幼なじみと墓地で会う春

夜海野 零蘭(やみの れいら)

読み切り

「久しぶり、タカちゃん。カヨだよ。天国で元気にしてる?」


私、西尾佳代は幼馴染のお墓をお参りしている。

彼の命日である4月15日に。


私は、15年前に幼馴染のタカちゃんを交通事故で失った。彼は小学校から高校の同級生で、当時は高校で夢に向かって日々勉強や部活を頑張っていた最中だった。


私は吹奏楽部で、慣れないトランペットに悪戦苦闘しながらも楽しく練習をしていた。「タカちゃん」こと青島隆也はテニス部のエースで、顧問の先生からも将来を期待されていた。ある日部活から2人で帰っていて、お互いの家の分岐点で分かれた後、夜道の交差点で自動車事故にあって帰らぬ人になってしまったのだ。


もう少し、タカちゃんのそばにいれたら…

ずっと激しく後悔していた。


小学校の頃からタカちゃんは文武両道で、クラスのみんなからも好かれる存在だった。どちらかといえば引っ込み思案な私にも、


「カヨちゃんは楽器や絵がうまいな」

「カヨちゃんは頭がいいから、話していて楽しい」


などと、いいところを褒めてくれるような男子だった。彼の明朗快活な人柄は、多くの人を引き付けていた。


私は、そんなタカちゃんに密かに恋心を抱いていた。

しかし、それは遠い昔の話だ。結局、自分の想いを彼に伝えられずじまいになってしまった。


32歳になった今、別の人と結婚して数年で離婚したのを機に、数年ぶりに地元へ戻ってきた。帰省してすぐに、タカちゃんへ会いたくなった。

きれいな桜の花びらが、はらりとタカちゃんのお墓の前に落ちる。


「タカちゃん。今年は桜がきれいだね」


「そうだね、カヨちゃん。」


懐かしい声がして、後ろを振り返るとタカちゃんがいた。

事故で亡くなった高校生の頃の姿で。


「タカちゃん??」


「お久しぶり、驚かせてごめんな。君は桜にも負けないぐらいべっぴんさんになっててビックリだ」


いわゆる霊の類なのかもしれないけど、私は久しぶりに会えたことに胸の高鳴りを抑えられなかった。それに、私には彼が非常に鮮明に見えた。彼とは懐かしい話をたくさんした。


「カヨちゃん、俺が亡くなったときのこと覚えてる?」


「覚えてるよ…タカちゃん。ごめんね、あのとき別な道の方向に帰っちゃって」


「カヨちゃんは悪くないって」


タカちゃんは申し訳なさそうな顔をする。


「話は全然ちがうけど、俺はあの頃カヨちゃんが好きだったんだよ。」


「えっ?」


突然、タカちゃんに打ち明けられた。そんなこと知らなかった。


「恥ずかしいけど、私もあの頃はタカちゃんが好きだった。今は別の人と結婚したにも関わらず、もう離婚しちゃったんだけど…それに、まだ求職活動で新しい仕事も見つかってなくて焦っているよ。仕事辞めて離婚して…もう、どうしようもないよね」


タカちゃんといると、安心してついつい思いの丈まで話してしまう…

もう彼はこの世の人ではないのに、あたかも生身の人間と話しているような感覚だ。


「弱気にならなくて良いよ。カヨちゃんなら新しい仕事を見つけて素敵な人とも巡り会えるって、俺は絶対に信じてるよ」


「タカちゃん…」


「俺はいつでも、君を応援しているからね。絶対にいい人だって見つかるよ。あ、やばいな…そろそろ戻る時間だ」


タカちゃんは慌てて時計を見た。


「時間?」


「俺が住んでいるあの世には、命日だけ大切な人を現世で選んで、限られた時間だけ会える権利があるんだ。それを俺が奇跡的にもらえたんだよね。…寂しいけど、また来年の今日ここに来てくれたら嬉しいよ。」


「そうなんだ、色々話してくれてありがとうね」


墓石の上から、1枚の桜の花びらが風で吹き飛ぶと同時に、タカちゃんはスーッと姿を消した。


あの頃の気持ちを思い出して、また1からスタートしよう。


そう思えたお墓参りだった。



~終~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼なじみと墓地で会う春 夜海野 零蘭(やみの れいら) @yamino_reila1104

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