037:似たもの同士
ピースが後ろ手にドアを閉めると、閂の降りる鈍い音が鳴った。
その音に気付いた黒髪の女がドアの方へと顔を向ける。
「ノックも無しに入るのはどうかと思うわ。第五育ちなら仕方ないかもしれないけど」
女は顔を顰めてそう言った。
「申し訳ありません、嗚呼と…」
「チェス・ウェブスター。階級は准尉。貴方の大好きな少佐殿の同僚よ」
「そうでしたか。私はピース・ランバート。ご存知のように第五空白地帯で鉄屑漁りをやっていました」
ピースは愛想の良い笑みを浮かべる。
「この部屋の他の同居人は?」
「スペンサーと私だけ。不本意だけどね」
「女性の方は少ないようですね」
「わざわざ好き好んで軍事部門に配属されたがる奴なんて男ですら稀よ。大半が半強制的な人事異動の犠牲者」
「つまり、第六複合体の人事は崩壊前に流行っていた男女平等に相反したもので、更には、貴方や少佐はそれを乗り越えた革新的な女性であると?」
茶化すように、そう宣い。更にピースは付け加える。
「いや、正しくは後退的、錯誤的、ルネッサンス的?」
チェスはうんざりしたようにラップトップを閉じる。
「スペンサーとはまた違う嫌な奴ね。彼女の話じゃ、17歳と聞いているけれど」
「青臭いですかね」
「ええ、全く。物事を穿って見たがる年頃ね」
窓の方へ視線をずらし、小さく彼女は囁いた。
「私の若い頃を見てるみたいでうんざりする…」
ピースの崩壊前最新鋭の指向性マイクはその囁きを一字一句逃さず捉えていたが、わざわざそれを口に出すほど後先が見えていない訳でもなかった。
「話振りを聞いている限りでは少佐のことが余り好ましく思っていないようですね」
チェスは何も言わず、ただ頷いた。
「理由が思い当たらない訳では無いですが、一応、聞きたいところです。貴方の口から」
「思い当たるなら、それで良いじゃない。そう言うのが貴方の言うところの青臭さね」
「正論ですね。会話のキャッチボールを考えると、最善手ではないように思えますけど」
くしゃみの様な笑い声を上げた。
そして、部屋を見渡し空いていそうなベッドを探した。即ち、スペンサーとチェスの寝台以外である。
「左手前のやつを使えば良い。スペンサーの隣よ。一日分の生活必需品は収納箱中に詰まっているわ」
無愛想にチェスはそう言ったが、節々から生来の面倒見の良さが滲み出ていた。
ピースは少し嬉しくなって慇懃さの全くない一礼をした。キングと同じように、彼女のことも嫌いになれなかった。
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