第2話 異世界といえば成長だよね!

俺は深呼吸をして頭をスッキリさせたあと階段を下りるとカラシのお母さんである『ハーラ』さんがリビングに立っていた。

「おはよ…というより、こんにちはですかね?」

俺は真昼の日差しが差している窓を見て言った。

「そうね、こんにちはサラくん。カラシから聞いたわ。大変だったわねぇ、いきなりドラゴン退治だなんて。それも村の中で。ありがとうね、村を守ってくれて。」

「いえいえ、そんな…カラシのお陰ですよ。」

「ふふ、そう?」

カラシのお母さんはどこか嬉しそうだった。

「それより、カラシはどこ行ったんです?」

「あの子はご飯を食べて、特訓しに行ったわ。」

「特訓?」

「ええ、時間があると魔法の特訓をよくしてるの。あの子、すごい努力家だからね。さあさあ、サラくんもご飯お食べ。」

「ありがとうございます。」

俺は机に座り、食事に手をつけた。……やはり、あのことが気になる。

「あの…ハーラさんは大僧侶トウガって知ってます?」

「えっ、あっそのお、そうね…知ってるわよ?」

いかにもギクッと聞こえてきそうなくらい動揺している。

「もしかして…正体知ってます?トウガの…」

「……サラくんは知ってるの?」

「…はい。」

「じゃあ、隠す意味ないわね。」

「やっぱり、カラシなんですか?」

「ええ、そうね。」

やはり、ネタバレは正しいのか。トウガがカラシ…

「どうして、カラシ自身は気づいてないんですか?カラシはトウガに憧れて僧侶になったって言ってましたし。」

「それはね……実は最初は作り話だったの。」

「作り話?」

「ええ。あの子は昔ね、特にやりたいこととかもなくのんびり暮らしてたの。でもやっぱり、親としては何か将来の夢とかもって、一生懸命生きてほしいなと思ってね。そこで、私が僧侶だったのもあって、興味もってほしいなと思ったから…」

「大僧侶トウガの作り話をしたんですか?」

「うん。その場で適当に作った話…でもカラシはすっごく興味を持ってくれてね。大僧侶トウガみたいになりたいって一生懸命魔法の練習とかするようになったの。」

確かに俺も小さい頃テレビに影響されて、将来はヒーローになって怪獣を倒すんだ―とか言ってたっけな。

「それであの子成長して、外の世界に冒険しに行ったりしたの。その時ね、当然カラシはトウガが存在するって思ってるから聞き込み的なことをいろんな村とかでしたらしいの。」

「なるほど…」

「それでいてあの子すごい強いじゃない?」

「はい。」

俺はキングドラゴンと戦っていたカラシを頭に浮かべた。

「それで、いろんな場所を回るうちにその実力に気づいた人が出てきたらしいの。そしていつしか、カラシが聞き込んでいる大僧侶トウガと、その聞き込みをしている強い僧侶のカラシが合わさったらしいの。」

「はあ…作り話がカラシ自身を差しているってどこかで誤解されたわけですね。」

「ええ、そういうことなの。今となってはこの村ではトウガの正体がカラシって知ってる人も多いわ。それに加えて他の場所でも結構トウガの噂が広がってるみたいでね。正体まで知ってる人はほとんどいないと思うけど…」

