22

 虎次郎は亜希子の住むマンションにやってきた。マンションの前には、亜希子がいる。その横には、凛空もいる。亜希子も凛空が申し込んだ事を知っているようだ。


 虎次郎と凛空は近くの公園にやってきた。公園には何組かの家族連れや子供たちがいた。今日は日曜日という事で、多くの人が遊んでいる。虎次郎は思った。この中で、プロサッカー選手になりたい人は、どれぐらいいるんだろう。あの子供たちは、プロサッカーがどんなに厳しい世界なのか、知っているんだろうか?


「凛空、蹴ってみて」


 虎次郎は下手投げでボールを投げた。それを見て、凛空は走り出した。


「うん!」


 凛空はボールを蹴った。初めて見るが、この年齢にしてはなかなかいい。けっこう期待できるな。


「上手上手!」


 凛空が蹴ったボールはゆっくりとゴールポストに吸い込まれた。それを見て、凛空は喜んだ。まるでゴールを決めて喜んでいるようだ。


「うーん、もっと強くシュートができればなぁ」


 だが、虎次郎は辛口だ。もっと力強くシュートができなければ。だが、この年齢だからしょうがないだろう。


「そうだね! もっと頑張らないと」


 だが、凛空はポジティブだ。もっと頑張らなければと思っているようだ。その姿を見て、虎次郎は嬉しくなった。怠けていないようだ。もしプロになった時、怠けていなければ、凛空はもっと頑張れるんじゃないかと思った。


「僕もプロになれるかな?」

「頑張ればなれるさ! でもなぁ、なってからが大事なんだよ。お兄ちゃん、調子に乗ってたからケガばっかりして、すぐにクビになったんだよ」


 だが、それを聞いて凛空は気にしていない。ケガやクビの意味が全く分からなかったから、気にしていないように見える。でも、積極的なんだから、この子なら頑張れそうだな。


「そうなんだ」

「だからな、入ってからが重要なんだよ」


 凛空はその話を真剣に聞いていた。入ってからが重要。そこで怠けていたら、使い物にならなくなる。目の前にいる虎次郎はそれを経験した。その経験をきっかけに、今こうして頑張っている。


「そうなんだ」


 だが、凛空は下を向いた。何か悩んでいることがあるんだろうか? もしあるのなら、話してほしいな。


「どうしたの?」

「本当にプロになっていいのかと思って・・・」


 凛空は思っていた。プロって、もっと厳しい世界だ。本当にそんなところで頑張っていけるんだろうか? プロになっても、本当に試合で活躍できるのは、ほんの一握りだけだ。虎次郎はその一握りになれずに戦力外になってしまった。自分もひょっとしたらその一握りにされるかもしれない。そう思って、少しびくびくした。


「大丈夫大丈夫。俺みたいにならなければいいだけ」

「そう、かな?」


 凛空は疑わしかった。実力とは別の、何かがいるんじゃないかと思えてきた。


「大丈夫だよ。だからもっと頑張って」

「うん」


 そのころ、2人の男がその様子を見ていた。高木と滝本だ。偶然、その公園に来ていた。そこで、虎次郎見たようだ。


「あれっ、親子?」

「そう見えるけど、そうじゃないんだ」


 親子のように見えるが、本当は親子ではない。でも、もう親子と言っていいんじゃないかな? それほど仲が良い。2人は思った。虎次郎と亜希子は結婚してもいいんじゃないかな?


「まるで親子のようだね」

「そうだね」


 高木は横を見た。そこには亜希子がいる。2人の姿を見て、笑みを浮かべている。


「村山先生との恋愛は順調みたいだね」

「近い将来、結婚もあるかもね」

「それはどうかな?」


 だが、亜希子は慎重だ。本当に結婚まで至れるのかわからない。両親の了解があるし、そこまで恋が成就するのかわからない。


「将来、結婚するかもしれないから、楽しみだね」

「きっと、両親も認めてくれるだろうよ」


 高木は亜希子の肩を叩いた。きっとうまくいくさ。だから、このまま恋愛を続けていけよ。もし結婚するとなったら、結婚式に呼んでほしいな。


「いいお父さんになりそうだね」

「ああ」


 3人は虎次郎と凛空を見ている。この2人は親子になる日は、いつ訪れるんだろう。血はつながっていなくても、きっと親子と呼べるようになるだろう。




 ある日の休日、亜希子は家でのんびりしていた。夢の中で考えているのは、虎次郎の事だ。いつか虎次郎と結婚して、一緒に行きたい。そして、また子供を作りたいな。凛空だけでは寂しいだろう。兄弟姉妹が欲しいに違いない。


