第14話:実感が湧かないリア充
安藤さんと別れ、帰宅した時には夜になっていた。
「よっしゃー! 一位いただき!」
帰ってきたタイミングで天音さんが家にやってきたので、今日も今日とて二人でモリカをすることになった。
ゲーム中、僕はずっと上の空だった。
普段なら一位を取り合っているところだが、今日は全てのコースで天音さんに負けている。
「今日のふみやんは弱いな。帰ってくるのも遅かったし。何かあったのかい?」
天音さんも僕の異常に気がついたみたいだ。
互いに『次のコースに進む』を選択せず、画面では自由になったキャラクターたちがコースを縦横無尽に走っていた。
「もしかして昨日の依頼の件かな。友達を作るための幇助はできた?」
「いえ、まだです」
「何か詰まっているとか? 私ならいつでも相談に乗るよ!」
自信満々な様子でガッツポーズをしてくる。
「じゃあ、僭越ながら。付き合ったら何をすればいいんですかね?」
「へっ?」
先ほどの自信満々な表情は完全に消え去り、アホみたいな顔を浮かべる。安藤さんに了承してもらった時の僕もこんな感じだったのだろうか。
「付き合ったらって……友達作りから彼氏作りにグレードアップしたとか?」
「いえ、そういうわけじゃありません。もしそうだとしたら、依頼は達成でしたけどね」
「す、すごいね。友達作りはできてないけど、彼氏作りはできたんだ。流石はふみやん。一体、どうやって幇助したの?」
「僕が彼氏になったんです」
殺人事件の解決パートで探偵が「犯人はこの俺だ」と言うくらい滑稽な発言をしてしまう。もちろん、天音さんは目を点にしながら僕を見ていた。
「ええっ! ふみやんが付き合ったの!」
一度瞬きをすると、天音さんは大きく仰け反った。
「たった1日で盗撮犯から彼氏までグレードアップするなんて! ふみやん、一体何をやったの? もしかしてお金を使った? レンタル彼女的な」
「お金は使ってませんし、盗撮犯じゃありません。端的に言うと、ストーカーの疑いをかけられたので、誤魔化すために『好きです』と口にしたら、了承してくれたんです」
「端的すぎて展開が訳わからない! とりあえず、ふみやんは盗撮以外にストーカーもしてしまったんだね!」
「だから盗撮はしてません。それにストーカーはあくまで疑惑をかけられただけでやってませんから」
それから僕は今日あった一連の流れを天音さんに話した。
二人の意識はモリカから安藤さんの話題に逸れていく。コントローラーを机の上に置いて飲み物やらお菓子やらを飲み食いしながら話す。
「なーるほどね。にしても、すごいね。今日初対面で、今日カップルになったんでしょ。バラエティー企画か何かでもやってた?」
「現実ですよ。僕の暴走列車を、安藤さんは止めることなく乗車したんです」
「よく分からない例えだね」
結構良い例えだと思ったんだけどな。これが価値観の違いというやつか。
「とにかく安藤さんと結ばれてしまったので、天音さんには悪いですが、しばらくは僕の部屋に来るのは控えてもらって良いですか?」
「へっ? 何で?」
「なんでって……僕たちが二人で遊んでいる姿を見られたら困るじゃないですか? 浮気とかを疑われるかもしれないですし」
「私たち付き合ってる訳じゃないから問題ないでしょ。何も困ることなくない?」
「あれ? そう言われればそうですね。いや、でも……」
「それでもと言うのなら、モリカちゃんをもらうことになるけどいいの?」
「人みたいに言わないでくださいよ。モリカくらい自分で買ってください」
「ひどい! ふみやんの部屋だけでなく、モリカまで奪ってくなんて」
天音さんは目に涙を浮かべながら僕に訴えかける。まるでおもちゃを取られた赤ちゃんのようだ。
「元から僕のものなので奪ってないですよ。はあ……わかりました。僕たちの関係は今までどおりのままでいきましょう」
僕たちは実際に付き合っているわけではないのだ。それに、よく考えれば天音さんと二人きりのところを安藤さんに見られるわけないもんな。
「うん! 良かった〜。もうモリカができなくなるところだった」
「バイト代で買ったら良いじゃないですか?」
「ゲーム機含めると高いから嫌だよ」
安藤さんの話題が終わりを迎えると、再びモリカに戻るためにゲーム機を手に取る。天音さんに話したことで、上の空だった気持ちが消えていった。
これなら今後は一位を狙えそうだ。
「そういえば、もし彼女さんと致す事になったら言ってね。そのタイミングでふみやんの部屋は開けられないから」
「そんな事はないので安心してください!」
せっかく気分が晴れたのに、卑猥な感情によって再び上の空になってしまった。結局、今日の戦績は全敗だった。
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