「そうなんですね…でも、やっぱりどうしてカラシ自身が知らないのか気になります?今の話だとカラシの耳に入っていてもおかしくない気が…」

「それはねぇ、あの子は自分が強いってことに気づいてないのよ。結構びびりなのもあって心の底からこんな自分がトウガなわけないって思い込んでるの。」

そういえば初めてカラシにあった時スライムに悲鳴を上げてたな…今思えばスライムぐらい楽勝だろうに…

「ごちそうさまでした!」

カラシの話を聞いてるうちにご飯を食べ終わった。カラシ……何かすごい子と仲間になったなあ。

「カラシってどのくらいで帰ってきます?」

「うーん。あの子集中しちゃうと何時間でも特訓するからねぇ……そうだ!少し散歩してくれば?まだこの村に来たばかりでしょう?」

「そう…ですね!散歩してきます。」

そう言って俺は家を出てのんびりと歩き始めた。太陽がサンサンと俺を照らす。…sunだけに。

「おい!にいちゃん!」

しょうもないことを考えていると誰かに肩を叩かれた。振り向くと、目に傷があり、頭に毛はなく、アゴヒゲの生えた強面のおっさんが立っていた。

「ひぃ!なっなんですか!?」

「ははは!そんなとぼけんなって!見てたぜ、ドラゴン倒したの!いやすごいね~!」

「!」

突然の褒め言葉に驚きを隠せない。

「えっ、いや倒したのは俺じゃなくて…」

「カラシちゃんだろ?だがにいちゃんも体張ってんの見てたぜ。わざと食われて爆発だなんて俺にはできないね!」

カラシのこと知ってるのか…この村に住んでる人なのかな?

「そうっすか?ありがとうございます。」

「んー堅いねぇ。敬語なんてよしなよ!俺は『ゴーダ』。よろしく!」

「ああ!よろしく、ゴーダ。俺はサラ。」

俺はゴーダが差し出した手にがっちり握手した。何かこういう人とすぐに仲良くなれるのも異世界っぽくていいな。

「それでよサラ、話したいことがあってな。ドラゴンのことなんだが…」

「ドラゴン?それが…どうした?」

「あんたらが倒したあと当然死体が残るだろ?頭は爆発して吹っ飛んでだが…それで残しとくわけにもいかないから換金しといたんだ。もちろんその金はあんたらのもんだがよ…1つ提案があってな。」

「提案?」

「ああ。ドラゴンなんて大層なもん早々倒せないからな。その記念に宴的なのを酒場でしないかって話になってな。もしよかったらそのお祝いの資金にその金使っていいか聞きたくてよ。当然、サラとカラシちゃんが主役のお祝いだ!絶対に楽しめるようにはするぜ!」

宴…みんなでどんちゃん騒ぎってことか?いいなそれ!すっごい楽しそうだ。そう言うの憧れてたんだよなあ~。大人数でわいわい騒ぐの。

「はい!ぜひ!」

「ははは!じゃあ、準備しとくぜ。夜になったら酒場に来てくれ!そんじゃ!」

ゴーダは大きく手を振りながら去っていった。酒場……そういえば俺酒飲んでいいのかな?法律とか…あるのか?まあ、後で考えればいいか!

「お~い!サラさ~ん!」

聞き覚えのある声が聞こえた。……あっ!よく考えたらカラシになにも言わず宴にお金使うこと許可しちまった……

「サラさん!散歩どうでした?すみません、待たせてしまって。」

「えっいや…俺の目覚めが遅いのが悪いし…そんな……」

「どうかしました?」

「ごめん!」

俺は正直に今あったことを話した。カラシは少し驚いたようだが、すぐに微笑んで、

「いいですよ!全然!私もみんなで騒ぐの大好きですし!それにドラゴンを倒せたのはサラさんのお陰です。どう使おうと文句はありません。」

「そう?ありがとう!」

「ふふ、いいですね~楽しみです、宴。…にしてもどうします?夜まで時間ありますし…魔法の練習の続きでもします?」

「うーん…そうだ!聞きたいことがあってさ。」

「聞きたいこと?」

「魔法って名前あるの?そのまま火の魔法とか言って使うのも何かあれだし…」

やっぱり、魔法を使う以上呪文的なのを唱えたいなあ~って薄々思ってたんだよな。

「ありますよ!名前!魔法を使うときは呪文を唱えるのが一般的です。例えばですね…火の魔法だったら『フレイム』、水の魔法だったら『アクア』です!」

「へ~結構分かりやすいね!じゃあじゃあ!雷魔法は!?」

「雷は……『ビリリンマル』です!」

「えっ」

「『ビリリンマル』です!良い名前ですよね~」

「まっまたまた~、カラシったら冗談がお上手なんだから~。ホントは『サンダー』とかでしょ?」

「ふふふ、冗談じゃないですよ~。サンダーって面白い名前考えますね!」

「うっうそぉ~」

そんな…バカな!俺の憧れの雷魔法が…ビリリンマル?そんなゲームの最初の敵の名前みたいな…

「後は……風魔法ですね!風魔法は『ウインド』です!」

「そうなんだあ…」

うう、ますます何で雷だけ変なの?

