083:二方面作戦
頭蓋骨じみた面のNAW、ReBのコクピットの中。D部隊の隊長であるヘクター・ダリッツは口角を吊り上げた。
あれ程迄に愉快な光景をこの方目にした事はない。C部隊の隊長車輌はロケットエンジンを噴き散らし、ネズミ花火じみてハリボテの廃墟へと突っ込んだのだ。それもヘクターの射撃の一発によって。
ヘクターは愉快犯であり、幼稚な嗜虐嗜好者である。それを変えようと昔から努力して来たが、どうにも上手くいかなかった。いつ迄経ってもスリルは好ましく、分の良い賭けの中で他人を打ち負かすのが大好きだ。
C部隊の連中は鈍重なFLAKⅡが美味そうでうざったい最高の獲物に見えただろう。だが、数的有利と目標の価値に目が眩んだ。その側に控える脅威に気付けなかったのだ。
滲み出す愉悦感。
C部隊の隊長車輌へトドメを刺そうともう一度、ReBの眼窩に装備された光学レンズを起動させるが、標的が派手に建物へめり込み過ぎてコクピットが狙えない。想定外の不都合。愉快な光景の代償でもある。
ヘクターが舌打ちを混ぜ、射撃地点を調整しようとした時、スコープの奥に別のNAWが映り込む。馬鹿げたスマイリーペイントの施された無骨な工業用NAW。HA−88。脳裏に浮かぶ事前告知の内容。
嫌な予感とその正体に気づく前に、無線から悲鳴が聞こえる。
「ヘクター!!援護はどうなってんの?こっちは六機を一人で抑えてんのよ!?」
同じD部隊の仲間であるホリーの声。焦燥と憤懣が滲み出ている。
先程まで二人で協力してE部隊の動向を監視していたが、動きは無かった筈。恐らく、あのスピード狂たちの襲撃を察知し、足並みを揃えてきたのだ。三部隊の中で此方を先に潰し切るつもりだ。
頭の中からは既に工業用NAWの存在は抜け落ちていた。機関砲の銃口を背後へ転換する。反対側のM90とFLAKⅡの方面はひと段落ついている。戦力投射を切り替える必要がある。
ヘクターはスコープを覗き込む。
ホリーの機体CTL1が映る。卵型の胴体。四つ切りにしたオレンジの様な四脚。特徴的な球体関節。装甲はライム色に塗装され、ドーム状の頭部には点だけの落書きじみたカメラがついている。
治安維持用に設計されたCTL1は市民に対し親しみやすい様にデザインdされているが、その機能性は全く生易しいものではない。恵まれた機体容積から来る軍用機以上の馬力と暴徒鎮圧用の擲弾投射器と催涙ガス噴霧器。対NAW兵装として関節破壊を目的とした大口径のフレシェットリボルバーまで装備されている。
現に、迫り来るE部隊に向けガスを噴霧しながら視界を渡り、リボルバーで応戦している。
更に、タチが悪いのが彼女がCTL1に施した改造だ。
擲弾投射器から放たれる白い弾頭。更には、右腕のガス噴霧器の先から飛び散る火花。次の瞬間には、彼女の前方の路地は業火に包まれる。撃ち出した弾頭は白燐弾。おまけに、噴霧しているのは催涙ガスなどでは無く、霧状化したナパームとメタンの混合気体。
確かに、NAW相手に火炎は効果が薄い。コクピットには冷房すら効いているだろう。だが、剥き出しの計器類や彼等の持つ銃器は少し勝手が違う。異常をきたし、暴発の危険性が増す。
更には、全てを覆う橙色の揺めきが視界と正常な判断力を未熟者達から奪い尽くす。そして、その最中に屋上から的確に撃ち込まれるボフォース機関砲の弾雨。
正に、地獄の様相を呈している。ペイント弾による演習である事も忘れる程に。
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