第3話 幽霊って怖くね

ネタバレーーヤマ ニハ ユウレイ ガ イル


チュンチュンっと小鳥のさえずりが聞こえる。あの後どうやら熟睡できたらしい。よかった、よかった。

「ん~」

体を伸ばしつつ、隣を見ると、カラシがいなくなっていた。トイレにでも行ったのかと思っていたらガチャッという音と共に扉からカラシが帰ってきた。

「あっ、サラさん起きたんですね。おはようございます。ちょっと魔法の練習しに外に出てました。」

「そうか…おはよう。」

朝早くから魔法の練習か。すごいな。俺は受験の時期でも全然勉強しなかったのに……見習わなきゃな。

「サラさん、疲れはさっぱりとれましたか?今日は結構大変ですからね!」

「大変?」

「はい!山を越えなきゃ行けませんから。」

「山……」

「どうかしました?」

今日のネタバレ…山には幽霊がいるだったかな。幽霊…嫌な予感がするな。

「カラシは幽霊大丈夫?」

「えっ、幽霊ですか?……大丈夫じゃないないないです!」

つまり、無理ということか。薄々分かってたけど…

「実はな、今日の天啓が山に幽霊がいる、だったんだ。」

「山に…?………」

「無理そうなら、別の道でも進むか?山を通らない道もあるだろ?」

「ありますけど……遠回りですし…」

「遠回りってことは目的地があるんだな。」

「はい。山を越えたところに町がありまして、そこを目指そうかなって思ってます。」

「町…か。」

「町に行ったら、いろんな情報を得られますからね。魔王退治に有益なものもあるかもしれません。」

「なるほっどね。じゃあ、山を越えるのが1番か。」

「そうですね……幽霊…うぅ…お化け…」

見るからにカラシの元気がなくなっていく。

「本当に大丈夫か?」

「……はい!いけます!勇者の仲間として、うじうじしてられません!」

「という割には足がガクガクですけど?」

「あっ」


「う~ん。今日もいい天気だな!ご飯を食べてお腹を膨らませたし、いざ出発するか!」

「そうですね!」

「おっ、結構元気出たじゃん。」

「はい!よくよく考えたら山に幽霊がいたとしても、出会うとは限りませんからね!」

「それもそうだな!」

何かすごいフラグ立てた気がするけど、まあ、大丈夫だろ!ともかく、俺たちはメコニ村を出て山に向かって歩き始めた。

「おお、でかいなあ~山!俺、山登るの初めてだわ。」

「そうなんですね!私も久しぶりです。前来たときは風魔法でひとっ飛びしましたからね。」

「へ~、風魔法ってそんな使い方もできるんだ。」

面白いな、魔法って。魔法感知とか、結界魔法ってのもあるらしいし。後、昨日カラシが俺に『ヒール』っていう回復魔法も使ってたっけ。

「いや~足腰が鍛えられますね!あっあれ、オークがいます。気を付けましょう。山にも魔物はいますからね。」

「そうだな…静かに通るか。見つからないに越したことはないしな。」

正直、山登りながら魔物と戦うのはめんどくさい。俺たちはゆっくりと木に隠れつつ歩いた。

「そういえば、昨日の湖を思い返したら、1つ、昔話を思い出したんです。」

「昔話?どんなの?」

「はいーー昔々、あるところに木こりの男がいました。その男がある日いつものように木を切っていると、つい手が滑って斧が湖に落ちてしまいました。」

あーこれ、女神が現れて、「あなたが落としたのは金の斧ですか?銀の斧ですか?」って聞かれるやつか。この世界にも似たような話があるんだな。

「すると、湖からきれいな女神様が現れました。そして、女神様は言いました。「あなたが落としたのは、金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?…それとも銅の斧ですか?」」

あれ?

「「それとも石の斧ですか?それとも木の斧ですか?それとも鉄の斧ですか?それとも水晶の斧ですか?それとも…」」

「待て待て待て!どこまで続くの!?多くない!?」

「えっと…綿の斧まで続きます!」

「何だよ綿の斧って…」

「まあ、後30分ぐらいで終わりますから!」

「長いよ!?」

「ちなみにこの話の教訓は、落とし物には気を付けろ、です!」

「まんまじゃん。」

そんな話をしていると突然、霧が俺たちを覆った。

「霧…山だからコロコロ天候が変わるのかな。……にしても一昨日の宴を思い出すな。」

「……」

「どうした?」

「…その通りかもしれません。」

「えっ」

「あの宴の時の霧は魔法で出した……いわば人工の霧なんです。」

「人工の霧……これもそうってことなのか?誰かが魔法で?」

「はい。普通の霧に比べてこの霧には魔力が漂っています。これは、霧魔法で出された証拠です。」

時間が立つにつれだんだんと霧が濃くなってくる。太陽の光も遮られ、暗さも増してきた。

「ヤバいな…こんなんじゃすぐ迷子になるぞ……試しに風魔法で霧を吹き飛ばしてみるか。…『ウインド』!」

発生した風により周りの霧がなくなっていく…が、すぐにまた霧に覆われる。

「駄目ですね……とりあえず…『フレイム』!この火で照らしてゆっくり戻りましょう。」

「そうだな。なるべく真っ直ぐ山を登ってきたはずだから、同じように真っ直ぐ戻ろう。」

と言っても霧が濃すぎて真っ直ぐ進むのも難しい。俺たちは気を付けながらゆっくりと来た道を戻り始めたが、どんだけ時間が経っても戻れる気配はない。その時、ひゅーっと何かが背後を通った。

