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 その頃から、サッカー部は騒然となっていた。今月から新しい顧問がやって来た。元プロサッカー選手の先生だという。聞くだけで、とても楽しみだ。どんな顔だろうか? かっこいいんだろうか? きっと、みんなあこがれるだろうな。


 サッカー部の1人がやって来た。今は春休みだが、サッカー部は日曜日以外ほぼ休みがない。だが、強くなるために、日々練習は欠かさない。すでに何人かの部員が練習をしていた。


「おはよう」

「おはよう」


 3年生の山口は部員に声をかけた。彼らはみんな元気な様子だ。今日もまた練習を頑張ろうとしているようだ。


「今日から新しい先生が来るらしいぞ!」


 やって来た部員は知っていた。今日から新任の顧問が来るそうだ。先月まで大学生だったそうだが、その前はプロサッカー選手だったそうだ。


「本当? どんな人?」

「昔、プロサッカー選手だったらしいよ」


 山口も知っている。体育を教えるのかなと思っていたが、英語を教えるようだ。部員は笑みを浮かべている。きっとためになる指導をしてくれるんじゃないかな?


「本当に?」

「うん。すぐやめちゃったんだけど、昔は日本代表候補と言われてたんだって」


 部員はもっと詳しい事も知っていた。元プロサッカー選手で、日本代表候補とも言われた人だとすると、すごいんだろうな。山口は驚いた。日本代表候補とは。とんでもない新任の先生がやって来たんだな。


「すっご! こんな人に教えてもらえるなんて」

「嬉しいよね」

「うん」


 と、そこに虎次郎と高木がやって来た。虎次郎を見ると、部員がやって来た。


「あっ、来た!」

「集合!」


 キャプテンの掛け声で、部員は虎次郎と高木の元にやって来た。


「えー、今日から私と一緒に、皆さんの顧問を担当する事になった、杉村虎次郎先生だ」

「よろしくお願いします!」


 虎次郎がお辞儀をすると、みんなは緊張した。この人が新しい先生なんだな。かっこいい、兄貴っぽい感じだ。この人なら、悩みを聞いてくれそうだな。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「みんな知ってるかもしれないが、杉村先生は元プロサッカー選手です。こんな人に教えてもらえる幸せを、結果で残していきましょう」


 それを聞くと、部員はみんな、ワクワクした。どんな指導が始まるんだろう。期待したいな。


「はい!」

「さぁ、始めるぞ!」


 そして、部員は再び練習を始めた。虎次郎は彼らの様子をじっと見ている。見ていると、自分の中学校時代を思い出す。あの頃はみんなから注目されてたな。いつか国立でその姿を見たいと言われたもんだ。だが、今となっては、国立でプレーする事すら、日本代表にもなれないままに引退してしまった。だが、過去はもう戻ってこない。




 昼食の時間になり、虎次郎は近くのコンビニで買ってきたおにぎりを食べていた。週末は周辺を歩いて、外で昼食を食べるのが普通だ。


「先生、本当にプロサッカー選手だったんですね」


 虎次郎は顔を上げた。そこには3年生の山口がいる。


「ああ」

「練習は大変だった?」


 山口はプロだった時の事が聞きたかった。そして、どんなその後の日々を送ったんだろうと思った。


「うん。高校以上に大変だったよ。だから、ケガをしてすぐに引退しちゃったんだけどね」

「そうなんですか。何の科目を担当するんですか?」

「英語」


 山口は驚いた。アスリートだったんだから、体育の先生としてやって来たのかなと思った。


「体育かと思った!」

「本当はここで教えるために英語を覚えたんじゃないんだけどな。Jリーグの助っ人や、いつかヨーロッパで活躍するようになった時に必要になるかなと思って始めたんだけど」


 それを聞いて、山口は思った。自分は英語がそんなに得意じゃない。だけど、プロになるんだったら、英語が必要になってくるのかな? 特にヨーロッパでプレーするようになった時に、必要なのかな?


「そうなんだ」

「どうした?」


 虎次郎は思った。どうしてそんな事を聞いてきたんだろう。


「杉村先生の事、いろいろ知りたくて」

「教えるなんて、初めてだけど、悩み事があったら、俺に頼んでいいんだぞ」


 山口はほっとした。虎次郎は怖そうだけど、とても優しそうだ。そして、プロでの経験を生かして、いろんな事を教えてくれそうだな。


「ありがとう」

「さぁ、頑張るぞ!」


 山口は再び練習に向かった。虎次郎はその様子を温かそうに見ている。




 虎次郎は黙々と練習する部員を見ている。見ていると、サッカーに捧げた青春を思い出す。あの頃はよかったな。プロに、世界に挑戦したいという夢があって。だが、そんな夢は終わってしまった。もう今では第2の人生を歩んでいる。まだ20代なのに。早すぎるようだが、それは自分が怠けていた罰だと思っている。


 あっという間に夕方になった。そろそろ練習が終わる時間だ。


「よし、今日の練習は終わり!」


 一緒にいた高木の声で、部員は練習をやめ、帰る準備を始めた。2人はその様子をじっと見ている。新しい一歩を踏み出した1日だが、まだまだわからない事ばかりだ。これからいろいろと学んでいかないと。


「さようなら」

「さようなら」


 部員は帰っていった。2人は帰っていく彼らを温かい目で見ている。


「最初の指導はどうだった?」

「色々と難しかったけど、なかなか面白いね」


 虎次郎は笑みを浮かべた。自分としては40点ぐらいだ。もっと頑張っていかないと、やっていけないだろう。


「そっか。大変だけど、じきに覚えていくよ」

「そうだね。これから頑張らなくっちゃ」


 虎次郎は拳を握り締めた。高木は温かい目で見ている。虎次郎はきっといい教員になるだろう。


「じゃあ、また明日、頑張ろう」


 高木は帰っていった。その後に続くように、虎次郎はグラウンドを後にした。

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