「あっ、ちなみに爆発魔法は『ケッコウオトデカイカラミミフサイデ』です!」

「もう文じゃん。」


とりあえず、夜まで魔法の練習をすることになったので草原に来た。

「メラメラ!火、出ろ!」

「おお~もうお手の物ですね!サラさん!次のステップは、心の中ではメラメラ!火、出ろ!って念じて、口では『フレイム』って唱えるんです!」

「なるほど…『フレイム』!」

メラメラ!火、出ろ!

すると、ぼわっと火が出た。

「できた!」

「さすがです!サラさん、すごいですね!私は習得するのに結構時間かかりましたよ。」

「へへ!そう?」

うれしー!やっぱ褒められるとイイネ!

「この調子だと進化魔法もすぐできますよ!」

「進化魔法?」

「はい!例えば…『フレイム』ですが、鍛えていけばそのうち一瞬で木々を灰にできるぐらい強くなります。それで、ただのちっぽけな火とそのような強い火を一緒にするのもどうかということで昔の人が『フレイム』の1段階上の強さの魔法……火の進化魔法『バーニング』って名付けたんです。」

「なるほど…上位互換の魔法ってことか……」

そういや、RPGとかでもあるよな。そういうの。

「ちなみに火の魔法はもう1段階上があるんですが…それは、お楽しみです!」

「え~気になるぅ~」

「初めから全部知ってたらやる気なくなりますからね!大丈夫ですよ、サラさんほど才能があればすぐ使えるようになります!」

「そうかな………待てよ。」

「どうしました?」

「いや、進化魔法になれば名前変わるんだよな?」

「そうですよ!」

だったら…まだチャンスあるじゃん!雷魔法…ビリリンマルなんて変な名前だけど進化したらもしかして…

「カラシ先生!雷魔法…俺!鍛えたいです!」

「おお!いい心意気です!頑張りましょう!」

そして俺らは夜になるまで特に雷魔法を鍛えた。何度も何度も魔法を使う度だんだんなれてきて少しずつ強くなってきた。


そして夜ー


「ここが、酒場?」

「はい!私も来るの久しぶりです。」

何か緊張するなあ……俺はゆっくりと扉を開ける。

「いらっしゃーい!!!」

パーン パーンとクラッカーのようなものが弾けるおとがする。中にはたくさんの人にたくさんの食べ物や飲み物…まさに俺の想像していた宴だ!

「よう!主役のお二人!今日は楽しんでいけよ!」

「ゴーダ!」

「はは!さっきぶりだなサラ!聞いたぜ。あんた勇者だったんだな!すげぇーぜ!この世にたった4人…いや、サラをいれて5人しかいないんだぜ!」

「えっ、そんな少ないの!すげー俺!」

「ははは!自分で言うか!まあ、とりあえず座れよ!ご飯も酒もいっぱいあるからな!」

俺とカラシは近くの空いている椅子に座った。

「じゃあ、ご飯とってくるか!カラシ、よかったな!たくさん食えるぜ。」

「も~。そんな食べませんって。お米も5杯までって決めてますし!」

……何か増えてね?


