俺の異世界生活めっちゃネタバレされるんだが

有部 根号

第1話 ネタバレは絶対!

目が覚めると、光に囲まれていた。真っ白な世界に俺が1人、ぽつりといる。

「ここは……そうか…」

俺は死んだのだ。不思議だが何となく分かった。俺は死に、天国なのか地獄なのか分からないが、そういうところに来たのだ。

「おい」

「えっ、」

何者かの呼ぶ声に反応し後ろを向く。そこには、黒いもやもやがあった。先程までは何もなかった筈なのに…?

「こっちにこい。」

その黒いもやもやから声がする。言われた通り近くに行くと、そのもやもやは俺と同じくらいの身長だと分かった。身長…と言っていいものなのかは分からないが。なんせ、もやもやなのだ。生き物なのかも分からない。毛玉のような、霧のような、本当にもやもやとしか形容しがたいものだ。

「自分が既に死んでいることは理解したか?」

「はっはい…まあ…」

「…」

「…」

気まずい…どうすればいいんだよ…

「やめよう!」

「えっ」

「こんな堅苦しーのはやめだ!もっと気楽にいこーぜ。な?」

「は、はあ。」

なんだ急に。思ったよりフランクなやつなのか?

「いや~。死んでドンマイっ!大丈夫、だいじょーぶ!いいことあるって!」

「そっそうですか…?」

「お前、異世界に行くのちょっと憧れてたろ?ゲームの世界とかさ~」

「えっ、まあ、確かに…」

そういう漫画やアニメを見るのは好きだったけど…

「いいじゃん、いいじゃん。行ってみよーよ!お前…って呼ぶのもよくないか。えーと名前は………『サラ』か!」

名前分かるんだ…すげえな。

「俺のことは何て呼んでもいいぜ。特に決まった名前もないからな。」

名前…もやもやの名前…か、

「じゃあ、『もやっさん』とかどうです?もやもやしてますし…」

俺は様子を伺いつつ言った。と言っても顔もないし伺いようがないけど。

「ん~いいね!気に入ったよ!そんじゃ、早速だけど異世界行く?」

「えっそんないきなりなんですか!?」

「まあまあ、善は急げってやつだぜ、サラ!」

もやっさん結構忙しいのかな。

「とにかく…そーだな…ただ行ってもつまんねえだろ?やっぱり特殊能力的な?スキル的な?何か欲しいだろ?」

「は、はい!いいんですか!?」

「おうよ!」

「じゃあ!めちゃくちゃに強い能力とか!ありがとうございます!もやっさん!」

そうそうこういうの。こういうのに憧れてたんだ!めっちゃ強いスキルで無双みたいな…

「そりぁだめだ。」

「えっ」

一気に夢は砕け散った。

「例えばよ~、極悪人にちょー強い能力とか渡してみ?どうなるよ?大変なことになるだろ?」

「それはそうですけど…でも、おれ極悪人じゃ…」

「けど、ちょー善人でもないだろ?」

「それは…」

むぐぐ…なにも言い返せない。

「まあ、安心しな。俺がちょうどいいの選んでやるよ。……『ネタバレ』とかどうだ。」

「ねっ、ねたばれ?」

「ああ、サラは結構、ネタバレとか好きだったろ?ちょうどいいじゃん!」

確かによくネットで漫画のネタバレとか調べてたけど…

「それって強いんですか?ってか、どんな能力なんですか?」

「ん~これはねぇ、その時のお前にとって一番重要な事がネタバレされるってやつ。」

「へ~。未来予知的なやつですか?」

「ああ、ただネタバレされた以上その物事は絶対に起こる!絶対にだ!」

「えっ!それじゃあ、意味ないじゃないですか!未来を知れても!」

「まあ、落ち着けって、覚悟はできるだろ?それに…だぜ。」

「解釈?」

「まあまあ、百聞は一見に如かずさ!実際に体験したら分かる。」

「そうですか…」

「んじゃ、頑張って魔王倒してきてね~」

「えっ!魔王倒すんですか!?」

「あれ、言ってなかったっけ?まあ、一様ネタバレだけでなく基本的なステータスも高めにしとくから!勇者として、魔王を倒してこい!」

