ここからタグ通り司令官がクズい

 性的にクズな主人公が苦手な方は戻ってください。






 装刃戦隊ブレイドレンジャーの諍いは一気に鎮静化した。

 おそらく今後、夜な夜なピンクの部屋から「おほおおおお♡」という声が聞こえてくるだろうが、そのくらいなら許容範囲内である。

 メンバーの処分もイエロー・アックス以外の減給程度で抑えられそうだ。

 しかし夕食後、ブルー・ランスが自ら異動を申し出たため、俺は改めて会話をする機会を設けた。

 面談室でうなだれる彼は、これまでの自信満ちた立ち振る舞いはかけ離れていた。


「司令官には、大変迷惑を掛けました」

「いや、まあ、それはね。でも、処分は減給で済みそうだよ?」

「だとしても、ここで働き続けるのは……」


 騒ぎの発端だし自業自得ではあるんだけど、気の毒なくらいの落ち込みようだ。

 ブルーはまるで懺悔でもするように、ぽつりぽつりと言葉を落とす。


「ピンク、美人でしょう? スタイルもよく、優しい性格だ」


 そうか? わりと糞ビッチじゃね? 

 ……と聞き返さない俺は空気の読める司令官です。


「特段、恋愛感情はなかった。ただ彼女は同じ大学だが、恋人のレッドは高卒の就職組。釣り合わない二人を見て、少し遊んでやろうと思った」


 始まりはそんなもの。

 イイ女と、釣り合いの取れていないカレシ。どうやらピンクはこれまでマトモな出会いがなかったらしい。なら俺が“本物のいい男”って言うのを見せてやろうじゃないか。

 容姿に優れ、運動ができ、有名大学に入り、女慣れしていて、ヒーローとしての資質まである。

 取るに足らないレッドで満足しているかわいそうなピンクの目を覚まさせるという遊び。

 言うなれば、未開の地に先進文化を持ち込んで驚かせるような優越感だ。


「だが、いつからか俺の方がのめり込んだ。本気でレッドから奪ってやろうって〇ックス漬けにして……結果俺よりも〇ックスが上手い男に奪われた」

「初めの一歩を踏み出す場所が間違ってたら、転びはするよね」

「ええ、本当に、そうです」


 話した感じ、ピンクはブルーに対して頼り甲斐や同大学だからこその親しみを感じていた。

 しかしレッドを馬鹿にするために、ブルー自身がピンクに「性行為の巧さも男の価値である」と教え込んだ。

 その結果が、より女遊びに慣れたゴールドと比較されるというオチだ。

 今やピンクの中での評価は「かつて好きだった元カレ・レッド」「ベッドテクのすごい今カレ・ゴールド」「レッド以下の好感度かつゴールド以下のベッドテクのブルー」となっている。

 悪いのは明らかにブルーなんで同情の余地はないんだけどさ。


「もしも彼女の頼れる先輩として、真っ当に浮気していたなら……いや、今更か。なんにせよ、ゴールドの隣にいるピンクを見るのは、どうしても」


 うん、とりあえず浮気に真っ当とかねーから。

 手順を踏むことから学んでください。

 