バイキング形式みたいになっていて俺たちは各々好きな食べ物をとって食べた。

「あれ?サラさんはお酒飲まないんですか?私はすぐ酔うので飲んでませんけど…」

「えっ、あ~ね…俺まだ18だから……」

「それがどうしました?」

「!やっぱり…年齢とか関係ないの?いくつでもいいってこと?」

「まあ、いちおう16歳からって教わってきましたけど…特に決まりはないですよ?サラさんが住んでいたところはそういう決まりがあったんですね。」

「なるへそ…」

さすが異世界というべきか…そういう法律はないのか。でも、何か…お酒は避けときたいな。うーん…まだこっちの世界に慣れねぇなあ。

「なんにせよ、明日からは冒険です!飲み過ぎ食べ過ぎは控えましょう!」

食べ終わった皿が積み重なって顔が見えなくなってるカラシがなにか言っている。にしても…

「冒険…明日からするの!?」

「はい!ずっと村にいてもあれですからね!せっかく仲間ができたんです…やっぱり冒険したくなるものでしょう!」

「確かにな!」

冒険かぁ~ワクワクするなあ。そう考えたら今日の宴も初めての冒険の門出を祝ってるみたいに感じるな。

「2人とも楽しんでるか?」

「ゴーダ…お前もな!」

「ははは!俺は楽しんでるぜ!2人とも酒は苦手なのか?まあ、他にも飲み物はあるからな!もっと盛り上がってこーぜ!」

「ゴーダさん…お言葉は嬉しいんですが、私たち明日から冒険に出るんです!」

「おお、そーか!それじゃあ、あまり遅くまではいれないな……せっかくだし最後にアレやっとくか?」

「アレ…ですか?はい!ぜひぜひ!」

カラシは立ち上がって、そわそわしている。

「アレって…何?」

「ん?サラは初めてか?ははは!見てたら分かるぜ。……よーし、じゃあ、みんないいぜ!」

ゴーダが大きな声で合図のようなものを出すと突然周りから大量の霧が俺らを覆った。

「なっなんだこれ!」

俺がテンパっているとだんだん霧が薄くなる。すると、小さな火のようなものがうっすらと見えてきた。

「あれは……ケーキ?」

真ん中のテーブルにどでかいケーキが現れた。そして、周りから歌声が聞こえてくる。

「おっ祝い!おっ祝い!わっしょいしょーい!」

「……は?」

なっなんだこの音程ぐっだぐだの歌は。

「かっカラシ…これって……」

ゆっくりとカラシの方を向くと…

「おー祝い!おー祝い!わっしょいひょいっ」

お前もか…てか今噛んだよな。この歌は思ったより長く20分ぐらい続いた。ちなみにケーキは幻覚魔法なるもので出したらしく、偽物らしい。どうやら、宴といえばの定番ネタらしいが、まだ異世界に来たばかりの俺からしたら、よく分からない…厨二心も真顔になるようなイベントだった……



ネタバレーーオーク ハ ミズウミ ノ ナカ ニ スム


「え?」

目が覚め、カーテンを開けるとすっかり朝だった。昨日はあの後、カラシの家に帰ってしっかり寝たのもあって目覚めがいい。…にしても、オークは湖のなかに住む…なんのことだ?