「うぐっ、いろいろ急だなあ。」

「はは!なんとかなるって!いってらっしゃい!サラ!」

「えっああ、はい!いってきます!もやっさん!」

その直後、強い光が俺をおおう。一瞬でもやっさんの姿は見えなくなり、浮遊感に襲われる。


「ん…まぶしい…」

ゆっくりと目を開けるとそこには緑があった。1面の緑。そう、俺は草原にいたのだ。草が太陽に照らされ輝いている。空気もとても澄んでいて、思わず深呼吸をしたくなる。

「すーはあ~」

深く、深く、息を吸い、吐いた。その時だった。ふと頭に何かがよぎる。


ネタバレーーソウリョ ト ナカマ ニ ナル


なんだ今のは?ネタバレ…これがもやっさんの言っていた?僧侶と仲間になる…か。

「キャーー」

その時、後ろから叫び声が聞こえた。とっさに後ろを向くと…

「なんだ…あれ?」

10メートルぐらい離れたところで誰かが水色のぐにょっとした何かと対面している。あれは…もしかして『スライム』か!?ゲームとかで序盤にでてくるスライムなのか!?いや、こんなことを考えている場合じゃない。早く助けないと!俺は足に力をいれ、大地を蹴る。ビュッと空気を切る音がする。今までにない速さで走れてるのが分かる。その時腰に重さを感じた。見ると、剣を携えている。俺は、すぐさま剣を取り出し、スライム?に向かって勢いよく振った。ぐちょっという音と共にスライム?は真っ二つになった。自分で言うのもなんだが初めてにしてはうまく切ることができた。もやっさんが言っていた「ステータスを高めにしとく」ってのはマジだったんだ。

「ありがとうございます!」

横にお辞儀をしている人がいた。この子が襲われていたのか。その子はおとなしそうでかわいらしい長髪の女の子だった。年齢も俺とそんな変わらない…現実でいう高校生ぐらいか?髪色は薄い緑色…わさびのような色をしていて、十字マークのついた長めの帽子と手に持った杖が特徴的だ。まさに、僧侶って感じだ。ん?僧侶…?

「いや~、スライムなんかにびびりまくっててお恥ずかしい限りです…剣で、『ずばっ』て…かっこよかったです!」

「えっ、そっそう?」

うう、女子にかっこいいなんて言われたのが初めてでつい、すかしてしまった。

「にしても、きれいな剣ですね!初めて見ました!その革の服はよくお店で売ってますけど…」

そう言われて自分の装備をよく見てみる。確かに俺は頑丈そうな革の服を来ていた。そして、先程使った剣…ここに来てすぐは景色に見とれていて気づかなかったけど、初期装備的な感じでもやっさんがくれたのかな。

「でも…盾は持ってませんね。戦士の方なら持っている人多いのに…」

「えっ、あの…それは……俺は戦士じゃなくて勇者だから!」

とっさに、もやっさんに勇者と言われたのを思い出して声に出した。

「ゆうしゃ?…勇者さん!?へ~初めてお会いしました!」

「おっおう、そうなんだ…てか勇者って他にもいるの?」

「私は片手で数えられるほどしかいないって聞きましたよ。めったに勇者って判別される人はいないとか!」

「はっ判別?」

「あれ?適正判別したんじゃないんですか?……騙したんですか?」

適正判別~?何だそれ。

「いや!その!騙したとかじゃなくて、そのお、俺、ここに来たばっかでなにも分かってないっていうか…」

「適正判別はどこの地域でも基本的にできる筈ですが…?」

「えっと…とにかく!いろんな事情があって、よく分かってないんだ。ごめん。」

うう、苦しい言い訳しかでてこない。異世界に来てそうそう変なやつだと思われる…

「……いろんな事情?」

「そっそう…」

彼女はじーっと俺を見る。疑ってる。絶対変なやつだと疑ってるよ…と思ったときだった。

「じゃあ、しょうがないですね!」

「えっ」

「人にはいろんな事情がありますから!分からないことがあったらなんでも聞いてください。何でも答えます!」

あれっ?なんかうまくいった?