「分かった、異動の申請はしておく。今日明日のものにはならないと思うから、そこはごめんね」

「いえ、お願いします」


 沈み込んでブルー・ランスからディープ・ブルーになっている彼に、少しだけフォローをしておく。


「ま、うちの戦隊じゃ最年長だったけど、まだ学生なんだ。失敗してもこれから学んでやり直すのが許される立ち位置だよ」

「……大人は、許されないんですか?」

「そこはほら。大人の恋愛の失敗は、取り返しのつかない場合が多いからね」


 欲望に負けて下手に寝たら責任取って、って流れになりかねない。

 惚れ込んだ相手が金目当ては普通にあるし、ちゃんとした人と縁を結べてもお互いの家とか両親兄弟の事情まで考えないといけなくなる。

 純粋に好きで恋愛できる時期が短いのって社会の不具合だと思う。


「とりあえず、俺の連絡先教えとくよ。異動先でなにかあったら、遠慮なくかけてくれ」

「いいんですか?」

「司令官だからね。君をこの基地で活躍させてあげられなかったのは、俺の責任でもある。その分の助力はさせてほしい」


 と言いつつ、あくまで仕事用の番号しか教えないタイプの俺である。

 プライベート用とはきっちり分けてるんだよね。

 でも感動したのか、ブルーは少し目を潤ませて頭を下げた。


「ありがとうございます。お世話に、なりました」

「いやいや、まだ明日も会うんだから」

「そうでした。……ブレイドレンジャーに未練はないが、司令官の下で働けなくなるのだけは、惜しいかもしれません」


 彼は憑き物が落ちたかのように、涼やかに笑う。

 ちゃんとその笑顔を見せていれば、きっと女性の心も容易く掴めていただろうに。

 そうして翌日、ブルー・ランスの異動は一週間後だと通達があった。




 ◆




「そうですか、ブルーが。寂しく……なりませんね。問題行動の起点ですし」

「君って、クールだよね」

「そうでもありませんよ。どちらかと言えば、執着心が強いタイプです」


 指令室で俺とオペ子さんは書類を片付けつつ雑談をしていた。

 ブルーの異動に関してはあんまり気にしていないようだ。普段あんまりから見ないしね。

 オペレーターというと、マイクをつけて電話対応なイメージがあるけど、オペ子さんはそういうのじゃない。

 彼女の場合は、言ってみれば戦闘指揮所のシステム担当オペレーターだ。

 レーダーを確認し、基地内で怪人の出現などの情報を把握して各部に通達、戦闘情報を一括管理するデータの総合管理者。

 つまり普通に俺の副官みたいなものなのである。

 

「ひとまず事態は沈静化、司令官の左遷が立ち消えたことを喜びましょう。あ、流されるはずだった基地のデータありますけど、見ますか?」


 防衛省の対策機構直轄である戦隊基地は各都道府県に置かれている。悪の組織犯罪が多い県には第二、第三基地まであるため人手は大体足りてない。

 オペ子さんが見せてくれたのは、事態の収束があと半年遅かったら、俺が左遷されていたであろう基地のものだ。

 そこには妖精戦隊ローナイツという戦士たちがいるらしい。

 ちなみにメンバーは……


 炎のツインテール、メスガキ・レッド。

 ぴこぴこ狐耳あやかし巫女、のじゃロリ・シルバー。

 紫と言いつつほぼ肌色、パープル・幼サキュバス。

 普段は純情可憐で優しい、ホワイト・ロリビッチ。

 スク水焼けの元気なボクっ娘、ブロンズ・ハンマー。


 ……の五人である。

 どう考えても幼性戦隊Loナイツです本当にありがとうございます。 

 ちなみにブロンズ色は「暗い赤みの黄」を指すが、ブロンズタンドスキンで「小麦色の肌」になる。

 名前から未成年ばかりのように思えるけど問題ない。なにせ平均年齢は29.6歳と、ウチよりもかなり上だからね。

 なお、のじゃロリ・シルバーを抜いた場合の平均は11.5歳とする。


「前任は、環境の悪さに耐えられず逃げ出したそうで、司令官の席が長らく空いているそうですよ」

「なに、ブラック基地なの?」

「いえ、性癖が壊されると」

「絶対行きたくねぇ」


 うん、左遷を回避できて本当に良かった。

 俺は、ブレイドレンジャーの皆が大好きだ(棒)。


「それは良かったです。司令官がそういう趣味だと困りますので。ひとまず問題は落ち着いきましたから、ようやく通常業務に戻れますね」

「落ち着いてませんが? ギスギスしてますが?」

「女子同士の、細やかな戯れですよ」


 軽い調子で言ってくれるけど、こっちは針の筵でござい。

 ピンクの浮気に端を発した悶着はひとまず決着がついた。

 しかしこの前の「ナカが良い」発言以降、オペ子さんとグリーンがギスギスしい。そこにイエローも参戦してくるもんだから、大変な状況です。

 この前のやりとりなんかひやっひやだった。


『オペレーターは、司令官とどういう関係なんですか?』

『別に恋人ではありませんよ。ただ、彼を慰めてあげたことがある、というだけです』

『へぇ……』


 その暗に「カラダで」を匂わせる発言やめてもらえません?

 グリーンからの俺の評価が下がりつつ、「なら私でもいいですよね」的なムーブが出てきたのだ。

 なので上司部下の親しさから、時折誘惑じみた視線が混じるようになった。

 そこに何故かイエローがやってきて、グリーンと反目。これまでいい子だった彼女達が、騒動の渦中になりつつある。「騒動の渦中は司令官ですよね?」と突っ込まれたけど華麗にスルー。


 ここで重要なのは、グリーンの立ち位置だ。

 彼女はレッドの幼馴染であり、ピンクの浮気によってダメージを受けた彼を献身的に世話していた。

 しかし、いざ別れるとグリーンは『司令官、今度外に出かけるのでいっしょにどうですか?』と柔らかに微笑みつつ、職場の上司を誘う。

 これにはレッドとしても平静ではいられないが、グリーンを突っぱねたこともあるため、「やめとけよ、そんなおっさん」とも言えない立ち位置だ。

 なので、今やレッド・グリーン・司令官の静かなる三角関係が成立してしまっているのだ。

 