「何だ?」

後ろを向くも当然見えない。

「どうしました?」

「いや、なんでもない。気のせいだ。」

そう言ったとき、再びひゅーっと後ろを何かが通った…いや、後ろだけじゃない。横も前も、何なら上の方からも何かが通る音がする。

「なっなんですかコレ!?」

どうやら、カラシも気づいたらしい。

「分からない……もしかして…」

「きゃー!」

「カラシ!」

カラシが叫び声をあげ、ドサッと座り込んでしまった。

「どうした!?何かあったか!?」

「あっあれ!」

カラシが指差した方を見ると、霧の中に何かの影が見えた。その影はゆらゆらとしていて周りを飛んでいるようだ。

「これは…まさか!」

「やっやめてください!そんなわけないです!きっと気のせいです!ほら!早く戻りましょう!」

カラシはすぐに立ち上がり、来た道を戻ろうとする…が、

「あれ?どっちから来ましたっけ…?」

「えっとぉ…」

ヤバい……何かに気をとられたせいで、どっちに進んでたか分からなくなってしまった。

「どどど、どうしましょう!」

「おおお、落ち着け、カラシ!落ち着いて考えれば……」

俺たちは周りを必死に見るが、霧のせいでやはり何も見えない。さっきまであった影もどこかへ消えてしまった…

「ばあ!!」

「!!! きゃー!」

「わっ、なっなんだ!」

目の前に突然、浮いている女性の頭が現れ大きな声でおどかしてきた。

「にっ逃げましょう!おっ、お化けです!」

カラシは俺の手をつかむと勢いよく走り出した。

「わっ、ちょちょ!」

「うぅ、お化けぇ…幽霊ですぅ!サラさんの天啓通りですぅ!」

今にも泣きそうな声で叫びながら、カラシは俺をつれて霧の中を走る。

「ちょっ、カラシ!危ないよ!霧に覆われてるし!」

「ですが、このままだと幽霊に捕まりますぅ!私たちも幽霊になっちゃいます!」

「でっでも!」

「わっ!」

カラシが声をあげると同時に、俺ごと転んでしまった。

「いてて…」

「うう……あっ、すみません!何かに引っ掛かってしまって…」

俺たちはカラシの足元に目をやると、誰かの手がカラシの足をがっちり握っている。

「ひぃぃ!!」

カラシは必死に手を外そうとするが、なかなか外れない。

「誰だ!『ウインド』!」

俺は誰が握っているかを確かめるため、一旦霧を追い払った。するとそこには…

「てっ手だけ…!?」

「きゃっ、きゃあああ!!」

「カラシ!」

カラシは思わず泡を吹いて気を失ってしまった。そりゃ、仕方ないだろう…俺だって心臓がバクバクいっている。なんてったって手しかないのだから。手首より先…腕や体は一切ないのだ。

「なんなんだ…これはっ!」

俺が強く動揺していると再び後ろに何かの気配を感じた。

「もー。ハンさんやりすぎっ!気絶しちゃったじゃん。」

「だっ誰だ!」

振り向くとそこには、先ほどの女性の顔があった。ただ、今回は体もついている。さっきは霧で首より下が隠れていたのだろう……と思ったが、よく見ても下半身はない。腰から下がふよふよしてるのだ。まるで、ソフトクリームを逆さにしたみたいにふよふよと。

「なっなんなんだよ…お前らは!」

「ふっふっふ……見て分かんない?ユーレイだよ。ユーレイ。とりあえず、あっちで話をしようか。」

女性の霊がそう言うと、霧が少し薄くなり、周りの景色がぼんやりと見えてきた。

「ここは……村?」

「そっ、廃村。大昔に廃れた村で今は誰も……いや、私たち幽霊以外は使ってないよ。」

「……」

「いや~悪いね。軽く脅かすつもりだったんだけど、やりすぎちゃったね!」

結構軽い感じなんだな…

「この霧もお前らが?」

「そーだよ。私たち太陽が苦手だからさ。ある程度は光を遮らないといけないの。さあ、こっちにおいで!あっその女の子も連れてかないとね。」

そう言って幽霊はカラシに触れようとする。

「待った!まだ、お前らを信用した訳じゃない…カラシには触るな。」

「ふーん。カラシっていうんだ、その子。……でもまあ、警戒しなくてもいいよ。私たち悪い幽霊じゃないし。つっても説得力ないか。脅かしちゃったし。」

女性の霊は軽く首をかしげながらなにかを考え始めた。その女性は茶色の長髪で、アホ毛がぴょんっと立っていた。そして、紫の服にマントをつけていて、まるで魔法使いのようだ。

「う~ん…どうやったら信用してもらえるかなあ?みんな、どう思う?」

そう言うと周りに同じようにふよふよした霊が集まってきた。この女性のように人の形の霊もいれば、豚や鶏っぽい霊、足だけの霊などいろんなのがいた。俺は恐怖を必死に押さえつつ、カラシに危険がないよう注意した。

「なるほどなるほど…その作戦いいね……キミ!」

「なっなんだよ。」

「布団が吹っ飛んだぁー!」

「……へ?」

「アイスを愛す!鳥の言うとーり!」

「はっ?なに言って…」

「米が謝った「コメンナサイ」!」

「ちょっ、ストップ!ストップ!」

「ん?どうした?」

「こっちの台詞だ……急にダジャレを連呼し始めて…」

「だって、悪人はダジャレを言わないもんでしょ。つまり、私たちは悪い人じゃないってコト!…あっ、人ではないか。」

「何だよその理論…」

まあでも確かに、こんな変なことを突然言い出すやつが悪者には感じないけど……全く変な幽霊に出会ってしまったものだ……



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