084:素晴らしき人選
遥か上空、
そう自身を納得させながら、スペンサーはD部隊の二人の情報を端末に映し出した。
ヘクター・ダリッツ。楽観主義によって自らを覆う碌でなし。投げやりに思える行動の殆どは打算的。何を隠そう、カルホーンと同じ医学部門の行動科学科の出身。志望動機には御大層な内容が書き連ねてあったが、全て嘘っぱち。恐らく、スリルと賭博を戦場に求めたのだろう。
こういう奴こそ、戦場で最後まで生きる残るのかもしれないと、スペンサーは偶に考えてしまう。味方を見捨てる奴は早死にするが、此奴は自分が死ぬその時まで味方に対しても上手く立ち回るだろう。
兎角、要領の良い男だ。
使用する機体、ReBは欧州の軍需企業ラインラント社が独自開発した火力支援用NAWである。光学機器を標準装備しており、頭蓋骨様の頭部に各種機器が詰め込まれている。
更に特筆すべきは、都市部や山間部で射撃地点を確保する為に備わった足回りの特殊機構。脚部をバンカーの様に打ち込み、四本のマニュピレーターを駆使し、屋上にまで登った時にはスペンサーも感嘆の声を漏らした。
優秀な機体なのは間違いない。だが、その機体の出所は判然としないのである。噂では、賭博で勝ち取っただのと言われているが、真偽の程は定かじゃない。少なくとも、登録表等の提出書類に不備は無かった。
ホリー・ドワイト。
化学部門の燃料開発科にて教育課程を終えている。両親は警備部門で働いていた。過去形なのは、既に死亡している為。スロータータウンから最も遠方の石油プラントを襲撃して来た追い剥ぎ集団によって殺害されたと公式記録には残っている。
そして、彼女の乗るNAWは父親の肩身であり、退職金代わりだという。
産業革命時代並みの福利厚生だと思うだろうが、スロータータウンの外に出れば何処もそんなものだ。其々の開拓プラントには其々の支配体制が築かれている。言わば、独立した会社なのだ。
志望動機は至極単純で前時代的。道理を知らぬ者達へ抗いうる力を持ちたい。スロータータウンの外に広がる混沌の世界に秩序を齎したいのだそうだ。
スペンサーの所管としてはそれも詭弁で、復讐心のみが彼女を突き動かしている様に見える。
ともあれ、何方もその兵士としての資質は相当なものだ。性格が破綻しているにせよ、其処は違いない。特に、NAW乗りは其々の素質に依る所が大きい。まだ戦争が個人の武勇に依っていた時代を彷彿とさせる。
ディスプレイに映る大立ち回りを見据え、スペンサーは二機を追い詰めようと迫るE部隊を観察する。
E部隊。所属人員は六名。隊長はミア・ジアンカーナ。その結束の固さは他の分隊の中でも類を見ない。というのも、この六人は既存の 組織から団体で軍事部門に参入して来た連中だからだ。連中が提出した履歴書には談合の軌跡は見当たらないが、少し身元を洗えば、新興の政治団体である
彼等が軍事部門に適格な思想を有しているかは怪しい所だ。
ミアは彼の養子である。彼女は志望動機において、スロータータウンの発展の礎になりたい如何のと書いているが、連中は個として見るより組織として見るべきだ。
思い付くのは二つ。外部への宣教手段を確保する為。もう一つは、戦闘技術を身に付ける為。後者についてはその矛先が何処に向くかコメントは控えたい所だ。
ディスプレイにミアの機体、Prot-Fの姿が映る。
「ゴーゴーバーに入り浸る尼僧みたいな機体だ」
カルホーンが独り言の様にそう言った。
碌でもない言い草だが、完全に間違っているとも言い難い。その表現は余りに直喩的で的を射ていたのである。
Prot-Fは至極女性的なフォルムをしたNAW。痩身の骨格。長く強靭な二脚にはサイハイブーツの如き高い踵と鋭利な爪先。黒真珠の様な無謀の頭を包むのは、シリカ・アラミド強化繊維の乳白色のベール。それは外套の如く背中まで伸び、腕先へしなだれかかるにつれ装甲へ同化して行く。
武装は四肢に仕込まれた
彼女の周囲を取り囲む五機のNAW はどれも同型、同武装のランツベルグL-40。バケットヘルム状の頭部。急所を保護する様に重点的に施された各部装甲。盾を構えるその姿は中世騎士そのものである。少しばかり寸胴体型で肩幅が張り、短足気味であることを除けばだが。
カルホーンが楽しげに問い掛ける。
「誰が生き残るだろうか?」
スペンサーは肩を竦める。
「生き残るか否かより、如何に闘うか、では?」
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