「おっはよーございまーす!!!」

バンっと扉を開ける音とカラシの大きい声で俺はビクッとした。またか…

「すみません!またノック忘れてました…でも、冒険の日の朝は早いですからね!こんなことわざがあります。『早起きは1000000エーウの得』!」

「わーめっちゃお得ー」



「少しの間でしたがお世話になりました。」

朝ご飯を食べ、準備をし、いよいよ出発だ……短い間なのに既にこの家が名残惜しい。

「ふふ、疲れたらまたここに帰ってきていいのよ。」

「ありがとうございます!では、いってきます!」

「いってきます!お母さん!」

「いってらっしゃい!気を付けてね~!」

異世界生活3日目…ワクワクとドキドキが入り交じったなんともいえない心地だった。すぅーっと大きく息を吸い、俺たちは村の外へと歩を進めた。


「いや~いい冒険日和ですね!空も快晴!雲1つなくて気持ちいいです!」

「そうだな~。」

青々しい葉っぱたちが今日も輝いている。ふぅ、やっぱりいいな…自然って。「にしても、どこに向かってるの?」

「そうですね~。いちよう、あっちの方にある森を抜けたところにある村を目指してるつもりです。」

「なるほど…」

「『メコニ村』って言うんです。何度かいったことあるんですけどいい村ですよ。美味しい食べ物もいっぱいあります。」

「へ~、それはいいな。」

「というか、目標って決めてませんでしたね。やっぱり、勇者といえばアレを目指してるんですか?」

「アレ……魔王退治か?」

「はい!そうです!」

そういえばもやっさんが言ってたよな。勇者となって魔王退治しろ、って。魔王…か。

「魔王ってやっぱ、ちょー強いの?」

「いやいや、ちょーどころじゃありません!ちょーちょーちょー強いです!あっ、蝶々ではないですよ!」

「分かってるよ…」

この子時々変なこと言うよな…てかこの世界も蝶々いるんだ。

「でも、大丈夫?魔王退治なんかに付き合わせて。危ないだろ、相当。」

「そうですね…でも!仲間なので!付いていきますよ!」

「はは、心強いな。」

「そんなそんな!私なんて、それこそ蝶々みたいなものですよ…あっ、町長じゃないですよ!」

「…………そうだね。」

「ふふ、やっぱ仲間っていいですね。話し相手がいるだけで楽しいです。」

「うん。俺も分からないことだらけだからカラシに会えてよかったよ。」

「そんな~、褒めても水魔法しか出ませんよ~」

そう言ってカラシの手のひらから水がぴゅーと吹き出る。

「てか、思ったより魔物に会わないな。こんなもんなの?」

「そうですね。この辺は魔物が少ないですからね。スライムと…今向かってるところにはオークぐらいしかいないです。」

「オーク……そうだ!オーク!」

俺はふと、今朝のネタバレを思い出した。…聞いてみるか。

「どうしました?」

「いや、今日の天啓がオークは湖のなかに住むってやつだったんだ。何か心当たりある?」

「オークが湖に?不思議ですね。オークは水中じゃ息ができないはずですが…」

「そうか…」

確かにオークがエラ呼吸するイメージはまったくないな。

「そういえば、昨日の宴の時にこんな話を聞きました。メコニ村付近でオークが大量発生して困ってるって。しかも、どこから来てるか分からないらしいです。」

「なるほど…じゃあ、そのオークたちが湖から来てるってことかな?その村の近くに湖はあるの?」

「はい。なんなら、行く途中に通りますよ。」

「んじゃ、ついでに詳しく調べてみるか!」

そんな話をしつつ、2時間ほど歩くと、森についた。久しぶりにこんなに歩いたから、少し疲れたな…ん?

「あれは…!」

目の前に、棍棒を持った二足歩行の豚のような怪物……まさにオークが2体ほど立っていた。

「オークですね!オークは力が強いので、距離をとって魔法で戦うのがおすすめです。」

2体のオークは俺らに気づいたらしくこちらへ向かって棍棒を振りかぶりながら走ってきた。

「うわっ、思ったより速っ!」

俺はとっさに横に避ける。

「『ウインド』!」

カラシは避けるどころか呪文を唱え、オークたちを吹っ飛ばした。

「ナイス!カラシ!」

俺はすかさず吹っ飛ばされたオークたちのもとへ駆け寄る。

「特訓の成果を見せてやる…『ビリリンマル』!」

やはり少し恥ずかしい。だが、俺の手から出た雷はオークたちに直撃し、倒すことに成功した。…ん?倒したオークを見てみると少し濡れている…まあいいか。

「よし!やったぞ、カラシ!」

俺は振り返りカラシの方へ向かう。

「にしても、すごいなあカラシは。俺はびびって横に避けたってのに動じずに魔法を打つなんて…」

「ちっ違います……怖くて…動けなくてぇ…」

よく見ると足がめちゃくちゃ震えている。そういえば、カラシは結構なびびりだったな。

「大丈夫…?」

「はっはい!震えが収まってきました…うう、倒してくれてありがとうございます……」

ホントに何であんなに強いのにこんな感じなんだろ…

「とっとりあえず、進む方向はあっちです…湖もあります…」

カラシは魔法の杖を普通の杖として使いながらゆっくりと歩き始めた。


森に入って約5分、俺たちは湖にたどり着いた。森の中の湖…とても幻想的で童話の中にいるみたいだ。

「きれいですね…」

「ああ…」

つい見とれてしまったが、俺は今日のネタバレを思い出す。

「ここにオークがいるのか?」

じっと湖を見つめるがよく分からない。

「あっあれ!」

カラシが何かに気づいたらしく湖の中を指差す。

「うーん…俺にはよく見えないなあ。」

「見えませんか?あそこです!湖のなかに洞穴みたいなのがあります。」

目を凝らしてじっと見るとうっすらと穴のようなものが見えた。

「あの中に住んでるのか?溺れない?」

「どうやら、洞穴を魔力で作られた壁で塞ぐことで水が中に入らないようにしてるみたいです。結界魔法でしょう。水は通さないけどオークは通す、みたいに設定できるんです。」