「とにかく、近くに『トスファ村』という村があります。そこで、落ち着いていろいろ考えてみましょう!」

「はっはい!」

なんかよく分からないが村に行くことになったぞ…

「あっ、先程あなたが倒したスライム持っていって売りましょう。少しはお金になるでしょうし。」

「スライムって売れるの?」

「そりゃ、薬の素材とかになりますからね。大きめの鞄を持ってきているのでここにいれましょう!」

彼女は肩に掛けていた鞄を下ろすと、スライムの死骸をつめた。

「では、こっちです!」

彼女が指差した方にうっすらと建物が見える。あれがトスファ村だろう。

「そう言えば名前聞いてませんでしたね。私の名前は、『カラシ』です!あなたは?」

髪色はわさびなのに名前はカラシなんだ…少しややこしいな。

「俺は、『サラ』だ。いろいろよろしく、カラシ!」

「はい!了解です、サラさん!」



村には歩いて10分くらいで着いた。お店が立ち並んでいて、結構な人が歩いていた。

「ここです!このお店で売れますよ!」

カラシはスライムを取り出し、お店の人に渡した。

「はいよ。15エーウだ。」

お店の人はそう言ってお金を渡した。エーウ…お金の単位か?まあ、そりゃ円じゃないもんな。

「ついでにここで小銭入れとかポーチとか買っときますか?サラさんそういうの持ってないようですし。ほら、ちょうど15エーウで買えますよ!」

「そうだな。買っとこうか。」

買い物を済ませた後は、適正判別をしようということで、『職業判別屋』と呼ばれるところへと連れてかれた。

「ここか…」

看板には、判別します!と書かれている。俺たちは扉を開けて中に入った。

「何か薄暗いな。判別ってどんなのするの?痛くないよね?」

「大丈夫ですよ。すぐ終わりますし。ここで自分の得意不得意が分かって、おすすめの職業を教えてくれるんです。私の場合だと、力はないけど魔力は多く、特に攻撃魔法が得意なので魔法使い向きだっていわれました。」

「でも、カラシって僧侶だよね?」

「はい!あくまでおすすめされるだけですからね!私は僧侶に憧れていたので、魔法使いにはならなかったんです。」

そんな話をしながら、少し進むと占い師みたいな格好をしたおばあさんが机の向こうに座っていた。

「どうぞ、おすわり。」

俺はいわれるがまま椅子に座り、おばあさんの方を向いた。おばあさんは軽く頷くと右手を俺の頭の上に添えた。目を瞑っており、何かを念じているようだった。

「むむむ……これは…!」

おばあさんは顔をしかめたかと思うと突然大きく目を開いた。そして、バンッ!と強く机を叩き、立ち上がった。

「わっ!ビックリした!…どっどうしたんです!?おばあさん?」

あまりの音に俺は驚いた。カラシも驚いたらしく、後ろで小さく声を漏らしていた。

「お主……全く驚かせてくれるのお、こんなの初めてじゃ。魔力も力も他のステータスも、全てが高く穴がない。」

「と、言いますと?」

「お主は……『勇者』に向いておる!」

「!」

やっぱり、もやっさんが言ってた通りなんだ!俺が…勇者……!

「すっすすすすごいです!!!」

後ろから大きな声が聞こえ、思わずビクッとしてしまった。

「本当に勇者だったなんて!すみません!疑ってしまって……!」

カラシは頭を深々と下げた。

「いやいや!そんな、そんな~」

そう言いつつも、結構うれしい。まさかそんな驚かれるものだなんて…そういえばカラシに初めてあった時勇者は片手で数えられるくらいしかいないって言ってたっけ……それって俺すごいんじゃね?

「いや~そんな人の案内係になれて光栄です。」

「ん?何じゃ、お主ら仲間じゃなかったのか?」

「いやそんな!私が勇者様と仲間だなんて…」

その時、先程のネタバレを思い出した。僧侶と仲間になる……どうせ仲間になるなら…!

「そっその事だけどさ!そのお…カラシがよかったら、仲間にならない?」

何か女子にこういうこというのが少し恥ずかしくて、もどもどしてしまった。

「えっいいんですか!?」

カラシは目をキラキラさせこちらを見る。

「久々の仲間…!それがまさか勇者様なんて!」

久々……カラシは仲間をつくったことがあるのかな?

