20

 朝、虎次郎は寝ていた。昨日は小畑と会って、かなり飲んだ。その影響で、かなりぐっすりと寝ていた。だが、あんまり気にしていない。なぜならば、今日は休みで、早く起きる必要がない。虎次郎は仕事の疲れを寝てしっかりと取っていた。


 突然、インターホンが鳴った。こんなに朝早くから誰だろう。まさか、両親だろうか? もし両親だったら嫌だな。また愚痴を言われるだろう。もう聞きたくないのに。


「何だよこんな朝早くに」


 またインターホンが鳴った。しつこいな。誰だろう。


「はーい」


 虎次郎は鍵を解いて、ドアを開けた。そこには両親がいる。まさか両親が来るとは。言う事はわかっているけど、また来るとは。


「えっ、父さん、母さん」

「来ちゃった」


 母は笑みを浮かべている。だが、虎次郎は思っていた。また愚痴でも言うんだろう。


「どうしたんだよ」

「言いたい事があってね」


 もう過ぎ去った事なのに、どうしてまた言うんだろう。俺はもう新しい人生を歩んでいるのに。そして、頑張っているのに。


「またあの愚痴?」

「嫌なの?」


 母は強い口調だ。何度でもいいから聞きなさい。あなたの黒歴史なんだから。だが、虎次郎は嫌な表情をしている。もう聞きたくないのに。だが、母はまったく気にしていない。


「ああ」

「聞きなさい!あんた、クビになって恥ずかしくないの? みんなあきれてるよ」


 突然、虎次郎は母を突き飛ばした。柵に当たって、母は転んだ。母は呆然としている。


「うるせぇ!」

「痛っ!」


 母は痛がっている。その様子を見て、父も茫然としている。またキレた。どうすれば落ち着くのか。


「帰れ!」

「は、はい・・・」


 2人は帰っていった。2人は寂しそうな表情だ。虎次郎はもう振り向いてくれない。もうあんな事を言っても、何にも聞いてくれない。どうすればいいんだろう。


「朝からうるせぇなぁ。もう言われたくないのに。もう会いたくないわ!」

「もう帰りましょ・・・」

「うん」


 2人は去っていった。その後ろ姿を見て、虎次郎はドアを力強く閉めた。そして、また鍵をした。


 2人は泣いていた。またもや振り向いてくれなかった。あんなに言っているのに、また聞いてくれなかった。これからどうすればいいんだろう。


「あのー」


 2人は前を見た。そこには高木がいる。だが、2人はその男が誰なのかわからなかった。


「どうしたんですか?」

「杉村虎次郎さんのご両親ですか?」

「はい」


 虎次郎の両親だとわかるとは。ひょっとして、虎次郎の会社の同僚だろうか?


「もうあんなことを言うのはやめなさい!」

「いいじゃないの! あの子は地元のファンを裏切ったんだから」


 2人は許せなかった。地元にあれだけのファンがいたのに、戦力外になってしまった虎次郎が許せなかった。またここに帰ってきてほしかった。


「何が裏切っただ! 人生を頑張ってるじゃないか!」


 突然、高木は2人にビンタを食らわせた。虎次郎だけではなく、虎次郎の同僚にもやられるなんて。


「痛てっ!」

「虎次郎さんはな、過去の失敗を生かして、教員として頑張っているじゃないか! どうして味方にならないんだ!」

「うーん・・・」


 そう思うと、少し考えてしまった。これまでの人生を生かそうとして、頑張っているのに、どうしてあんな事を言ってしまったんだろう。


「まぁいいから、近くの定食屋で食べよう」

「はい・・・」


 2人は仲直り目的で、定食屋に行く事にした。本当はそんな予定はなかったのに。




 そのお昼、3人は定食屋で話をしていた。高木は生姜焼き定食、両親は鯖みそ定食だ。


「ビンタして、ごめんな・・・」

「今さっき、虎次郎に突き飛ばされたの」


 母は、虎次郎に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。あんなに頑張っているのに、どうしてそんな事を言ってしまったんだろう。どうか今さっきの事を許してくれ。だけど、許してくれるんだろうか? 許してくれなかったら、もう縁を切られてしまうかもしれない。もう実家に戻ってきてくれないかもしれない。


「そうなんだ・・・」


 虎次郎が悩んでいる事を、高木は知っていた。だけど、もう言わないだろう。これからは、悩まずに頑張ってくれるはずだ。


「いっつも反抗的なんだ」

「ふーん」


 父の意見を聞いて、虎次郎の気持ちがよく分かった。もう戦力外の事を聞きたくないんだろう。戦力外の事を気にせずに、頑張っていきたいと思っているんだろう。


「気にしてるの?」

「ううん。何も言わなければ、何もやらないからね」


 だが、両親は知っていた。虎次郎は何も言わなければ、とても優しい。


「そうなんだ」

「それになぁ、虎次郎さん、恋もしてんだよ!」


 両親は驚いた。虎次郎は恋をしているとは。どんな相手だろう。一度、会ってみたいな。


「そんな・・・」

「頑張ってんのに、何だよ!」


 高木は再び強い口調になった。第2の人生を頑張っている事が、高木の話で痛くわかった。もうあんなことを言わないようにしよう。


「本当に申し訳ない・・・」


 2人は高木に向かって謝罪した。2人はそんな両親を許した。この謝り、虎次郎にもわかってほしいな。

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