 突然、電話が鳴った。亜希子はその音で飛び起きた。誰からだろう。ひょっとして、虎次郎からだろうか? デートの予定だろうか? ならば、大歓迎だ。


 亜希子は受話器を取った。


「亜希子ちゃん・・・」


 母からだ。こんな朝早くから、何だろう。何か話したい事があるんだろうか?


「お母さん」

「あなた、亜希子という女と付き合っているらしいな」


 亜希子は驚いた。まさか、虎次郎と付き合っているのがばれてしまうとは。誰が言ったんだろう。


「はい」


 母はほっとした。やはり本当だったんだ。もう誰とも結婚しないと言っていて、どうなるんだろうと思っていたけど、また結婚すると言ってくれた。嬉しいな。


「お父さんお母さん、結婚になると願ってるぞ!」

「本当?」


 亜希子は興奮している。まさか、両親も虎次郎との恋を応援しているとは。両親も応援しているのだから、もっと頑張らないと。そして、結婚まで至らないと。


「ああ」

「じゃあ、頑張ってね」

「うん」


 電話が切れた。亜希子は喜んだ。両親も応援している。両親のためにも、恋が成就するように頑張らないと。




 その頃、虎次郎は自宅にいた。自宅には誰もいない。卒業して以来、両親以外誰も入っていない。それでも孤独を感じていない。もうすぐ孤独じゃなくなると思ったら、全然寂しくない。


「明日から仕事だな」


 突然、インターホンが鳴った。誰だろう。また両親だろうか? 直接謝りに来たんだろうか?


「はーい」


 虎次郎はドアを開けた。そこには、見知らぬ男女がいる。この2人は誰だろう。虎次郎は首をかしげた。


「あのー・・・、どなたですか?」

「村山亜希子の両親です」


 亜希子の両親がやってくるとは。虎次郎は少し戸惑った。何か言いたい事があるんだろうか?


「えっ!? どうしたんですか?」

「亜希子と付き合ってると聞いて」


 虎次郎は驚いた。まさか、亜希子と付き合っているのがばれたとは。誰が言ったんだろうか?


「付き合ってますけど」

「結婚式、出席したいな」


 虎次郎は嬉しくなった。亜希子の両親も応援しているとは。亜希子の両親のためにも、これからの恋を頑張って、結婚までに至らないと。そして、彼らを結婚式に呼ばないと。


「本当?」

「ありがとう」


 亜希子の両親は自宅を後にした。虎次郎はその後姿を見ている。


「さて、今日も朝ごはん食べてくるか」


 しばらくして、虎次郎は朝食を食べに行く事にした。仕事のある日は自宅で朝食だが、休みの日はどこかで朝食だ。仕事のない日は、こうしてのんびりと朝食を食べるのもいいと思ってやっている。


 虎次郎は通りを歩いていた。通りは平日より静かだ。まだ寝ている人もいると思われる。


「あれっ、虎次郎じゃないか」


 虎次郎は振り向いた。高木だ。まさか、ここで会うとは。


「ああ。今さっき、亜希子ちゃんの両親がやって来たんだ」


 高木は驚いた。ここにやってきたとは。何をしに来たんだろう。


「ふーん」

「結婚式に出席したいと思ってるらしいよ」


 亜希子にも言っていたけど、虎次郎にも言ったとは。よほど行きたいんだな。


「そうなんだ。よかったじゃない。きっと来てくれると思うよ」

「そうだね」


 2人は結婚式を思い浮かべた。どっちの両親も来てくれて、職場のみんな、プロ時代の友人、幼馴染に囲まれて、虎次郎と明子が結婚式を挙げるシーンを。

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