「いや、そんな勇者様だなんてさ…仲間なんだから名前で、サラでいいよ。」

「はい!改めてよろしくお願いしますね!サラさん!!」

「ああ!よろしくな!カラシ!!」

俺らはそのあと少し手続き的なものをして勇者としての証明書と勇者を表すバッチをもらった。カラシ曰く、みんな貰うらしくカラシも胸に僧侶を表すバッチをつけていた。

「いや~どうします?次?何か気になることとかあります?」

「そーだな~やっぱり魔法かな!ま、ほ、う!使ってみたかったんだよね!」

「魔法…いいですよ!まずは…火とか水とか風の魔法とかどうですか?基本の魔法ですし。実際にやってみましょう!『百聞は一見に如かずんば虎児を得ず』です!」

「なっなにそれ?何か混ざってない?」

「いいえ。いろいろ考えるより、やってみることで大切なものが手に入るって意味のことわざです。」

「へっへえ~…とにかく、よろしく!」

俺たちは村のど真ん中で魔法の練習をするわけにもいかないので、再び草原に行くことにした。


「まず火ですが…こう手を出して…」

「手を出して?」

「ぐっと力を込めて…」

「込めて?」

「メラメラ!火、出ろ~!って感じです。」

「オッケー!……メラメラ!火、出ろ!」

すると、手からぼわっと火がでてきた。

「すっすげえ!ホントに体から火が!」

夢にまで見た魔法!嬉しすぎる!

「次は、水!教えてくれ…いや、教えてください!カラシ先生!」

「そんな!先生だなんて~。えーと水は、ジャバジャバ!水、出ろ~!って感じです!」

「オッケーです!……ジャバジャバ!水、出ろ!」

とたん、手から水が溢れだす。

「すげえ!…ちなみにこれって飲めるの?」

「はい!綺麗そうですし、いけると思います!ちなみに、腕を上げると水質とかも変えられるんですよ!」

「へ~、おもしろっ!」

俺は水に軽く口をつけて少し飲んでみた。普通に美味しい。昔、遠足かなんかで行った山で飲んだ水みたいだ。

「いいセンスですよ!サラさん。次は…風ですね!風は……ビュウビュウ!風、吹け~!って感じです!出ろ~じゃなくて吹け~なのがポイントです。」

「了解っす!ビュウビュウ!風、吹け!」

すると手からぶわっと風が巻き起こる。

「おお!涼しい~!」

「ナイスです!風も鍛えれば岩とかスパスパ切れますよ!」

「へ~かっこいいなあ…」

火に水に風、忘れられていた俺の厨二心がくすぐられる。いや、もうくすぐられ過ぎて厨二心が爆笑してるよ。

「それで…この出した火とかを敵に飛ばしたりするのはどうするんすか!」

「それはね~こう敵に向かって手をつき出して、ビュッ!飛んでけ~!です!」

「ビュッ!飛んでけ!」

俺は試しに何もない方へ手をつき出し、火を出してみた。すると、それが、手をつき出した方向へ飛んでいった!そのまま火は草原に着地し草を燃やし始めた。

「あっ、やべ。」

「大丈夫です。次は水を飛ばして消火しましょう!」

俺は同じようにして水を飛ばした。その水はさっきの火と同じ軌道を描いて草原に着地し、火を消した。

「すげえ…ホントにすげえよ!あざっす!カラシ先生!」

「えっへん!ちなみに練習すればもっと遠くまで飛ばしたり、自由に操って飛ばしたりできるので頑張りましょう!」

「はい!」

「と言っても、もう日も暮れてきたので、こんなところで終わりにしますか。」

「…そうっすね……」

うーん、何かまだまだ魔法を使ってみたい。

「そうだ!せっかくだし最後にとっておきを教えましょう!少しムズいですが…」

「本当ですか!」

「はい…ズバリ!雷魔法です!」

きっキタ~雷!厨二心、大爆笑もの!アニメとかでも雷魔法すっげえかっこいいし、一番使ってみたかったんだよなあ!

「いいですか?心してかかってくださいね。ビリビリ!ゴロゴロ!雷、出ろ~!!って感じです!ビリビリだけでもゴロゴロだけでもダメです。ビリビリ!ゴロゴロ!ですからね!」

「はい!……ビリビリ!ゴロゴロ!雷、出ろ!!」

ピカッと手が少し光り、ビリっと雷が出た!

