17
3人は半蔵門線で押上に向かっていた。押上は東京スカイツリーの最寄り駅で、東京スカイツリーがオープンして以降、多くの観光客が訪れている。東京スカイツリーは634mの新しい東京の電波塔で、もはや東京の有名な観光地だ。
「こうして、東京を歩けるなんて、思ってなかったでしょ?」
「うん」
この時間帯は空いていて、空席が目立つぐらいだ。朝はとても混雑しているが、今日はまるで嘘のようだ。
「スカイツリーか・・・。先日行ったんだよな。でも、2人で行くとまた違うだろうな」
虎次郎は先日、東京スカイツリーに行った時の事を思い出した。あそこで、プロ時代の監督と会い、一緒に食事をしたな。
「そうだね」
「凛空がスカイツリーに行くの、離婚して以来、なかったんだって」
亜希子は離婚して以降、凛空の事ばかりでどこにも行けなかった。凛空には申し訳ない気持ちでいっぱいだが、家計を支えなければならない。だから教員を休む事ができない。
「それから自由に行けなかったんだね。歓迎会に行けなかったのも」
「本当にごめんね」
亜希子は歓迎会に行けなかったのを申し訳なく思っていた。だが、後悔してもすでに過ぎた事だ。いつまでも気にしていてはいけない。
「もういいんだよ。こうして2人で家で飲めただけで幸せだよ」
「そう。ありがとう」
虎次郎は思っていた。昨日、一緒に飲めただけでもいいじゃないか。
「俺、先日行った時に、プロだった頃の監督に会ってね」
「ふーん、そうなんだ」
亜希子は驚いた。先日、スカイツリーに行って、プロ時代の監督と再会したとは。どんな話をしたんだろう。これからの人生、頑張ってほしいと言ったんだろうか?
「今日は楽しみましょ?」
「うん」
電車は徐々に押上に近づいてくる。次第に乗客が増えてきた。彼らの多くはスカイツリーのある押上に向かうと思われる。
「また会えてよかったと思ってる?」
「うん。僕もよかったと思ってるよ。これからもよろしくね」
「もちろん」
ふと、虎次郎は思った。もしよかったら、自分と一緒にならないかな? もし一緒になったら、凛空の子育てにも余裕ができるかもしれないから。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
だが、虎次郎は言う勇気がなかった。戦力外になった落ちこぼれだけど、本当に言っていいんだろうか?
3人はスカイツリーの天望デッキにやって来た。天望デッキには多くの人が来ている。ある人はガラスから東京の街を見下ろし、遠くに見える富士山を見ていた。人々はそれぞれの楽しみ方でスカイツリーを楽しんでいた。
「さて、着いたぞ!」
「すごいなー」
2人とも、スカイツリーから見る東京の景色に感動していた。凛空はその景色を見て、口を開けていた。こんな風景があったなんて。
「何度見てもすごいよね」
「うん」
と、虎次郎は思い出した。東京に来て、最初に行きたいと思ったのがスカイツリーだ。だが、練習ばかりで、結局、現役時代に行った事がなかった。
「東京に来て、最初に行きたいと思ったのがスカイツリーだったんだな」
「私もそう!」
亜希子もそうだった。高橋と行ったスカイツリーは、とても素晴らしかったな。だけど、もうその2人はもう別れてしまった。
「スカイツリーから見た東京の景色、感動的だったなー」
「そうね」
亜希子は東京ドームを見つけた。地上からでは大きく見える東京ドームが、こんなに小さく見える。このスカイツリーならではの景色だ。
「あっ、東京ドームが見える!」
「本当だ! 遊園地も見えるぞ!」
「そうだね」
虎次郎がよく見ると、その隣に遊園地もあった。中学校の修学旅行に行った時は、隣りの遊園地で遊んだ。とても楽しかったし、いつか東京に行きたいという野望も芽生えた。
虎次郎が辺りを見渡していると、国立競技場が見えた。先日、近くに行ったばかりだが、今回は天望デッキから見る。この眺めもなかなかいいもんだな。
「国立競技場だ! 何度ここにあこがれたものか」
「もうかなわないもんね」
国立競技場の舞台に立ちたいという願いは、結局かなわなかった。だけど今、自分は教員というステージに立っている。教員の世界では必ず大成してみせる。
凛空はその景色を食い入るように見ている。その様子を見て、2人は笑みを浮かべた。凛空も気に入っているようだ。
「凛空、すっかり見とれてるなー」
「嬉しそうだね。こんな凛空、あなたと一緒にいる時でしか見られないのよ」
凛空はあまり遠くに行った事がない。だから、そんなに嬉しそうな表情をしたことがない。だがここ最近、虎次郎や亜希子と一緒に出かけるようになってから、表情が変わったようだ。
「本当?」
「うん。よほど僕といるのが嬉しいのかな?」
亜希子は嬉しそうだ。やっぱり父がいる方が、凛空は大きく成長できるのでは?
「いや。一緒に行けるのが楽しいんだと思うよ」
「そうかもしれないね」
亜希子は思っていた。虎次郎と一緒にいる時間が、何より嬉しい。ただ単に好きだからじゃない。一緒にいたら、いろんな所に行けそうな気がするからだ。
「東京はやっぱり素晴らしいな」
「そうね」
と、亜希子は虎次郎の方を向いた。何か言いたい事があるんだろうか?
「私、虎次郎くんと一緒にいる時間が好き」
「本当?」
虎次郎は嬉しかった。自分といる時間がこんなに好きだとは。じゃあ、もっと一緒にいる時間を作ろうかな?
「うん。今まであまり遠くに行けなかったけど、虎次郎くんと一緒にいたら、楽しい事ができそうで」
「そっか。それは嬉しいな。僕もそう思ってる。大学での4年間は孤独だったんだ。だけど、こうして教員になって、亜希子ちゃんと会えて、いいと思ってるよ」
「ありがとう」
2人とも、一緒にいられる時間が一番嬉しいと思っているようだ。いつか、いつまでも一緒にいられるようにしたいな。
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