第三話 追われる少女、その正体!
「ほーん、秘密結社ねぇ……」
パチパチと燃える焚火に新たな薪を放り込み、ロカは聞いた単語を繰り返した。
「そうそう。秘密秘密」
「こうして私に話している時点で秘密じゃないのでは?」
「みーんな言ってるもん、我々は秘密結社だ、って」
「みんな言ってたら、それこそ秘密では……」
焼かれた骨付き肉を平らげたミルウェは、その骨を指揮棒にして教師か何かの様に言った。誰を真似したのかは分からないが、彼女の知る結社の何者かなのだろう。
「で、そこで改造された、と」
「いえす、あいあむ。元はとある星のお姫様~」
「…………本当かなぁ?」
随分あっけらかんと言う、自称元お姫様の口元には肉の汁がベットリと付いている。お行儀の良さなど皆無、高貴な家柄の要素は微塵も感じられない、とロカは思った。
ミルウェいわく、という前提が入るが、宇宙征服を企む闇の組織がある。それが彼女の言う秘密結社であり、数時間前にロカが打ち倒した怪人の出所だ。彼らは宇宙を股にかけて犯罪行為を繰り返し、時には惑星一つを破壊する事もあるという。
「そういうわけで、守ってちょ~だい」
「軽いなぁ。まあ、ほっぽり出すのも寝覚めが悪いし良いけどさ」
出会った相手が困っていたなら助ける、それは冒険者としての日常だ。それが旅人であろうが、同業者であろうが、どっかの星のお姫様だろうが、する事に違いはない。
だがしかし、それが意味する事は一つだ。
「今後も
「もちろん」
ロカは追っ手として差し向けられたホーネットを撃破した。定時連絡が途絶えた事は組織も既に知る所、そう遠くない未来に次なる刺客が来る事はほぼ決定事項である…………とミルウェは彼女に説明した。
「うーん、守るために戦うのは良いけどコロシはなぁ。魔物相手なら何にも思わないけど、言葉通じる人型のをヤり続けるのはちょ~っと気になる感じがする」
腕を組んで唸るロカ。
冒険者として時には野盗の類と戦う事もあるため、人型の敵を排除する事自体を忌避する事まではしない。だが、そればかりとなると話は別だ。人を敵として戦うのは兵士か傭兵の仕事、冒険者の役割ではない。
「あー、ダイジョブ大丈夫。死んでない、死んでない」
「え?思いっきり爆発四散してたけど?」
ミルウェは顔の前で手を振ってロカの心配を否定する。自身の目で大爆発を見ている彼女は意味が分からず、首を傾げた。
「あれは義体。……操り人形、って言えば良い?まあ、そんな感じ。宇宙の母船には本体がいるけど、ロカがぶった切った相手はただの機械だよ。だ~れも死んでない」
「はー、ま~ったく意味が分からん。けど、確かに人間を斬った感触では無かった」
斬った時点でロカは違和感を覚えていた。しかし岩などの無機物でありながら、生命体として活動している魔物を彼女は知っている。人型でハチであっても、同じようなものである可能性を考えていたのだ。
「だから思う存分、叩き切ってオッケー」
「軽いなぁ。まあ、そういう事なら気兼ねなくやりましょかね」
ポンと薪を
「そういや、なんでミルウェが追われてるのか聞いてなかった。どうして?お姫様だったから?」
「違うよー」
ミルウェは手にしていた骨をふわりと浮かし、空中でクルクルと風車の様に回転させた。魔法ではない、彼女の特殊能力だ。
「これ私の力。重力とか操れる。怪人に改造された事で、も~っと色々出来るようになった。秘密結社いわく、さいこーけっさく、なんだって。だから追われてる」
「はぁ、なるほど。だからずっとそんな風にしてられるんだ」
ミルウェはずうっと空中に浮いていた。ホーネットを退けた後にキャンプ地を決めるまでロカは歩いてきたが、彼女は大地から僅かに浮いた状態で滑るようについて来たのである。