「やっばあ!雷だ!まだ小さいけどビリビリって!」

うう、涙がでてくる。こんなに嬉しいのはいつぶりだろう。

「感激しすぎて、感電しないよう気を付けてくださいね!」

「はいぃ…ありがとうございますぅ!」

「いやぁ、喜んで貰えてよかったです。今日はいったん帰って、明日練習しましょう。」

「はい!……帰る?俺…家ない……」

「安心してください!私の家に来たらいいです!お母さんもいいって言いますよ。なんてったって仲間ですし!しかも、勇者の!」

「えっいいの?」

「はい!今、お父さんが出掛けていてちょうど部屋も空いてますし、ダイジョーブです!」

仲間とはいえ、女子の家にいくのは初めてだ…緊張する……けど、ちょっと楽しみだ。



「ここです、着きました。私の家。」

そう言ってガチャっと鍵を開け中に入った。

「ただいま!お母さん!仲間を連れてきました!」

「おかえり、カラシ。…仲間?仲間ができたの!」

「おじゃまします…」

俺は少し頭を下げつつカラシの後を歩いた。カラシのお母さんはカラシと同じようにわさび色の髪をしていて、優しそうな人だった。

「あら、こんにちは!あなたがお仲間さん?」

「はい。カラシにはお世話になっています。その…、一晩泊まらせていただきたいのですが…」

「ええ、いいわよ!泊まっていきなさい。ご飯もたくさんあるから、いっぱい食べていきなさい。なんてったってカラシがいっぱい食べるもんだからいつも多めに作ってるの。」

「もう!お母さん!私そんな食べないよ!ご飯だっていつも3杯までって決めてるし…」

結構多くね?

「ありがとうございます!ぜひ、食べさせていただきます!」

異世界の料理というものはとても美味しかった…というか、いつものご飯とそんな変わらず美味しかったって言う方が正しいかも。お肉は慣れ親しんだ豚とか鳥のお肉に似た食感だったし、野菜もトマトやレタスみたいなのがあって異世界の料理だから口に合わないということはなかった!そして俺のこと…勇者のことを話すとカラシのお母さんもすっごい驚いていて、思わず腰を抜かしそうになっていた。やっぱり勇者というのは相当珍しいのだろう。後はこの世界について軽く話を聞いたり、カラシの話を聞いたりした。その際お母さんに「カラシは何回か仲間ができたことあるけど、なかなか長続きしないの。とってもいい子だからよろしくねえ。」と言われた。何で長続きしないんだろう?とも思ったが、カラシが小恥ずかしそうにして話を遮ったので聞くことはできなかった。他にも、いろいろ談笑して、とにかく楽しかった…


「じゃあ、おやすみなさい!」

「はい、おやすみなさい。」

俺たちはカラシのお母さんにそう言うと階段を上がった。

「サラさんはそっちの部屋です。」

「こっち?ありがとう。」

「いや~楽しかったですね。明日もお願いします!では、おやすみなさい。」

「おやすみ~」

思ったより疲れていたのか部屋に入り、ベッドに横になるとすぐさま眠気が襲ってきた。今日は楽しかったなあ…いろいろあったし…魔法も…………



ネタバレーーキングドラゴン ニ オソワレル


「えっ…」

目が覚めると同時に、ネタバレが頭に流れる。キング…ドラゴン?何だそれ……分からないけど、何かやばそう…

「おっはよーございまーす!」

バンッと扉が開く音と共にカラシの大声が聞こえた。

「うわっ!ビックリしたあ…」

「あっ、すみません。ノック忘れてました…でももう朝ですよ!起きる時間です!」

「そっそうか…」

「どうしたんです?まだ疲れてますか?」

「いや、そうじゃなくて…」

「?」

カラシが不思議そうにこちらを見つめている。カラシにはネタバレのスキルについて言っとくべきか…

「その、実は俺、未来予知的なのができて…」

「未来予知?」

「そう。信じられないかもしれないけど、ネタ…天啓、的な!」

つい、ネタバレをかっこよく言ってしまった。

「天啓…すごいです!そんなものまで!」

「あはは…」

この子すぐ信じるけど大丈夫か?

