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 ある日の事だ。虎次郎はすっかり教員の仕事に慣れ、誰もが1人前になったと思えるようになった。だが、まだまだだと思っている。これで油断して、天狗になっていたら、また解雇になるだろう。そして、また職を探す事になるだろう。そうならないためにも、油断をしてはならない。


 虎次郎はサッカー部の練習を見つつ、指導をしていた。みんな、虎次郎の指導がいいと思っていた。元プロサッカー選手だからという理由が一番だが、とてもためになる事ばかりで、納得しているという。

 今日の練習が終わった直後の出来事だった。再び山口が虎次郎の元にやって来た。


「山口、どうした?」

「俺、進学校に進もうと思ってるんだ。サッカーの強豪なんだけど」


 山口は考えていた。もっとサッカーがうまくなりたいと思い、地元にある高校サッカーの全国大会の常連校に行きたいと思っていた。だが、それで本当にいいんだろうか? 虎次郎のように、戦力外にならないだろうか? そうすれば、虎次郎みたいにとんでもない人生を送るのでは?


「いいじゃないか。どうしたんだい?」


 だが、虎次郎はいいだろうと思った。行きたいのなら、それでいいじゃないか? 挑戦してみるのは、いい事だぞ。


「本当にプロになれるのかなって」

「なれても、なれなくてもチャレンジンしてみようよ」


 虎次郎は山口を励ました。自分はプロになったけど、戦力外になった。だけど、その経験は今、教員として生かされている。だから、プロになって損はないだろう。なれなくても、その経験がいつか糧になるだろう。


「うーん・・・」


 だが、山口は悩んでいる。虎次郎はその表情が気になった。悩んでいることがあるのなら、何でも聞きなさい。目の前に先生がいるんだから。


「何で悩んでるんだ?」

「先生、プロで挫折したんでしょ?」


 山口は気になっていた。戦力外にならずに、プロでサッカー人生を全うしたいのに、戦力外になった虎次郎の事を考えると、プロに入っても戦力外になりそうで怖い。それだけプロって厳しいものなのかなと思ってしまう。


「確かに俺は挫折した。だけど、その経験を生かして頑張ってるんだ」

「そうなんだ」


 山口は思った。プロという経験がここでも生かされているんだなと。


「戦力外になった時、つらかった?」

「ああ。でも、怠けてた自分が悪いんだと徐々に思い始めて、当然だと思った」

「ふーん」


 怠けていた自分を反省しているのか。自分は怠けずにサッカーの練習を頑張っている。今の自分には全く問題ない。そして、頑張っている。だから、大丈夫かもしれない。だけど、プロってそんなに簡単なものじゃない。レギュラーになれるのはほんの一握りで、代表、海外組はそのさらにほんの一握りだろう。


「まぁ、努力を惜しまないことが大切って事だな」

「そっか。努力が大事なのか」


 山口は思った。もっと頑張ればきっと結果が出る。そして、プロでもレギュラーになれるだろう。


「ああ。油断してはならないって事だな」

「そっか」


 だが、その前には受験勉強が待っている。山口が進もうとしている高校は、偏差値が高い。そんなに成績の良くない山口はもっと頑張らなければならないだろう。だけど、頑張ってほしいな。


「受験勉強、頑張ってね」

「うん。まかしてね」


 虎次郎は山口の肩を叩いた。山口は少し元気が出た。


「先生、応援してるからね」

「頑張っちゃうぞ!」


 そろそろ帰る時間だ。早く道具を片付けて、帰らなければ。きっと家族が心配するだろう。


「さよなら」

「さよなら」


 虎次郎は山口を見送っている。将来、山口はどんな人生を送っていくんだろう。どうであろうと、悪い人生を送ってほしくないな。そして、この経験がきっと生かされるような人生を送ってほしいな。


「どうしたの?」


 虎次郎は振り向いた。そこには高木がいる。


「山口くん、悩んでるようで」

「そうなんだ」


 高木は思った。やっぱり悩んでいるんだ。最近、様子がおかしかったからね。


「本当にプロになれるのかなって」

「そっか。まぁ、なれてもなれなくてもいい人生を送れればいいじゃないか」


 高木も同じ考えだ。どうであろうと、この経験が生かされるような人生を送ってほしいな。


「そうだね」

「この子たちの未来に、期待しようよ!」


 2人とも笑みを浮かべている。この中学校に通う中学生は将来、どうなるんだろう。


「そうだね」

「さて、俺も頑張らないと!」

「張り切っちゃって」


 虎次郎は元気が出てきた。この子に負けないように、自分も頑張らないと。自分が頑張れば、生徒もそれに刺激されて、もっと頑張るかもしれないから。


「杉村先生の受験って、どうだったんでしょうね」


 ふと、高木は思った。虎次郎の高校受験はどうだったんだろう。


「気になるのか?」

「うん。部活ばっかりで、あんまり頑張っていなかったりして」


 高木は受験はあんまり頑張っていなかったようだ。だが、家族に言われて、頑張るようになった。最初は普通科で考えていたが、成績が悪かったため、特色化選抜での受験となった。高木はそれで合格して、なんとか高校に進学する事が出来た。


「いやいや。頑張ってたと思うよ」

「本当かな?」


 虎次郎は疑わしかった。本当に頑張っていたんだろうか? ひょっとして、サッカーみたいに怠けていたんだろうか? 自分の高校受験はよく頑張っていたな。サッカーがうまいだけでなく、成績が良く、勉強熱心だったので、専願の高校の普通科に合格した。それもトップクラスだったという。

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