女神とともに異世界救世!

timu

プロローグ

 ――目の前で誰かが泣いている。


 見渡す限り全てが黒の世界。


 「…ここは…?」


 夢…とも思ったが、身体の感覚は頭から手足までしっかりとある。

 「夢」としては、今まで見てきた物と違いすぎていた。

 例えるなら、現実の世界とは隔絶された異空間のようだった。


 ここは何処なのか。自分はなぜここにいるのか。目の前で泣きながら座り込んでいる彼女は誰なのか。


 今の状況について分かることは何も無かったが、泣いている彼女をそのまま放っておくことはできなかった。

 

 泣いている理由を聞く為、彼女に話しかけようとする。しかしその時、彼女の背中に見えるあり得ない物に気づき、話しかけるのを躊躇ってしまった。


 ――翼だ。


 彼女の背中には、まるで天使のような純白の大きな翼があった。


 おそらく彼女は人ではないのだろう。もしかしたら、彼女はこの世界の番人のような存在であり、そこに迷い込んでしまった僕を殺すのかもしれない。 

 そんな考えが一瞬頭をよぎった。だが、それが彼女を助けない理由にはならなかった。


「大丈夫、ですか…?」


 彼女に話しかけるが、反応は無い。話しかける僕にも気づかず、彼女は泣きながら小さな声で何かを呟いていた。


「れ…さ…あ……まだ…」


 彼女が何を呟いているかは分からないが、彼女の泣いている理由が喜びや感動では無く、悲痛や悲しみであることは理解できた。 


 声は届かなかったため、今度はしゃがんでから彼女の肩に手を置いて、自分に気づかせることにした。

 肩の感触に気づいた彼女は、ゆっくりと顔を上げる。


 僕の顔を見た瞬間、彼女はまるで最後の希望が潰えてしまったような、そんな表情をして僕に問いかけてきた。


「…蓮…さん…?」


 なぜ僕の名前を知っているのだろうか。少し気になったが、今は聞かないでおく。


「蓮さん…なんですか?」


「そう、ですけど――――」


 そう答えた瞬間、彼女はその場から立ち上がり、今にも倒れそうになりながらこちらに寄り添ってきた。倒れそうになる彼女を間一髪のところで受け止める。


「あ、あの――」


「だ、だめ、駄目です、あなたは、まだ…」


「落ち着いて下さい、一体何が――」


「あなたはまだ、ここに来てはいけません!」


「え…?」



 ――ピシッ


 その瞬間、黒の世界に亀裂が入った。

 やがて亀裂は広がっていき、やがてこの空間全体は亀裂で覆い尽くされていった。


「これは…どういうこと…?」


 この世界のあたり全体からギシギシと大きな音が聞こえ出し、今にも世界が崩壊してしまいそうだった。


 ――パリン!


 そして遂に世界の一部が剥がれ落ちた。そのまま崩壊は伝播し、辺り一面の黒が剥がれ落ちていく。


 これ、は――


 黒が剥がれ落ちた世界に映し出されたのは、元の世界の記憶。

 その時、僕は忘れていた記憶を全て思い出した。

 いや、思い出してしまった。



 ――そうだった。


 僕はまた――


 ――奪ってしまったんだ。



















 







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