「それで、その天啓がどうしたんですか?」

「実は…キングドラゴンに襲われるって天啓が下されて……知ってる?キングドラゴン。」

そう言うと彼女は目を見開いた。

「キング…ドラゴン?なっ!それが本当だったらやばいですよ!そんな化け物!」

「やっぱり、やべーやつなのか…」

何で異世界2日目でそんな強そうなやつに…

「やばいじゃ済みませんよ!キングドラゴンは皮膚が固く生半可な攻撃は通りません。魔法だって中々効かないんです!それに、サラさんに襲いかかるということはこの辺に来るってことでしょう?わざわざこんなとこまで来るってことは相当お腹をすかせているに違いありません!」

「ってことはより一層狂暴ってこと!?やばいって!」

「はい!やばいんです!私だって一回しか倒したことありませんし…」

何かさらっとこわいこと言わなかった?

「とにかく、ここから離れるか!俺を襲うってことは村から離れれば村の人たちは大丈夫かもしれない。」

「そうですね!急いで離れましょう!」

俺たちはバタバタと階段を駆けおりて、すぐさま玄関に向かう。

「あれっ?もう行くの?ご飯は?」

カラシのお母さんの声が聞こえる。

「後で、いただきます!」

俺らはすぐさま家を飛び出し、全力で走った。なるべく遠くへ離れないと!……あれ?

「今、朝だよな…?」

「はい…」

「何で暗いの…?」

ふと天を見上げると、何かがいて太陽を遮っている。その何かは黄土色の皮膚をしていて空を羽ばたいている。見た目はまさに漫画やアニメで見るような…

「あれは…まさか?」

「はい…あれは……キングドラゴンです!」

もうかよ!やばい…とにかく少しでも離れて……

「ぐおおお」

「!」

ドラゴンが大きな雄叫びを上げたかと思うと口から火を出した。それも昨日俺が出したちっぽけな火なんかじゃなく…

「やばっ…死ぬ……!!」

キャー  ぎゃー  助けてー

周りからはいろんな人の叫び声がする。もう炎は目の前だ…とっさに目をつぶった。終わったと思ったその時だった!

ジュワッと音がして目の前の熱さが消え去った。ゆっくりと目を開けると、既に火はなくなっていた。

「何が…?」

ふと、カラシの方を向くと杖を構えている。

「水魔法で打ち消しました!ただ、危ないので少し下がっていてください!」

「あっありがとう…」

頼もしすぎる。カラシは逆に何発か火の魔法をうってドラゴンを牽制している。

「あの大きさ的に、子供でしょう。ですが…それでもこの程度の魔法は全然効いていません…こんな村の中じゃ全力を出しづらいですし…」

子供?あれが?10~20メートルぐらいあるぞ…

「うう、どうしましょう…一か八かで全力を…でもそれだと村が……」

カラシは必死にドラゴンを押さえている。それなのに…くそっ…何か俺にできないのか…!せっかく勇者になったってのに!ネタバレだってドラゴンが来ることが分かっても何もできやしない……このスキル、本当に未来予知しかできないのか?………解釈…!そういえばもやっさんがなんか言ってたな。って。解釈次第…どういうことだ。かいしゃく…かいしゃく…重要な…ネタバレ…ドラゴン……待てよ…もしかしたら…!

「カラシ!」

「なんですかっ!」

「大変なところすまない。その、聞きたいことがあって…時間差で攻撃できる魔法とかない?」

「時間差っですか?」

「ああ!時間差で爆発みたいな…」

「時間差で爆発…爆発魔法!使えます!できます!」

「それを俺に設置できないか?」

「いけます!……えっ、サラさんに?」

「そうだ!頼む!」

「いや、でも、それじゃあ…」

「このままドラゴンをおさえ続けるのも厳しいだろ?大丈夫だ!死ぬ気はない!」

「でも……」

「俺は勇者だ!信じてくれ!」

「っっ!……分かりました。信じます。」

カラシは一瞬だけ杖をこちらに向け小声で何かを唱えた。とたんに、体が重くなった。何かが纏わりついたみたいに。

「ありがとう!」

俺はすぐさま周りを見渡して高い建物を探す。

「あった!」

俺は全力で走った…いや走らなくても今の体なら…!足に力を込め、思いっきり地面を蹴る。

「跳べた!」

気づいたら5メートルほど上空に俺はいた。そのまま、高い建物にしがみつき、屋上へ上った。

「こっちだ!ドラゴン!」

俺はドラゴンに向かって大きく手を振る。カラシの予想が正しければ、このドラゴンは腹が減ってる筈だ。

「ぐおお!」

どうやらドラゴンは俺に気づいたらしく、こっちへ勢いよく向かってくる。そして…俺を咥えた!うぐっ…だが狙い通りだ!いくら皮膚が固くても、口の中まではどうかな!

