Railway
口羽龍
1
大介は名古屋に住むフリーター。何度転勤したのかわからない。どこに行っても社会不適合でなかなか仕事が板につかない。怒られることもしばしばで、トラウマになる事も多い。それでも数年前、ようやく仕事が板についてきて、信頼を得られるようになってきた。だが、給料の少ないアルバイトで、収入はよくない。それでも、自分なりに一生懸命頑張っていた。
大介はいつものように部屋に帰ってきた。大介の住む部屋は決して大きくない。ここに住み始めてもう20年ぐらいは経つ。だが、いまだに独身だ。自分に恋なんて、無縁だと思っていた。こんなにかっこ悪い人生を歩んできて、誰も好きだといってくれないだろう。大介は絶望していた。
「今日も疲れたなー」
大介はベッドに横になった。明日は休みだ。ゆっくりとできそうだ。しっかりと体を休めよう。
少し横なった大介は、すぐに起きて、パソコンのスイッチを入れた。明日は休みなのだから、自由にできる。大介はネットサーフィンを始めた。主に見ているのは、鉄道の事だ。
大介は幼稚園の頃からの鉄道オタクで、鉄道に関してはかなりの知識があった。それは多くの人が認めていて、よく質問したりする。
「やっぱ鉄道は最高!」
大介は鉄道の写真を見て、ニコニコしていた。これが一番の癒しだ。だが、それを公に見せる事はなかった。それには、深い理由があった。
「やっぱひのとりはかっこいいわー」
大介は近鉄の名阪特急、ひのとりの画像を見ている。ひのとりは2020年の春にデビューした新しい名阪特急で、一番前と一番後ろがハイデッカーのプレミアムシートとなっていて、それを含めて全席にバックシェルが付いている。
大介は時計を見た。そろそろ寝る時間だ。明日は休み、撮り鉄の日だ。ゆっくり休んで、明日に備えないと。
「もう寝よう・・・」
大介はパソコンを消し、電気を消し、ベッドに横になった。今日はいい夢が見られますように。
だが、大介が見たのは、中学校の頃の夢だ。あのときはとても苦しかったな。もう思い出したくない。だけど、思い出してしまう。
「おい、電車!」
後ろから声が聞こえた。林だ。俺をいつもからかっている奴だ。
「うるせぇ!」
「今日も電車で来たのか?」
林はいつもこんなありえない妄想を持ちかけてくる。どれもこれも俺が鉄オタだからだ。それ以来、大介は鉄オタであることを隠してきた。だが、隠す事ができない。林が広めてしまうからだ。
「いや、俺は自転車で来た!」
だが、大介は普通に自転車できている。だが、誰も信じない。そして、からかい続ける。
「電車で来たくせして!」
「俺は自転車で来た!」
だが、林は笑みを浮かべて、帰っていく。明らかに反省してない。また言おうとしているようだ。大介は何もできずに、立ち尽くしていた。
大介は目を覚ました。どうやら夢のようだ。何度、こんな夢を見たのだろう。もう見たくないのに、また見てしまった。
「ゆ、夢か・・・」
大介は深呼吸をした。どうして僕はこんな夢をいつも見てしまうのだろう。
「落ち着こう・・・」
大介はその夢を見るたびに感じてしまう。どうし自分はこんな好みを持ってしまったのだろう。だけど、それをやめる事ができない。やっぱり俺は鉄道が好きなんだ。
「どうして僕はこんな好みを持ってしまったんだろう。だけど、好きだからやめられない」
大介はカレンダーを見た。明日は休みだ。鉄道でも撮ろう。
「明日は休日だし、撮影でもしてくるか」
大介は再び寝入った。明日こそはいい夢が見られますように。
翌日、大介は近鉄名古屋駅にやって来た。近鉄名古屋駅は近鉄名古屋線の終点で、4面5線の櫛型ホームだ。1番線は普通、2番線は準急、3番線は急行、4番線と5番線は特急が主に発着する。近鉄特急はバラエティに富んでいて、その中には常に大人気の車両もある。名阪特急のひのとり、かつての名阪特急のアーバンライナー、その増備者で少数派のアーバンライナーnext、伝統の2階建てビスタカー、観光特急のしまかぜ。それらが次々と発着する様子は見ていて飽きない。
「ここだったな」