今もハンモックに寝ころんだ状態に似た姿勢で空中に在る。ミルウェが素足なのは、自身の足で歩く事が無いから。靴が必要無いゆえに、である。
「……ミルウェのその力、あんまり他の人に見せない方が良いような気がするな」
「なんで?」
「魔法以外の変な力を使う存在って危険視されるかも、特に教会あたりから。あの連中は権威主義だからな~、自分達の教義の外にある者を認めない層がまあまあいましてな」
肩をすくめてロカは首を横に振る。
大多数の
「ま、変な連中に見付からなければいいか。こんな田舎に教会の権力者なんていないし」
「ん~、透明化も出来るよ?えいっ」
「うおっ、消えた!?」
その場にいたミルウェの姿が消滅する。原理は全く分からないが魔法ではない以上は魔力探知にも引っ掛からないため、この世界において彼女の姿を発見できる者はいないと言っていいだろう。
「便利だねぇ……こら、私の分の肉を取ろうとしない」
見えないのをいい事に、ミルウェはそっとロカの晩御飯に手を伸ばしていた。ふわりと浮き上がる骨付き肉に気付いた彼女は、それを持っているであろう手を
ばしっ
「
見えなくとも攻撃は当たるようだ。肉はポトリと元あった場所に落ちた。
「むむむ、あとちょっとだったのに残念」
「残念じゃないよ、油断も隙も無い」
透明化を解除したミルウェは残念そうにしながら、叩かれた手の甲を擦る。その様に呆れつつ、ロカは奪還した肉を齧った。
「むぐむぐ……透明化はナシで。何をしでかすか分からないし」
肉を指揮棒にして、彼女は盗人姫を指す。
「え~、そんなことシナイヨ~」
「絶対なにかする気だったな、こいつ」
全く音の出ていない口笛を吹いて、そっぽを向くミルウェ。ロカは自分の選択が間違いではない事を確信した。
「明日は町に着くんだから、大人しくしててよ?とりあえず、歩く真似はして」
「りょーかいしました~」
右掌を広げて指を揃え、斜め四十五度にして手の甲を額に付けた。
ロックウォールの魔法を応用して背の丈程度の高さの土の柱を四本作り、その上にリュックに括っていた大きな布を掛ける。その四隅を
非常に簡易な代物だが、一晩の宿として雨風を凌ぐには十分だ。
「さーて、寝るか……」
感知魔法を周囲に展開し、彼女は荷物を仮宿の中へと移動させる。焚火に残りの薪を全て焼べて、夜通し燃え続けるように調整した火の魔法を打ち込んだ。炎は一気に燃え広がる事は無く、ジリジリパチパチと薪を燃やしていく。
「お邪魔しま~す」
「はいはい、いらっしゃい」
ツバメがスイッと滑り込むように、ミルウェが宙に浮いたまま屋根の下へと入った。宿は二人並んで寝るには不十分な広さだが、上下に二人並ぶならば十分な広さである。
「それじゃ、お休み」
「おやすみなさーい」
異星人同士のいざこざに巻き込まれ、怒涛の勢いで変化した旅。これからどうなるのか、どんな怪人が自身の前に現れるのか。自分の真上でプカプカ浮かびながら、あっという間に寝た同年齢らしい少女を見ながらロカは考える。
まあ何とかなるか、と結論付けて彼女も目を瞑って夢の中へと落ちていく。
が。
ぴちゃっ
「ん、雨?」
ロカは顔に落ちてきた水滴を拭う。雲行きは怪しくない、雨が降るような天気では無かったはず。訝しみつつ彼女は目を開いた。
その時。
ぴちゃっ
「うっ」
眉間に雨が降ってきた。
いや、降ってきたのは。
「こら!ミルウェ!涎を垂らすな!!!」
べちんっ
「痛っっっ!」
二人の旅は前途多難になりそうである。
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