「そうなの?よく分かるなあ。俺には全然。」

「サラさんはまだ魔力感知の仕方を知りませんからね…今度教えます!」

「ありがとう…」

なるほど…魔力感知ってのができるようになると分かるのか。

「つまり、オークたちはあそこに住んでいて、あの入り口から泳いで外に出ているってことか。」

道理で先程のオークたちは濡れていたわけだ。

「オークたちは水中で息ができませんから、湖をあまり調べられなかったのでしょう。だから、住みかが村の人たちにばれなかったんですね。」

「じゃあ、どうする?」

「簡単です!あの魔力の壁を壊せば水が流れ込んで、中にいるオークたちがたまらず外に出てくるはずです!」

何かアリの巣に水流し込むみたいだな。

「気を付けてくださいね。結構が出てくるかもしれません…あっ、そういう意味じゃないですよ!」

顔を少し赤らめている…ちょっとかわいい。

「それより、いきますよ……『アクア』!」

カラシの放った水は勢いよく湖の中へと突き進んだ。すると、パリンッ、と小さく何かが割れる音がした。

「魔力の壁を壊しました。じきにオークが出てくるはずです。私たちで倒して、村を助けましょう!」

「そうだな!」

ドラゴンの時もそうだったけどカラシはなにかを守るときはすごい堂々としてるな。普段はスライムや2体のオークにもびびっているのに。

「グオオオオ」

雄叫びと共に水中からオークが次々出てくる。何となく分かる…めっちゃ怒ってる。俺たちは一旦湖から距離をとり、武器を構える。オークは全部で十数体出てきた。

「あのでかいオークを見てください。おそらく、あいつがこの群れのボスです!」

「そうか……カラシ、俺にあのボスと戦わせてくれないか。自分の実力を試したいんだ。」

「分かりました。では、他のオークたちは私に任せてください!」

俺はカラシから少し離れ、大きな声で叫んだ。

「おい!デカブツ!俺が相手だ!」

ボスであろうでかいオークはその挑発に反応し、俺の方へ向かってくる。やっぱり、オークはあまり頭のいいイメージはないからな。単純で助かったぜ。

「グオオ」

オークは素早く俺に近づき、思いっきり棍棒を振り回す。

「危ねっ」

俺は攻撃を避けると剣でオークを斬りつけた…が、皮膚が堅いため深いダメージにはならなかった。

「グオオオオオオオ!」

「ぐっ!」

棍棒が俺に当たり、思わずよろける。そこに追い討ちをかけるようにオークは棍棒を振りかぶる。

「くっ、『ビリリンマル』!」

「グアア!」

オークは雷をくらいその場に倒れた。

「よし!……カラシは!?」

横を見るとカラシが他のオークたちと戦ってくれている。

「『ケッコウオトデカイカラミミフサイデ』!」

「えっうん!」

思わず返事をしてしまったが、これは爆発魔法の呪文か……ややこしいな。だが、その呪文による爆発でほとんどのオークがやられた。これは、いけるな!

「サラさん!後ろ!」

「!」

その時、後頭部に強い痛みが走る。

「くそっ」

力を振り絞ってとっさに距離をとる。あれは、さっきのボスオークやられてなかった…というよりやられたふりをしていたのか……ちっ、頭いいじゃねぇか。

「グオオ!」

こっちにオークが向かってくる。どうする…あいつ雷魔法効かないのか?いや、先程のオークには効いたから効かないことはないはずだ……だとすると、火力不足か…?体が大きいだけでなく他のオークよりも頑丈なのかもな。

「グオッ!」

振り下ろしてきた棍棒を必死に避ける。…くっ、カラシに助けてもらうか?だが、そんなんじゃ強くなれない。俺は勇者として、強くなって、異世界生活を満喫するんだ!!

