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 3人は、久しぶりに出身高校にやって来た。この高校は、高校サッカー選手権などで好成績を収めていて、全国的に有名だ。今でも強豪として知られていて、プロになりたい、世界で活躍したい、日本代表になりたい中学生が全国から集まってくる。


 2人は懐かしい風景に感動していた。あの頃と全く変わっていない。付近の住宅も、近くの食堂も、道も、何もかも一緒だ。


「ここが一緒に過ごした場所だね」

「うん」


 2人は青春を思い出しながら、歩いていた。ただ、それを知らない凛空は普通に歩いていた。2人にとっては、ここが思い出の場所なんだな。だが、凛空にはどこが感動するのか、全くわからなかった。


「懐かしいわー。また来れるなんて」

「そうだね」


 3人は高校の前の道を歩いていた。何度も通学で通った道、日曜日は閑散としていた。明日になると、多くの高校生で賑わうだろう。それを考えると、青春の日々が蘇る。あの頃は本当に素晴らしかったな。プロになれる、日本代表になれると期待され、みんなから大人気だった。


「変わってないなー。この道、何度も歩いたね」

「うん」


 だが、凛空は2人の様子を不思議そうに見ていた。


「ここが、お母さんの思い出の場所なの?」

「そうだよ。杉村くんと一緒に行きたいと思ってね」

「ふーん」


 初めて知ったんだが、この人は杉村というんだ。どんな人なんだろう。気になるな。


「興味ないの?」

「いやいや。そんなわけないよ」


 凛空は嘘をついていた。2人の思い出の場所なんて、あまりわからないよ。自分はその時、生まれていなかったんだから。


「そっか。突然行くって言ってごめんね」

「いいよ」


 凛空はどこかに行けるだけで幸せだった。離婚してから、あまりどこかに行っていなかった。久しぶりにどこかに行けて、本当に嬉しい。またどこかに行きたいな。


「お母さんと杉村さんって、どんな関係なの?」

「ああ。高校時代の友達でね。先日、久々に会って、昔を懐かしみながら巡りたいなと思って」


 虎次郎はあの頃を思い出しながら、凛空に語っていた。だが、凛空には全く興味がない。


「そうなんだ」


 と、虎次郎はある物を見つけ、指さした。サッカー場だ。ここで何度も汗を流し、仲間と一緒に泣き笑いしたな。ここもあの時と全く変わっていない。まるで時が止まっているかのようだ。ここも明日になれば、サッカー部の歓声が響き渡るだろう。


「ここここ! ここがサッカー場だ!」

「変わってないなー。ここで汗を流したんだよね」


 虎次郎はまたしても青春を思い出した。だけど、もうそんな青春は戻ってこない。


「あの頃の僕はよかったなー。日本代表に選ばれて」

「そうだね。だけど、代表に選ばれるどころか、レギュラーになれなかったんだよね」


 虎次郎はまたしても大成しなかった自分を思い出してしまった。思い出すと、いつも落ち着かなくなる。忘れたいのに、忘れる事ができない黒歴史だ。


「ああ。僕は天狗になりすぎたんだ。だから大成しなかったんだ」

「継続は力なり、努力が大事だって事だね」


 亜希子は笑みを浮かべた。こうして教訓を知ったのだから、いいじゃないか。それをこれから生かせばいいじゃないか?