大介は4番線と5番線の間にやって来た。そこには多くの家族連れが来ている。彼らは特急に乗ってどこかに行くようだ。だが自分は乗らない。撮るのが目的だ。
突然、5番線の先が明るくなり、赤い特急が入ってきた。名古屋と大阪なんばを結ぶ特急ひのとりだ。2020年にデビュー以来大好評で、名阪甲特急はこれが使われている。
「おっ、来た来た!」
ひのとりはゆっくりと近鉄名古屋駅のホームに進入した。それと共に、多くの人が写真を撮る。大介も写真を撮り始めた。
「かっこいいなー」
大介はそのかっこいい外観に見とれていた。
「やっぱ近鉄名古屋駅は壮観だわ。いろんな特急が発着して、飽きが来ない」
と、そこに1人の女性がやって来た。彼女も撮り鉄のようだ。だが、大介には興味がなかった。
「この人も鉄道オタクなのか。僕と一緒だな」
と、その女性は大介を見ると、近づいてきた。その女性は大介に興味があるようだ。
「あのー」
その声を聞いて、大介は振り向いた。話しかけられるとは思わなかった。どうしたんだろう。
「どうしました?」
「鉄道を撮りに来たんですか?」
大介は戸惑っている。突然話しかけられて、動揺している。
「ええ、そうですけど」
「私も撮りに来たんです。気が合いますね」
その女性は笑みを浮かべた。大介の事は好きなようだ。だが、大介はそう思っていない。
「え、ええ・・・」
大介はその女性が気になった。僕に興味があるんだろうか?
「どうしたんですか?」
「いえいえ、何でもないんです」
だが、その女性は何も言おうとしない。恥ずかしそうな表情だ。
「ふーん。撮ってるのが恥ずかしいの?」
「いや、まったく恥ずかしくないですよ」
「そっか。あのー、突然ですけど、今夜、居酒屋で飲みません?」
大介は驚いた。今日、初めて会ったばかりなのに、どうしてだろう。だが、誘われたのだから、行ってみようかな?
「い、いいですけど」
「ありがとうございます」
だが、大介は戸惑っている。どうしてあの女性は居酒屋に誘ったのかな? ひょっとして、鉄道の話でもしたいんだろうか? まぁいいけど。
「でも、どうして?」
「同じ鉄道好きとして、話したいなと思って」
その女性は、気が合いそうな男を狙っていたようだ。まさか、僕が誘われるとは。
「そう、ですか・・・。いいですよ・・・」
「よかったー。じゃあ、今夜、ここに来てね!」
その女性は、スマホでマップを見て、簡単な地図を書いた紙を渡した。大介はそれを見た。何度も行った事もある居酒屋だ。行けると思う。
「はい・・・」
その時、周囲がざわめいた。観光特急のしまかぜがやって来た。青と赤の美しい車体で、一番前と一番後ろがハイデッカーになっている。真ん中の2両はサロン席、個室、2階建てのカフェテリアがあり、楽しい要素が満載だ。
「おっ、来た来た! しまかぜだ!」
それを見て、2人は近づき、撮り始めた。すでに何人かの家族連れが写真を撮っている。乗らない人でも写真を撮りたくなる。それがしまかぜの魅力だろうか?
「すごいなー。乗ってみたい」
「僕も乗ってみたいっすよ」
2人とも乗りたいと思っている。だが、なかなかチケットが取れない。デビュー以来、なかなかチケットが取れないと言われている。2人とも取れないだろうと思って半ば諦めている。
「本当? でもあれって、なかなか座席が取れないんですよねー」
「うん。僕は諦めている。ただ撮るだけにしている」
「そうなんだー」
だが、大介はひのとりが好きなようだ。赤くて美しいし、後ろを気にせず背もたれを倒せるというのがいい。
「僕の一番のおすすめは、ひのとりだね」
「それもかっこいいよね」
その女性もひのとりに乗った事がある。そして、大阪に観光に行った事がある。
「うん。以前、大阪に行った時に乗った事があって、プレミアムシートに座ったんだよ」
「私も座った事があるの。快適だったわー」
2人はしばらく見とれていた。その間にも、多くの家族連れが写真を撮っている。
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