080:三つ巴
今回の実技試験において生まれた分隊の総数は六部隊。スペンサーはこれにA〜F迄のアルファベットを振り分けている。
まず、A。所属人員は二名のみ。ピースとアーデンだけ。機体はHA-88とA18。分隊というべきか怪しいが、語るまでもなくその実力は別格。現在、北部へ移動中。
次にB。所属人員は六名。隊長はラムゼイ・ブレイク。機体はM90一機とM76四機。そして、急遽参加したKVVが一機。此方も今の所は語る事はない。活躍は記録されている。現在は南部のスーパーマーケットの駐車場一帯を陣地化しながら立て直しに励んでいる。
そして、北部にて目下戦闘中の三部隊。C、D、E。
この三部隊の戦闘はカルホーンがそうなる様に仕組んだと言って過言ではない。開始地点を意図的に北へ寄せ、事前情報の中に其々の位置情報を滑り込ませたのである。
お陰で、三部隊とも開始早々にお互いを補足し、膠着状態ないしは一進一退の攻防を繰り広げている。
勿論、状況を打開せんと動くものはいる。
その最たる一隊が、C部隊。所属人員は四名。隊長はウェイン・ウェスト。機体はBT55が四機。分隊結成の動機はかなり単純。隊長のウェインを含む四名は同じ機械工学部門にて机を共にした仲であり、軍事部門への志望動機も須くNAWを造るより乗り回したいというものだ。ウェインを事前通告者に選んだ時点でこの分隊が結成されるのは決定事項だったと言える。
ウェインの苛立たしげな無線がディスプレイから聞こえる。
「最高速で回り込んで叩き込めるだけ、叩き込め!臼砲持ちをどうにかしろ!」
ディスプレイに映る三輪のバギーじみた異色の装輪型NAW。
装甲車両顔負けの機動力。円形の広場の奥から嵐の如く降り注ぐクラスター弾を置き去りにし、路地へとその身を滑り込ませる。他の三機も別々の路地へ飛び込む。巧みなバックドリフトや急停止を駆使しながら、サイドから張り出す銃器を乱射する。
彼等は弾丸をばら撒きながら、瞬く間にD部隊を包囲した。
其々が路地から顔を出し、背部にNAWに200mm臼砲を背負ったNAWへ弾丸を浴びせる。だが、その精度は御粗末極まり無い。
スペンサーは肩を竦め、携帯端末を見る。
彼等の乗る機体、BT55。
欧州のとある小国の自動車企業、ロコダ社によって開発された第五世代NAW。装輪型の脚部では珍しい三輪方式を採用している。下手な装甲板以上の耐弾性を誇る三輪は其々がリバシン充填式のシリンダーサスペンションによって支えられ、変幻自在の姿勢制御と重心移動を実現している。また、搭乗員の健康を度外視すれば7m近い垂直跳躍すらも可能だそうだ。
その上半身は走行中の空気抵抗を軽減する為に前傾姿勢に折り畳める様、特殊機構が備わっている。要するに、人型と車両形態が大まかに存在しているわけだ。
そして、彼等が今、射撃している形態は人型というべき形態。
ライダー用のヘルメットじみた頭部には遥か昔に廃れた鮫の歯のペイント。骨格フレームに申し訳程度のジュラルミンの装甲を纏わせた細身の上半身は、手にした短機関銃やペッパーボックス拳銃を撃ち出す度に微動している。
形態を変えたからと言って、銃器の安定性が飛躍的に増すわけではない。脚周りの制御機構と比べ、上半身のそれは余りに貧弱。射線が高くなる他に、メリットらしいメリットは無い。
確かに、彼等の搭乗するNAWは機動性優れる。平地や舗装路では他の追随を許さぬだろう。そして、その機動性を活かした包囲も戦術的に何ら間違っていない。
だが、致命的に射撃の練度も冷静さも足りていない。包囲も穴だらけ。
故に、D部隊は突破を敢行した。
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