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 大介は居酒屋の前でその女性を待っていた。初めて会うのに、こんなに好きになるのはどうしてだろう。好きなのが同じだからかな? それだけでこんなに好きになるとは。


 大介はこれまでの恋を思い出していた。どんな恋も長続きしなかった。自分の好きな物を知ると、嫌な目で見られて、フラれてしまうばかりだった。今回はそうはならないだろう。なぜならば、好きなものが一緒だからだ。なので、大介は期待していた。今回はうまくいくだろうな。


「もうすぐだな」


 と、そこにその女性がやって来た。その女性はお昼に会った時と同じ服装だ。


「お待たせ!」


 その女性を見ると、大介は軽くお辞儀をした。


「あっ、どうも。自己紹介が遅れたけど、明子(あきこ)と言います」


 その女性は明子というらしい。なかなかいい名前だな。


「大介と言います。ここに来るの、初めて?」

「うん」


 大介はこの居酒屋に来るのは初めてだ。というより、他の居酒屋にはあまり行こうとしない。


「楽しみ?」

「うん。誰かと飲むなんて、何年ぶりだろう」


 大介は楽しみにしていた。だいたい一人酒なので、誰かと飲むのは初めてだ。少し緊張している。いい印象を持たせるには、どうすればいいのかわからない。平常心を保てばいいとわかっているけど、どうすればいいのかわからない。


「そっか。あんまり誰かと飲まないんだね」

「うん。だいたい僕は一人酒なんだ」


 明子は思った。この人はあまり友達がいないんだな。だけど、気にしない。この人なら、好意を持ってくれるんじゃないかな?


「ふーん。じゃあ、行こうか?」

「うん」


 2人は居酒屋に入った。すると、店員がやって来た。何人か聞こうとしているようだ。


「すいません、2名様で」

「はい。こちらでございます」


 店員はテーブル席に案内した。すでにテーブルが拭かれていて、清潔になっている。2人は席に座った。


「本日はご来店ありがとうございます。お飲み物はどうなさいますか?」

「生中で」

「僕も生中で」


 2人とも生中のようだ。気が合うな。


「かしこまりました」


 2人は生中を待っている間、今日の撮り鉄の事を振り返っていた。とても楽しかったし、もっと取りたいと思うようになった。


「今日は楽しかったね!」

「うん。今度はどこで撮ろう」


 だが、2人ともどこで撮ろうか、考えていないようだ。撮影スポットは山ほどある。


「まだ決めてないけど、どうしようかな?」


 そこに生中を持った店員がやって来た。注文していた生中が届いたようだ。


「お待たせしました、生中です」

「ありがとうございます」


 2人は目の前に置かれた生中を手に取った。乾杯をするようだ。


「とりあえず、カンパーイ!」

「カンパーイ!」


 2人はグラスを合わせ、乾杯をした。そして、生中を飲み始めた。居酒屋ではたいてい生中から飲み始める。


 大介はメニュー表を見た。すると、明子もメニュー表を見始めた。ここは焼き鳥屋で、メニューの多くは焼き鳥だ。焼き鳥は1本からの注文がほとんどで、いつも行っている鳥貴族とは違う。


「つまみは何にしよう」

「私、ねぎまの塩とハツのたれで」

「じゃあ僕はつくねのたれとレバーのたれで」


 注文が決まった所で、大介は手を挙げて、店員を呼んだ。


「すいませーん」

「はい」


 すぐに店員がやって来た。


「ねぎまの塩とハツのたれとつくねのたれとレバーのたれで」

「かしこまりました」


 店員は厨房に向かった。注文を他の店員に伝えるようだ。


 明子は聞きたかった。撮り鉄だという事は聞いたけど、もっと大介のことが知りたいな。明子は徐々に大介に興味を持ち始めた。


「いつ頃から鉄道が好きなの?」

「幼稚園の頃から」


 大介は幼稚園の頃から好きだった。そして、今でも好きなようだ。撮り鉄になったのは大学生になり、独り暮らしを始めた頃からだ。


「そっか。私は小学生から」


 明子は小学生のころから好きになった。最初は両親から変な目で見られていたけど、徐々に普通だと思うようになってきたという。


「ふーん・・・」


 だが、大介の気持ちは浮かれない。鉄道が好きなのに、どうしてだろう。何か嫌な思い出があるんだろうか? 自分もあるんだけど、大介も同じなんだろうか?


「どうしたの?」

「鉄道が好きな事から、いろいろからかわれたんだ」


 明子は驚いた。自分と一緒の事をされたようだ。つらかっただろうな。だけど、同じ好みの人と出会って、よかったようだ。


「本当? からかってる奴がいるなんて、最低だね」


 明子は趣味でいじめる奴の事が許せなかった。そんな奴にはもう会いたくないと思っていた。


「だから僕は、鉄オタだという事を隠してきた。だけど、好きな事に変わりはないんだ」

「そっか。私もそうだった。だから私も隠してる」


 明子も鉄オタであることを隠してきたようだ。同じ境遇を背負っているんだな。まるで自分のようだ。この子とは気が合いそうだな。


「明子さんも一緒なんだね」

「うん」


 と、そこに店員がやって来た。注文していた焼き鳥ができたようだ。


「お待たせしました」

「ありがとうございます」


 2人は焼き鳥を食べ始めた。鳥貴族よりも小さいが、なかなかおいしい。


「うまい!」

「でしょ? お酒に合うんですよ」


 明子もおいしいと思っていた。おいしくて、お酒にも合う。


「ほんとほんと」


 ふと、明子は思った。今日、私と出会って、大介はよかったと思っているんだろうか? もっと一緒にいたい、もっと一緒に撮り鉄したいと思っているんだろうか?


「今日は会えてよかった?」

「まぁまぁ」


 大介は一緒に撮り鉄ができてよかったと思っているようだ。いつもは1人で撮っているが、複数で撮るとこんなに楽しいとは。できれば、明子にまた会いたいなと思っていた。


「また会いたいな」


 明子は笑みを浮かべた。会えてよかったと思っているようだ。なかなか好感触だな。また会いたいな。


「そうですか? だったら会おうかな?」

「ありがとう」


 明子はほっとした。これからももっと一緒に行動して、交友関係を深めていきたいな。そして、結婚できるまでに至りたいな。

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