 こうなると、グリーンの態度よりもレッドと俺の不和が問題になってくる。

 戦隊のリーダーと司令官が、女を巡って対立している状態だからね、これ。

 実際、これまで気安く接してくれたレッドは、俺に対してちょっと複雑そうな視線を向けてくるし。


 そういう微妙な状況であるにも拘らず、レッドはシルバーとも続いている。

 こちらはこちらでイイ感じなんだが、シルバー側が恋愛に興味ナシなため、ただのセフレのままだ。

 戦隊ヒーロー内でセフレ関係があることを「ただの」とか言えちゃう俺はだいぶ毒されているかもしれない。

 つまりブレイドレンジャーは未だに不健全戦隊のままだった。

 ピンク? ゴールドとヤッてる分には周りに被害が出ないし、むしろカレシが他の女性に手を出すのを抑制しているのでレンジャーの良心にまでなっています。


「グリーンは、カラダの関係を求めています。初めてがゴールドなら、上書きしたいでしょうし。私の場合とは逆に、“カラダで慰めてもらいたい”、ですね。応じてあげたらいいじゃないですか」

「隊員同士の恋愛ならともかく、上司が部下に手を出すのはバレたら普通にクビが危ないが?」

「そうなったら、私が養ってあげますよ? あの頃のように、目覚めたらお互いを慰め合う日々も、悪くはありません」

「やめてくださいませよぉ!? オペ子さんには助けられたし感謝してるけど俺はあの頃のクズ野郎には戻りたくないんでございますぅ!?」


 もうやだ、朝起きたら傍に誰もいないのが怖くてオペ子さんを抱いて安心して涙を流すそんな生活。


「わりとイエローもマジメに司令官に好意を抱いてますよね」


 ここもギスギス度アップに貢献している。

 まじめにグリーンとイエローがギスっている。イエローの場合、感情表現がストレートだけにそれを隠そうともしてないのが問題である。


「なんでだよ……レッド周りが落ち着いたのに、最終的に俺が一番のクズ野郎みたいになってるんだよ」

「ちなみに、二人とどうにかなる気は」

「ありゃしません。今回は、早めにグリーンに俺は部下とそういう関係になるつもりはないよと釘を刺しておくさね」

「なんなら、私とお付き合いしている、を理由にしても構いませんよ」

「また君を利用するなんてごめんだわ」


 俺が手をひらひらすると、「私は、利用されてもいいと思っていますよ」なんて言われてしまった。

 返す言葉をなくした俺は部屋に戻ると、やけ酒にビールを三本煽った。

 

 その夜は久しぶりに、無様な男と恋人の妹の爛れた日々を夢に見た。




 ◆



 

 昨夜寝酒をしたせいか、朝になっても頭がぼやけている。

 夢を見た。

 恋人を亡くし、自暴自棄になって、その妹と爛れた日々を過ごしていた頃のこと。

 肌に、薬品でどろどろに溶かされた恋人をぶっかけられた感覚が残っている

 それを忘れたくて〇ックスに溺れた。そんなヤツがヒーローだなんて、恥ずかしすぎて名乗れやしない。

 

「司令官、朝ですよー。今日はお休みですよね、お昼ごはん外に食べに行きません?」


 誰かが俺を揺り起こしている。

 ああ、カノジョの妹か……?

 今の俺には、あの子しかいない。そう思うと、離れるのが怖くなって、ぼやけた頭のままで腕を伸ばす。


「えっ、ちょ、し、しれーかん? んむぅ……!?」


 俺は、彼女に口付けをした。

 初めは啄むように軽く、何度も唇を重ねる。舌先で彼女の唇を撫でるように濡らせば、今度は口の中に舌を差し込む。

 ……あれ? なんでだろう。今日はぎこちないというか、随分カタくなっている。

 でも放す気はない。俺は彼女を強く抱きしめ、右手でその後頭部をそっと支え、顔を背けられないように固定した。

 そのまま彼女の口内を蹂躙し、舌と舌を絡め合わせる。

 ぴちゃりと、粘ついた水音が響いた。呼吸する暇も与えないくらいに唇を密着させ、貪るようなキスをしばらく続けた。

 そうして、唇を離すと。


「あ、は……あ……」


 ……なんでか、腕の中にイエロー・アックスがいた。

 一気に背筋が凍り付き、ぼやけた頭が急速に覚醒する。

 え? なんで? オペ子さん? オペ子さんはどこに行った?

 混乱する中であちらこちらに死線をさ迷わせ、俺はようやくここがあの二人で過ごした部屋じゃなく、戦隊基地に用意された私室だと気付く。死線をさ迷わせってなんだ、視線だよ。

 寝ぼけていた俺は、イエローをオペ子さんだと勘違いし、引きずり込んでしまったのだ。


「し、れい、かん……。わ、わたしぃ」


 とろんとした目のイエロー。

 やっちまった。

 寝ぼけてキスだけでもマズいのに、どう考えてもまだ現役女子高生なイエロー・アックス十六歳にやっちゃいけないタイプのキスをしちまったよ。

 よし、責任取ろう。











 

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