3

 次の日、今日は日曜日。大介は今日も撮り鉄にやって来た。昨日、明子に会って以降、何かが変わり始めた。だが、大介はその理由が何か、わからなかった。


 今日、撮り鉄をするのは、神宮前駅だ。ここには様々な名鉄の電車が発着し、乗務員の交代がある。そこには多くの撮り鉄が集まるという。


 大介が辺りを見渡すと、明子がいる。約束の場所に来てくれたようだ。大介に気づくと、明子は手を振った。


「おはよう」

「あっ、どうも」


 大介は少し照れている。なぜか緊張してしまう。どうしてだろうか? 好きだからだろうか?


「今日は名鉄を見に行こうか?」

「うん」


 大介は神宮前の改札を抜けて、神宮前駅のホームにやって来た。横には東海道線が走っている。東海道線にホームはなく、少し金山寄りに熱田駅がある。その熱田駅は東海道線だけの駅だ。


「ここが神宮前か」

「うん」


 神宮前のホームには、今日も多くの鉄オタが集まっていた。みんな、撮り鉄をするために集まっているようだ。多くの人は三脚も持っていて、撮影する準備ができているようだ。


「ここにはいろんな電車がやって来るんだって」

「知ってるよ」


 明子も神宮前の事をよく知っていた。様々な電車が行き交い、飽きがこない。


「知ってたんだ。有名な所だからね」

「それに、ここで乗務員が交代するんだね」

「ああ」


 神宮前駅は、短い停車時間の間に、素早く乗務員交代が行われる。


 と、神宮前駅にミュージックホーンを鳴らして、青と白の電車がやって来た。空港連絡特急のミュースカイだ。名古屋からセントレアまでを28分で結ぶ。この神宮前を出たら、次は終点の中部国際空港までノンストップだ。


「おっ、来た来た! ミュースカイ!」

「ここからセントレアまでノンストップのやつだね!」


 2人は思った。これに乗ってセントレアから海外に行きたいな。そして、海外の鉄道も見たいな。


「これに乗ってセントレアから飛行機に乗りたいね」

「うん」


 と、それから程なくして、豊橋方面から特急がやって来た。パノラマスーパーだ。


「おっ、パノラマスーパーだ!」

「本当だ!」


 2人は再び興奮した。名鉄と言えばやっぱり展望車だ。その展望車の伝統を受け継いでいる。ミュースカイと並ぶ名鉄の2枚看板だと思っている。


「やっぱりかっこいいなー」

「ほんとほんと」


 今度は反対側のホームからステンレスの電車がやって来た。5000系だ。


「あっ、5000系!」

「これ、パノラマスーパーの足回りを再利用したんだよね」


 この5000系は、全社特別車のパノラマスーパーの足回りを再利用した通勤電車だ。なので、新しそうな内装とは裏腹に、VVVFインバータ特有のうなり音が聞こえず、静かなのが特徴だ。


「そうそう! だから車体が新しいのにVVVFのようなうなり音が出ないんだよ」

「だから連結できる車両も限られているという」


 5000系はパノラマスーパーの足回りを使ってるので、連結できる編成が限られている。しかも、4両編成しかないので、少し使い勝手が悪そうに見える。


「そうそう」

「2両のも作らなかったのかなと思うよ」


 大介はつくづく思っている。2両編成も作らなかったんだろうか? その方がフレキシブルに運用をこなせて、便利だと思うのに。


「本当だね」


 その後に続くように、今度はミュースカイにいた赤い電車がやって来た。2200系だ。ミュースカイにいた外観を持ちながら、これはパノラマスーパーと同じ特別車2両、一般車4両の電車だ。主に特急や快速特急に使われている。


「これは2200系だね」

「うん」


 再び2人は写真を撮り始めた。これまた魅力的な車両だ。


「顔はミュースカイと一緒だけど、これは一部特別車なんだね」

「ああ。確か、昔1700系の特別車2両と2200系の一般車4両をつなげた編成もあったよね」


 1700系は元々、1600系という1999年に製造された特急用車両だった。だが、2008年の末にミュースカイ以外の全車特別車を廃止する事になり、1600系は改造され、2200系の一般車4両と連結して、一部特別車として使われるようになった。だが、そんな1700系は2021年に引退した。大介は早すぎる引退に疑問を抱いていた。まだ活躍できるだろう。なのにどうして引退したんだろう。


「ああ。廃車はもったいないけど、仕方ないのかな?」

「そうだね。まだ活躍できると思ってたのにね」


 明子もそう思っていた。まだ製造から20年少ししか経っていないのに。改造の多さが原因なのかな?


「うん」


 と、大きな轟音を上げて、東海道線を貨物列車が通り過ぎていく。他の鉄オタも一斉にシャッターを切る。2人も夢中でシャッターを切る。


「あっ、貨物列車!」

「本当だ!」


 2人とも感動していた。こんなに多くの列車が行き交うとは。見ていて飽きないな。


「本当にいろんな電車が来て、見ていて飽きないね」

「そうだね」


 ふと、大介はある電車を思い出した。1380系という、4両編成1本しかない珍車だ。


「ちょっと昔は1380系ってあったんだけど、知ってる?」

「知ってる! 事故によってできた珍車でしょ?」


 明子もその電車の事を知っていた。1030系の1034編成が踏切事故で大破した。それで豊橋寄り2両の特別車は廃車になったものの、一般車4両は改造され、1380系として活躍した。


「うん。主に各務原線で走ってたんだけど、廃車になったんだ」


 大介はよく各務原線に乗った事があるが、その際にはなぜか1380系に乗る事が多かった。自分はついているのか、それともたまたまなのか、わからない。


「事故で真っ赤になったと言ってた」

「あれって、パノラマカーの足回りを使ってたんだよな」


 1380系もその種車の1030系も、足回りは7500系というパノラマカーの改良版だという。なので、足回りはパノラマスーパーに比べて古い。


「うん。パノラマスーパーなのにパノラマカーの足回りを履いていたという」

「1380系の元となった1030系ももう引退した」


 1380系も1030系も廃車になった。やはり足回りの古さが原因だろうか?


「仕方ないよ。足回りが古いんだもん」

「そうだね」


 撮り鉄をしているうちに、2人の心の距離が近くなっていく。だが、撮るのに集中していて、全く気付いていない。


「やっぱ撮り鉄って、楽しいよね」

「うん」


 やっぱり撮り鉄は楽しい。日頃の仕事の疲れが取れて、また来週頑張ろうと思えてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る