突き止めたんだよな。」
「ほう?湖の中?」
「ああ。何か魔力の壁?的なので湖の中の洞穴に蓋をして、そこに住んでたんだ。」
「そう!そこなんです!オークが魔力の壁を作れるとは思えないんです!」
「そっそうなの?」
「確かにね…オークは魔力の扱いが下手だからね。そんな器用なことできるとは考えづらいね。」
そういえば、昨日戦ったボスオークも魔法とか使ってこなかったな。…ってことは……
「誰かがオークの住みかを作ったってことか?」
「おそらく…そうです。誰かが分かりづらいところにオークの住みかを作って、
村の人たちを困らせてたんです。」
「……なるほどね。ちなみにオークがそこに住み始めたのはいつか分かる?」
「えっと…確か酒場での情報によると……5日前…だったと思います。」
「ありがとう。良い情報だ。」
「そうですか?」
「うん。その2つの話の誰かがこの村を襲ったやつと同じかは分からないけど……1つ思うことがあってね。」
「何ですか?」
「その2つの出来事は、2日前と5日前で起こったんだろう?しかも、どちらもこの辺の村だ。つまり、2つの事件の犯人は同じだと推測できる。」
「確かにな…同時期にそんな性格悪いことするやつが何人もいるって思わないしな。」
「それと…私の死もその犯人が関わってるかもしれない。」
「!」
「なんせ私が死んだのはほんの1週間前だ。しかも、その2つの村に近いこの山で。自分で言うのもなんだけどね。私が、単に山で足を滑らしたとかそういう事故で亡くなったとは思えないんだ。」
「……なるほど…殺されたかもしれないのか。」
昔に起こったこの村が襲われた事件……ここ1週間で起こったヒガンの死、キングドラゴンの出現、湖の中のオーク……これらの犯人は一体?どうにかして突き止めてあげたいが、探偵でもないし、そんなの分かるわけ……いや、
「分かるかもしれない…犯人。」
「えっ!ホントかい!?」
ヒガンは目を見開いてこちらを見つめる。
「あっ、もしかしてサラさん!」
「ああ、天啓……それで分かるかもしれない!」
まさかネタバレスキルがこんな風に役立つとはな。
「どういうことだい?」
「俺、実は特殊な力を持っていて。そのお、俺にとって重要なことが分かるんだ。俺もまだ自分の力を完璧に理解しきってはないから、絶対とは言えないけど、おそらく犯人が分かるはず!」
如何せん、もやっさんの説明が結構雑だったからな。本当に明らかにできるか半信半疑だが…
「ほう、面白いね!ぜひ、使ってみてほしい!」
「それが…自分の意思では使えなくて、目が覚めたときに分かるんだ。朝起きたときとか。」
「そう……じゃあ、睡眠魔法で軽く眠らせてみようか?10分位で目が覚めるはずだよ。」
「あー、じゃあ、お願い。」
俺も、これらの事件について気になるし。
「いくよ…『スリープ』。」
そう言ってヒガンが俺の頭に手をかざすと急な眠気に襲われる。………
ネタバレーーヤマ ニハ ユウレイ ガ イル
「あれ?」
このネタバレは…今朝と同じだ。
「目覚めましたね。どうでした?サラさん。」
「いやぁ、それが今朝と同じやつだった。…なんでだろ。」
その日1日は同じネタバレしか出ないとか?でも、一昨日は違うやつがでたよな…
「もしかしたら、10分位の浅い眠りじゃ駄目なのかもね。どうする?もっと深く眠るように調整できるけど?」
「そうだな……よろしく頼むよ。」
自分のこのネタバレの力についても知りたいし。
「じゃあ、『スリープ』。」
再び俺を睡魔が襲う。さっきよりも、眠……い………………
ネタバレーースベテ ノ ハンニン ハ ー
おっうまくいったか!?全ての犯人はー!
ーユウシャ
「なっ!!」
俺は強く目が覚める。どういうことだ!?
「どうしました!?サラさん!汗かいてますよ!嫌な夢でも?それともヤバい天啓だったんですか!?」
「後者だ……犯人が分かった。全ての犯人は…………勇者…!」
「!」
「勇者?そんな…それで!どの勇者なの!?」
「いや、そこまでは…」
「そう……でも感謝するよ!かなり絞れた!」
「そうですね…勇者様は5人しかいません!……でも、本当に勇者様が?」
「ああ、俺も驚きだ……勇者ってみんなを救うようなやつじゃないのかよ…しかも、全ての犯人ってことはこの村を襲ったのも、ここ1週間の事件も全部勇者1人が?」
俺がそう言葉を漏らすと、ヒガンは首をかしげて言った。
「それはどうだろう。サラの天啓?ってやつで分かったのは主犯…いわゆる黒幕的なもので、共犯者もいるかもしれないよ。」
「………」
その場に沈黙が流れる。まさか、こんな事実がネタバレされるなんて………その時、パンっという手を叩く音がこの沈黙を破った。
「まあ、とりあえず!いい情報がつかめてよかった!ありがとね!」
ヒガンは満面の笑みでこちらに微笑んだ。
「ヒガンさん……」
「君たちは旅の途中だろう?足を止めて悪かったね。ほら、山の麓の町まで案内しよう。」
「悪いなんてそんな…私たちも旅をしながら探してみます!その勇者様…いや、勇者を!」
「ダメだ!」
「えっ」
「勇者というからにはかなり強いだろう。私たちは既に死んでいるからいいが、君たちまで危険な目に遭わせたくないよ。」
ヒガンは先ほどと打って変わって真剣な表情だ。けど…
「大丈夫だ、ヒガン!なんてったって…」
俺は胸につけているバッチを見せつつ言った。
「俺も勇者だからな!」
「!!」
「そうですよ!サラさんは勇者なのです!すごいでしょ!」
「なるほど……そりゃすごいね!目には目を…勇者には勇者を…か。あはは、じゃあお願いしようかな。悪い勇者探しを。私たちもできる限り情報を集めとくからさ。ありがとね…何から何まで。」
ヒガンとハンさんはお辞儀をした。
「いえいえ、『善は金なり』です!」
「なっなにそれ?」
「良いことをするとお金になって返ってくるっていう、ことわざです!」
「なんだそれ。いやらしい意味だな……」
「あははは、物知りだね!」
その後俺たちはヒガンに案内され、山を降りて無事に目的地の町についた。どうやら、『サンサード』という名前らしい。
「じゃ、さようなら。ヒガン。」
「さようなら!ヒガンさん!」
「うん!ばいばーい!」
俺たちはヒガンとお別れし、夕日に染まった町へと入っていった。
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