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翌日、虎次郎はいつものように中学校にやって来た。今日は始業式、そして着任式だ。すでに中学校に来ているが、今日が出発だ。いろんな事があるだろうけど、乗り越えていこう。そして、みんなから信頼される教員になろう。
虎次郎は車を走らせていた。桜は見ごろを迎え、朝から美しい花を咲かせている。ここはお花見の人気スポットだが、この時間帯は誰もいない。週末になれば、多くの人がやって来るんだろうな。いつかは職場の人々とお花見がしたいな。
中学校が近づくにつれ、中学生の姿をよく見るようになった。これから教える中学校の生徒だろうか? その中には、英語を教える事になる、もしくはサッカー部がいるんだろうか? 見ていると、どうしてそう思ってしまうんだろう。
虎次郎は中学校にやって来た。中学校には、すでに何人かの生徒や先生が来ている。先日以上の賑わいだ。それを見ると、いよいよ中学校が始まるんだと感じる。
「おはようございます」
虎次郎は振り向いた。高木がいる。もう中学校に来ているようだ。
「おはよう」
「いよいよ今日は着任式だね」
「うん」
着任式を考えると、少し緊張する。だけど、それと同時に、楽しみだと感じる。自分が元サッカー選手だと知ると、生徒はどう思うんだろう。
「杉村先生が元プロサッカー選手だって事知ったら、みんなびっくりしそうだな」
「うーん、びっくりするのかな?」
虎次郎は照れた。そんなにすごいのかな? 自分は大成せずに引退してしまった。それでもびっくりするんだろうか? 疑問だらけだ。
「そりゃそうだよ。こんな人に教えてもらえるんだから」
「そうだろうね。だけど天狗になってはいけないから」
虎次郎は思ていた。油断大敵だ。たとえ元サッカー選手とはいえ、新任の教員だ。名前だけで生きていける社会ではない。これからもっと頑張って、名を上げなければ。
「慎重だね。初心忘るるべからずだからね」
「うん」
虎次郎は職員室に入った。すでに何人かの先生がいる。虎次郎は指定された席に座った。朝活までは少し時間がある。虎次郎は大きく息を吸った。どんな事を言おうか。すでにメモに書いて練習したが、これでいいんだろうか? 不安だらけだ。
そして、入学式が始まった。今日から登校する1年生がいる。彼らは楽しそうだ。だが彼らは2年後、高校受験を控えているだろう。その頃には、どんな子になるんだろう。どんな進路を選択するんだろう。
「ただいまより、入学式を始めます。一同、起立! 礼! 着席!」
「今年の新入生はどうだろうね」
虎次郎は横を向いた。高木がいる。高木は今年の1年生を気にしていた。どんな性格だろう。問題を起こさないだろうか? とても心配だ。
「どうしたの?」
「去年は何かといじめが多かったもん」
高木は知っていた。去年の1年生の中に、いじめを起こしてしまった子がいた。その時は中学校中が大騒ぎになり、多大な迷惑をかけた。その影響で、いじめた生徒がスキンヘッドになったぐらいだ。
「そっか。何とかしないと」
「そうだ。コージーの蹴りとかどうだい?」
虎次郎は苦笑いをした。確かに、元プロサッカー選手の俺の蹴りは強い。だが、暴力はしてはいけない。サッカー以外では出されないけど、イエローカードやレッドカードだろう。
「それはいかんだろ。暴力反対だもん」
「そ、そうだね」
そうこう言っているうちに、着任式が迫ってきた。虎次郎は舞台に向かった。すでに舞台には、虎次郎と同じく、今年度から着任する教員がいる。
「続きまして、着任式を始めます」
「よし、本番だ!」
今年から着任する先生が、次々と紹介されていく。自分の番はまだだろうか? 虎次郎は期待と不安でいっぱいだ。
「えー、こちらの先生は、杉村虎次郎先生です。プロサッカー選手を経て、今年3月に、大学を卒業されて、この中学校に来られました。皆さんには、英語を教えていただきます」
滝本が紹介している間、虎次郎は緊張している。その説明を聞いて、生徒は驚いた。まさか、この中学校に元プロサッカー選手がやって来るとは。この人の担任になりたいなと思う生徒もいた。
紹介が終わり、虎次郎は演台に立った。生徒は虎次郎をじっと見ている。
「えー、皆さん、おはようございます。先ほど、校長先生から紹介してもらいました、杉村です。校長先生が言われました通り、私は元プロサッカー選手です。ですが、プロでは大成せずにすぐに引退しました。ですが、この短い経験を中学校の教員で生かそうと思い、この中学校にやってきました。顧問の部活ですけど、やっぱりサッカーが好きという事に変わりはないので、サッカー部の顧問をさせていただきます。ぜひ、授業で、部活で聞きたい事があれば、どしどしお願いします」
話が終わると、拍手が起こった。今日、着任した教員の中でも一番の大きさだ。これほど期待されているんだと思うと、もっと頑張らなければ、期待に応えなければと思えてくる。
紹介が終わって、虎次郎は職員室に戻ってきた。虎次郎は深く息を吸った。本番はうまくいった。だが、問題はこれからだ。教員としてやっていけるのか、真価が問われるだろう。
「緊張した?」
虎次郎は振り向いた。高木だ。
「うん。だけど、これから教員として最初の一歩を踏み出せたかなと」
「そっか。それはよかった」
だが、虎次郎はがっかりとしている事がある。担任になれなかったのだ。担任として、多くの生徒に囲まれたいし、それぞれの進路を決めたいとも思っている。
「残念ながら、担任にはなれなかったか」
「うん。でも、休んだら代理で来るかもしれないよ」
「そうだね」
と、そこに別の先生がやって来た。どうしたんだろう。
「あっ、そうだ、言い忘れてた。明日、俺、離任式で休みだから、代わりに朝活に来てよ。1年B組だけど」
「わかりました」
虎次郎は驚いた。まさか、1日だけでも、担任をやってほしいと言われるとは。今後も担任をしている先生が休んだら、やってほしいと言われるかもしれない。しっかりと備えておかないと。
「第二の人生の始まりだね」
「そうだね」
2人とも嬉しそうだ。いよいよこれから第2の人生が本格的にスタートしたのだ。そう思うと、これからもっと頑張っていかないとと思えてくる。
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