season1~鬼ごっこ~

ゲーム開幕

第1話 ゲーム開始前

 どこかから落ちた気がする。

 何か自分はよくない運命のもと生まれてきた気がする。


 あくまで「気がする」だけでそう断言できない。

 でも、確かに本能が言っているような……。


 暗い。目を閉じているのか。


 多分、寝ている。地面が硬くて冷たい。

 体に力を入れて、無理やり――僕は目を覚ました。


「いった……あれ、ここは?」


 体の痛みに、思わず声が出た。


 ……おかしい。ここに来るまでの記憶がない。誘拐された?


 周りには、たくさんの人がいる。

 狭い部屋の割に、人がいすぎて息が詰まりそうだ。


 そして、目を覚ました時からじっと僕を見つめてくるのは、目鼻立ちの整った、色素の薄い髪を持つ少女。アイドルとか言われても信じる。


「あ、やっと起きた。大丈夫? 起きるのが遅いから心配したけど……」


 少女はちょっと心配そうな顔をしながら笑っている。

 その隣にいる大柄な男性は、僕に手を差し伸べ、立たせてくれた。


「よし、立てるな。体、しばらくは痛むだろうけど、大丈夫そうだ」

「あ、ありがとうございます」


 結構、強面で緊張。

 だけど、立たせてくれたし悪い人じゃない。

 ……でも、今問題なのは……。


「すみません、ここがどこか分かりますか?」


 少女と男性は顔を見合わせて、ため息をつきながら首を振った。

 それだけで、僕は察した。


「分からないんだよ、それが」


 予想通りの言葉が続く。

 男性も頭をかきながら話し始める。


「ああ。唯一の知り合い、うちの事務所の稼ぎ頭、桜庭さくらば美晴みはるがいたもんだから、知り合い同士固まってるんだが」


 やっぱり、少女……つまり桜庭さくらばさんは事務所に入っているんだ。

 それならその美少女ぶりも納得だ。


「……ねえ。自己紹介しない?」


 桜庭さくらばさんが再び口を開く。


「これから何するかわかんないけど、味方がいた方が心強いよ。それに、名前すら知らなかったら、さ……」


 確かに、それもそうだ。

 僕はうなずく。


 桜庭さくらばさんはパッと顔を明るくして、我先にと話し始めた。


「私は、まぁ言われた通り桜庭さくらば美晴みはる。事務所でアイドルやってるんだ。よろしくね」


 にこりと笑みを浮かべる。

 男性が、桜庭さくらばさんが話し終わったのを確認して後に続く。


「じゃあ、次は俺だな。俺はその事務所の社長だ。名前は月川つきかわ翔也しょうや


 月川つきかわさんは愛想よく手を差し出してきた。

 僕はその手を握り返す。


「じゃあ、君も自己紹介してくれるかな?」


 桜庭さくらばさんの言葉にうなずきながら、自己紹介の内容をサッとまとめる。


「僕は藍沢あいざわ海斗かいとって言います。年齢は十二歳。五十メートル走が六秒で走れます」

「えっ⁉ 六秒……って」


 二人は驚きの声を上げている。

 僕も、本来そんなことできない。

 でも、「できるようにすること」はできる。


 自己紹介が終わったと思ったら、今度は学校などでよく流れるチャイムの音が、この狭い部屋に響き渡った。


「……え? い、いきなり何……」


 桜庭さくらばさんが不思議そうに首をかしげる。少し不安げな様子だ。

 すると、機械か何かで声を変えた放送が、天井に設置されたスピーカーから流れてくる。


『やっほー! ゲーム会場へようこそ! みんな、自分が何者か……それは自分がよ~く分かってるよね?』


 随分とハイテンションな調子で、はきはきとしゃべっている。

 しかし、機械音声のせいで不自然だ。


『あ~……みんな単語自体は知らないのか。でも、常人とは違うっていうのは分かるでしょ?』


 空気がピリつく。

 その場に沈黙が流れた。


 僕もそうだ。

 ずっと隠してきたはずなのに。


『生まれて、物心ついたときから使える、普通じゃない力。巷では、それを「能力」って言ったりするんだよ』


 思わず、桜庭さくらばさんを見た。

 目つきが鋭い。それに、気のせいか、電気が通っているように体がチクチクと痛む。


『あとは……それを使って何かする人物を、「能力者」って言うってね』


 スピーカーから笑い声が響く。

 嘲笑するような声が、部屋の中でこだまする。


『あーあ、話がそれちゃった。つ・ま・り』


 放送の声が少しだけ途切れる。

 部屋の中の空気感が余計詰まりそうになった。


『能力者を集めて、私たちはゲームをさせたいの』

「ゲーム?」


 思わず月川つきかわさんが声を上げる。

 放送の声が愉快そうに笑う。


『そうそう! 楽しそうでしょ? ゲームってさ! 夢中でやってると、つい時間忘れちゃうよねー。あ、もちろん、優勝したら報酬があるよー!』


 辺りがざわつく。

「報酬」という言葉に、惹かれる人が多かったようだ。

 僕も、正直驚いたけど。


 こういうのって、参加希望者を募るものじゃないのかな?

 強制参加って。


『……みんなはさ、報酬って言われたら何思い浮かべる? お金? なんでも願い叶える? ざんねーん、不正解!』


 考えていたものを全て否定され、また驚く。

 一体、この人物は何が目的なんだろう?


『優勝者には、何もしない』


 部屋がシン、と静まり返る。

 予想外。

 その言葉がぴったりだったのだ。


『生きて帰してあげる。現実世界まで、ね』


 ……じゃあ、負ければ。

 負けたとしたら。


『もちろん、敗者には命はないと思ってほしいかな~って。あ、ゲームの内容伝えてなかったね』


 僕は、悪寒がしていた。

 ここから先に進んでは、いけないような。


『これは、能力者たちのデスゲーム。今回は鬼ごっこ……通称、殺し合い、だね♪』


 放送の声は、楽しそうに弾んでいた。

 こうして、デスゲームは始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

<改良版>能力者たちのデスゲーム 虹空天音 @shioringo-yakiringo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