081:スタンドプレイ

 スペンサーはその動向を資料内容と照らし合わせる。


 包囲を受けた側のD部隊。

 所属人員は5名。隊長はヘクター・ダリッツ。機体は多種多様で纏まりがない。ヘクターがReB。ホリーがCLT1。ラッセルとラミーがFLAKⅡ。そして、マーレが強襲型M90。

 その結束は他の分隊の中でもかなり緩いものだ。同盟という方が正確かもしれない。原因は彼等があくまで初対面の赤の他人であり、戦闘開始に至るまで協力を必然とする逼迫した状況下にいなかった為である。


 そして、隊長のヘクターもまたその状況を改善しようとしなかった。


 彼曰く、『互いの誕生日も知らない奴らがマトモな作戦行動が取れるか?正気の沙汰じゃない、互いの背中を撃たないだけで十分だ』


 ある意味、彼こそが本試験で最も妥当な男なのだろう。


 対して、固い結束を見せるC部隊はM90とFLAKⅡの二人を包囲する事に成功した。コレの最たる原因は彼等がかなり疎に展開し、スタンドプレーじみて砲撃を行っていた事、FLAKⅡが余りにもヘイトを買い過ぎた事にあるだろう。


 FLAKⅡは亡共産国の国営工廠が開発した二人乗りの輸送支援用NAWである。開発者はハナからNAWを造るつもりは無く、四脚歩行の兵器用プラットフォームの研究の一環として生まれた。その為、駆動骨格は他のNAWの人型のものとは全く異なり、牛馬に近いものとなっている。

 自然の摂理に担保された優秀な積載量は、FLAKⅡの背部や前部プラットフォームに大量の火器の装備を可能にした。


 そして、今回の実技試験でもそれは例外ではない。


 前部のコクピットサイドに張り出した40mm機関銃四門、背部に背負われた200mm臼砲と自衛用クレイモア。そして、予備弾薬ありったけ。

 問題となったのは演習場の端から端まで届く臼砲。炸薬の殆ど詰まっていないペイント弾とは言えその破壊力は凄まじく、更に碌でもないのがこの機体が二人乗りであるために弾道の調整に集中を避けることだ。


 精度と破壊力に長ける移動砲台は必然的にヘイトを買う事になる。


『そもそも二人乗りはルール的に有りなのか?』


 そう思考する以前にFLAKⅡは最大の攻撃目標と化すのだ。

 そして、カルホーンはそのルール違反を看過してまで、FLAKⅡが攻撃目標になる事を望んだのである。明確な攻撃目標へ如何なるアプローチを掛けるか。実技試験の一要素ととしてその存在は余りに魅力な存在だった。


 かくして、その命題に機動力による包囲殲滅という回答を出したC部隊は斉射を開始した。幾らC部隊の射撃精度が御粗末でも、FLAKⅡはデカい的だ。被弾は避けられない。


 然し、FLAKⅡの操縦手も馬鹿ではない。射線を避ける場所を心得、更にはFLAKⅡのコクピットは四足獣の如く前面に配置されている。背面を向ければ、致命的一撃を貰うことはない。


 「致命傷は受けないけど、それだけだ、兄貴。八方塞がりだ」


 操縦席のラミーが肩を竦める。FLAKⅡが袋小路に追い込まれているのは違いない。

「その為の御仲間だろ、頼むぜ全く」


 ラッセルが共に包囲されていたM90へ合図を送る。


「OK」

 

 オリーブグリーンのM90が跳ね飛ぶ様に遮蔽から飛び出す。通常のM90より装甲が薄く、細身。脚部に増設されたスプリングサスペンションと背面の排熱用レギュレータ。右肩にはM90の上半身を弊する程の大型の防楯。

 

 何より目を引くのが、そのM90は武装を一つしか保有していないこと。そして、その武装が反りの無い片刃の軍刀一本である事だ。


 防楯で弾丸を受け止めながら、強襲型M90はBT55の一機へ肉薄する。僚機から最も近く、そして他のC部隊への導線上に存在するBT55。退路を塞ぐ其奴のサイドスカートにはライダースーツ姿のグラマラスな赤毛の美女の絵が描かれている。


 美女付きBT55の搭乗者。アービングは操縦桿を思い切りぶん回す。


 幸か不幸かBT55は人型形態。持ち前の機動力で防楯の隙を掻い潜る。ドリフトしながら、その手に握った短機関銃を前方に突き出す。この距離なら射撃の腕前は関係ない。引き金を引いた。


 だが、弾が出ることは無かった。

 

 カメラに映るもの。振り抜かれた軍刀。弾倉諸共に断ち切られた二丁の短機関銃。そして、

 二の太刀を振り下ろさんと刃を返すM90。

 

 コイツが事前通告で言われていた例外野郎なのか?

 

 その困惑を彼の闘争心は無視して見せた。死中に活を見させた。即ち、アクセルペダルをベタ踏んだのだ。途轍もない急加速。M90への間合いを自滅的に詰め、轢殺せんと迫る。友の為、相打ちに持って行く。


 彼の疑念は間違っていたが、その咄嗟の行動も間違っていた。


 M 90の搭乗者は例外の二人では無く、相打ちに出来る相手でもなかった。M90は左脚を軸に身体を捌き、BT55の進行上から退いた。振り上げた刃はそのままに。

 BT55は突如として眼前に現れた建物の壁へ突っ込む。コンテナの柔な壁を打ち抜く。


 その背中へM90は袈裟斬りに軍刀を振り下ろした。


 刃についた赤色塗料がBT55の背中に斜めに赤い直線を描く。コクピットを両断する様に。


 無線が響き渡る。上空の観測飛行船からの淡々とした電子音声だ。


「試験番号JA-12撃破」

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