「『ビリリンマル』!!!」

そう唱えたとき、先程までとは比べ物にならないぐらいの雷が俺の手から放出された。

「グアアアアア!」

オークは再び倒れ込む。今度は起き上がる様子はない。……やったんだ。

「すごいです!サラさん!」

カラシが俺の方へ駆け寄って来た。

「カラシ……そっちも終わったのか?」

「はい!サラさんが強いのを引き受けてくれたお陰です…それより、傷!治しますね!……『ヒール』。」

カラシは杖を俺に向けて呪文を唱えた。すると、みるみる痛みが引いていく。そういえば、カラシの本業は僧侶だったな。

「それにしても、流石です!まさか、進化魔法を使うとは!それも、雷の!」

「えっ…あれ、進化魔法なの!?」

「はい!明らかにビリリンマルよりも威力が強かったです!」

「まじか!やっっった~!」

俺は両手を思いっきり天に向かって伸ばして叫んだ。

「あっそれでそれで!名前は!?魔法が進化すると名前が変わるんだろ!?」

「そうですね!ビリリンマルは……」

なんだろ!なんだろ!ボルトとか、エレキテルとかかな~とにかく、かっこよかったら…

「『ビリリンマル2ツー』です!」

「えっ?」

「『ビリリンマル2ツーです!!』」

「うっうっうっ…うっそぉーーーん!!」

俺のその悲痛な叫び声は森の奥まで響いていったのだった…

 


「ありがとうございます!お主らがオークたちの住みかを見つけ、倒してくれたんですな!」

俺たちはメコニ村につき、そこの村長にさっきの出来事を話した。

「いや、感謝してもしきれませんな。本当に困ってたのですよ。畑は荒らすし、子供たちを傷つけるしで大変だったのです。どうぞ、こちらを受け取ってください。」

そう言うと村長の家の中から奥さんだと思われる人が出てきて、袋を俺らに渡した。

「なんですかこれ…重っ!」

「520エーウです。このくらいしか出せませんがお許しください。」

「いやいや、そんな充分ですよ!」

俺はまだこの世界のお金の価値を知らないから多いのか少ないのか分からなかったが、カラシの反応を見るに結構多そうだ。俺達は感謝をし、村を見て回ることにした。

「いや~、を倒した甲斐がありましたね!……あっ。」

もはやわざとだろ…

「やっぱり、結構なお金なの?」

「もちろんです!これだけあれば、3日くらいは余裕で暮らせます。とりあえず、ご飯を買って、今日お世話になる宿屋でも探しますか!」

「そうだな!」

その後俺らは、ご飯を買ったり、替えの服を買ったりした。

「あっこれ!買いましょう!」

「何これ?お守り?」

「はい!カゼシシのお守りです!カゼシシ…私の推し魔獣なんです!」

「推し……好きなんだ。その魔獣。」

「そうなんです。昔、お母さんにつれてってもらった魔獣園にいて、一目惚れしたんです。かわいいし、かっこいいんです!」

魔獣園……動物園的なものなのかな。

「シシか…獅子ってことはライオンなの?」

「ライオン?」

あっ、もしかしてライオンってこっちにいないのか?

「あー……俺が昔住んでたところではライオンって呼んでたんだ。獅子のこと。」

「へ~。じゃあ、カゼライオンのお守りですね!どうです?仲間の印に一緒に買いません?」

お揃いか…なんか照れるな……でもいいなそれ。

「ああ!買おう!」

そして、お揃いのお守りを買った後は、もう外が暗くなってきたので飯屋でご飯を食べて、風呂屋で体を洗い、宿屋を探して部屋を借りた。

「疲れたなあ…結構。」

「そうですね。ふぅ、」

そう言ってカラシはベッドに座り込む。あれ…

「ベッド…1つだけ?」

「まあ、そりゃ一番安い部屋ですからね。冒険には節約が付き物です!明日も早いですから、すぐに寝ましょう!」

「あっちょっと!」

「ぐぅー」

寝るのはやっ。……2人で1つのベッド?男女で?ヤバい…心臓がドキドキしてるのが分かる。どうしよう…良くないよな、床で寝るべきか?でも、床で寝たら疲れがとれないだろうし、何よりカラシは俺が寝る分のスペースを開けてくれてるし…そう!仲間だし!仕方ないし!こういうの当たり前だろうし!大丈夫、大丈夫……俺は何度もそう心の中で唱え、ゆっくりとベッドに横たわる。うぅ……おやすみ!

そんなこんなで、カラシとの旅が始まった。正直、緊張して眠れる気がしないけど、明日に備えて眠ろう!と、強く決意したのであった。


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