「サラさん!!」

「構うなっっ今だ!カラシ!爆発させろっ!!」

「っっ!はっはい!」

ピカッと俺の体が光った。この世界に来たときを思い出す。俺は光に包まれ、そして、 ドォォーンッ というとてつもない音が響いた………


ひゅーっと風を切る音がする。これは…俺が落ちてる音だ。…地面がだんだん近づいてくる。このままだと頭から…

「サラさん!」

その声と共に俺の体はフワッと浮いた。

「まっ間に合いましたぁ~」

そのまま俺は優しく地面に下ろされた。

「これは…カラシが?いやそれより!ドラゴンは!?」

「はい。風魔法で浮かしました。ドラゴンは、さっきの爆発で吹っ飛びました。……まったく、何でこんな無茶を…死んじゃったらどうしようって…」

カラシは目には涙が浮かんでいた。

「ごめん…でも、死なないって分かってたから。」

「!」

「俺のネタ…天啓はその時の俺にとって一番重要なことが予知できるんだ。そして、さっきの天啓は『キングドラゴンに襲われる』だった。」

「それが…どうしたんです?」

「俺にとって一番重要なことがドラゴンに襲われることだった…つまり!逆に考えればそれ以上の重大な出来事は起こらないってことだ。例えば、俺が死ぬ…とかね。」

「!!…なるほど……確かに今日サラさんが死ぬんだったら、天啓で分かった筈ですもんね。死よりも重大なことなんてないでしょうし…」

「ああ、だから俺は無茶したんだ。……つっても結構怖かったけど。」

ふぅ、寿命が10年は縮んだ…

「お前らすげえな!」

気づくと周りをたくさんの人が囲んでいた。多くの人が拍手と歓声をあげている。

「何かすごい嬉しいですね!」

「ああ、いい気持ちだ。」

今すぐにでも声を上げて歓声に答えたかったが、体が震えてうまく動かない。思ってる以上にドラゴンに食われかけたのがこたえているらしい。

「にしても、疲れたあ。」

「そうですね。私も疲れました。」

「そうだよな…すごい頑張ってたし、カラシ、ちょー強かったよな!」

「そんなそんな!」

「いや、本当に。何で魔法使いにならなかったのか不思議だよ。」

「それは…『大僧侶トウガ』って知ってます?」

「何それ?」

「お母さんから昔、聞いたんです。大僧侶トウガは一瞬で人々の傷を直し、また巨大な魔物にすら勇敢に立ち向かい、僧侶とは思えない強力な魔法でやっつける…って。」

「なるほど…それに憧れたのか。」

「はい!」

「そうか……ふわぁ~、」

つい大きなあくびが出てしまった。

「ふふ、眠そうですね。いったん帰って眠りますか?起きたばっかりですけど。」

「悪いな、そうさせてもらうよ。」

カラシは風魔法で俺が立つのをサポートし、家まで連れてってくれた。全く、勇者とあろうものが情けないぜ……家につくとカラシのお母さんが心配そうに声をかけてくれた。俺たちは大丈夫と言って部屋に戻った。俺は布団に横になるとすぐに眠りについてしまった。最後に小さく、カラシのおやすみなさいという声が聞こえた……




ネタバレー


あれっ?またネタバレ?もしかして目が覚める度にされんのかな?でも何を…


ーダイソウリョ トウガ ノ ショウタイ ハ カラシ


「えええええ!!!」

思わずバッチリ目が覚めてしまった。大僧侶トウガが…カラシ!?えっでも…

「どうしましたか!すごい声が聞こえましたけど!」

カラシが扉をバンッと開けて中に入ってきた。

「いや、特に何もない…よ。」

「そうですか、よかったです。」

そう言って笑顔で部屋の外へと戻っていった。なんかあの子…こわい……

なにはともあれ俺の、どこかおそろしい僧侶カラシとの冒険は始まった。この先もたくさんネタバレされていくんだろうが、異世界生活、楽しんでいこう!と期待を胸に大きく息を吸い込んだ。

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