「うん」


 と、虎次郎は思った。そろそろ昼時だ。高校時代、よく通った定食屋がある。あそこは今でもやっているんだろうか? もし、やっていたら、また食べたいな。


「この近くの定食屋、やってるかな? そろそろお昼だから、久々にここで食べたいなって」

「いいね。行こうよ!」

「そうだね」


 3人は定食屋に向かって歩き出した。凛空も大喜びだ。離婚して以来、母の手料理ばかりで、あまり外食に行った事がない。久々に外食できるのが嬉しかった。


 少し歩くと、古びた定食屋にやって来た。定食屋『三郎(さぶろう)』だ。晩ごはんはよくここにやって来て、定食を食べたものだ。


「あっ、ここだ! やってた!」

「よかったね!」


 3人は定食屋の前にやって来た。定食屋は今日もやっていた。定休日は月曜日で、今日は開いていた。


「ここに行くの?」


 凛空はワクワクしていた。何を食べよう。ここに入ってから決めよう。


「うん。何食べる?」

「まだ決めていない」


 だが、2人は決めていた。それは、2人が高校時代に大好きだった定食だ。


「じゃあ、行こうか?」

「うん」


 3人は定食屋に入った。古びた店内も、そのままだ。壁には、ここを巣立った有名人のサインがある。卒業してなお、時々顔を出しているようだ。


「いらっしゃいませー、って、村山さん、杉山くん!」

「久しぶりに来ました」


 2人はお辞儀をした。店主の上野は2人の事を知っているようだ。風貌は少し変わったが、見ただけで2人だとわかった。


「まさか来てくれるとは。あれからどうしたんだろうと思ってたんだよ」

「やっと仕事が落ち着いたので、戻ってきました」


 虎次郎は照れている。亜希子は笑っている。凛空は無表情だ。


「2人とも、何をしてるの?」

「教員。僕は今年からね」


 上野は驚いた。亜希子だけでなく、虎次郎も教員になったとは。戦力外になってから、どうなったんだろうと心配したが、教員になったとは。


「そうなんだ。戦力外になってから、どうしたんだろうと思ったけど」


 3人はテーブル席に座り、メニューを見た。だが、2人の注文は決まっている。


「あっ、注文だけど、生姜焼き定食で」

「私は肉野菜炒め定食で。凛空は何にする?」

「オムライスで!」

「わかりました」


 上野は厨房に向かった。凛空は辺りを見渡している。ここも2人の思い出の場所のようだ。色紙が多く飾ってあるので、そこそこ有名な店のようだ。


「ここがそうなの?」

「うん。いいとこでしょ?」

「うーん・・・」


 だが、凛空には全くわからなかった。だけど、2人が楽しんでいるようだから、いい所なんだろう。


「わからなくてもいいのよ」


 しばらく待っていると、上野はオムライスを持ってやって来た。


「お待たせしました。オムライスです」

「ありがとうございます」


 上野は凛空の前にオムライスを置いた。凛空は喜んでいる。


「先に食べていいよ」

「いただきまーす」


 凛空はオムライスを食べ始めた。その後も、2人は店内を見渡している。懐かしいと、どうして見入ってしまうんだろう。あの頃を思い出してしまうからだろうか?


「戦力外になってから、苦しい日々を送ってたんだね」

「だけど、それでハングリー精神を養う事ができた。そして、何が自分に足りなかったのか、わかったんだ。だけど、もう過去は戻ってこない」


 虎次郎はまたしても後悔していた。あの頃、戦力外になっていなくて、プロで活躍していたら、どんな人生を歩んでいたんだろう。誰からも期待され、子供たちがあこがれるプロになっていただろうな。


「おいしい!」


 凛空はおいしそうに食べている。そこに、上野がやって来た。2人のメニューを持ってきたようだ。


「お待たせしました。生姜焼き定食と、肉野菜炒め定食です」

「ありがとうございます」


 上野は2人の前に注文したメニューを置いた。


「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」


 2人は定食を食べ始めた。味もあの頃と変わらない。とてもおいしい。


「やっぱこの味はおいしいな!」

「そうね! 昔と変わってないわ」


 虎次郎が食べている生姜焼き定食は、ごはんが並盛だ。高校の頃はいつも大盛で、おかわりしているぐらいだったのに、並盛になってしまった。食べ盛りの時期はもう過ぎたんだな。


「杉山くん、いつも大盛だったのに。今はそうじゃないんだね」

「ああ。もう食べ盛りを過ぎたし、もうスポーツをやってないからね」


 確かにそうだ。もう4年前にスポーツはやめた。これからはスポーツを指導する立場になるだろう。だから、そんなに食べてはいけない。


「そうだったね」

「ハハハ・・・」


 2人は楽しそうに食べている。その様子を、凛空は不思議そうに見ている。

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