1章:【依頼対象】安藤日和(二年生)
第10話:自宅で作戦立て
安藤 日和。二年D組。
高校一年生の時に、カウンセリングを行ったのをきっかけに常連となったみたいだ。カウンセリングの常連なんて人聞きが悪いが、事あるごとに相談を持ちかけられるみたいだ。
高校一年生の時も友達に作りに苦労した。その時はボッチの生徒も多かったので、成り行きで作ることができたみたいだ。今回はクラスのオンリーボッチだから難易度は一年生よりも高めだな。
先生からもらった顔写真に目をやる。
赤縁のめがね。茶髪気味のおさげ。雰囲気からして地味な子だ。
というか、四宮先生はなんでこんなものを持っているのだろう。もしかして、あの人は学校でエロゲよりももっと外道なことをしているんじゃないか。僕のことを召使とか言っていたし。
「ふみや〜ん、暇だから来たよ〜」
写真を持ったまま考えていると、唐突に部屋の扉が開く。
見ると、天音さんが昨日とは絵柄違いのTシャツを着てやってきた。
「せめてインターホンくらいしてください」
「ふみやん、いつも家にいる時は扉の鍵閉めてないから勝手に入っていいと思ってた」
天音さんはそんなことを言いながらスムーズに僕の座っているソファーの近くまでやってくる。土足で入るくらいの慣れ方だ。
「自宅ではいつも気にしてなかったから癖みたいなもんです。というか、鍵が空いているからといって勝手に入っていいわけないじゃないですか」
「別にいいじゃん。やましいことなんてない……」
ふと天音さんから笑みが消える。
どうしたのだろうかと彼女の視線の先に目をやった。
そこにあったのは、僕が持っていた安藤さんの写真だった。
「ふみやんが盗撮! まさか犯罪に手を染めてしまうなんて! マスコミにインタビューされたら『優しい子でした』って言ってあげるからね」
「断じて違います! 前に言ってた『保健室の先生』に頼まれたんですよ」
「保健室の先生? ああ、昨日言っていた殺されそうになった先生か。そういえばモリカに夢中になってたせいで話聞いてなかったな。先生とはどんな関係なの?」
天音さんは僕の座るソファーの隣に腰を下ろしながら聞いてくる。
さて、どう説明したものか。先生が保健室でエロゲをやっていたのを知ってしまったことで召使になりましたなんて言えないしな。
「秘密を共有した仲ですかね」
「入学早々からすごいところに手を出してた!」
隣にいたはずの天音さんは、気づけばソファーの端の方に寄っていた。相当警戒されてしまったみたいだ。伝えるのって難しいな。
「決して『卑猥?』なことではないですよ……」
「なんで疑問符つけたの? 言い方もしどろもどろだし。はぁ、人は見かけに寄らないね」
「天音さんが考えているようなことは起きてないですよ。というか何でそんなこと言いながら近寄ってきているんですか?」
天音さんは僕との離れた距離を、ため息をつきながらも縮めていた。
「写真が見づらいから近づいただけだけど」
「警戒しなくていいんですか。人は見かけに寄らないとか言っておきながら」
「ふみやんは貧弱そうだし、いざ襲われても返り討ちにできるから」
自信満々な様子で口にして、腕の力瘤をパチっと叩く。
流石は男の中で育っただけはある。彼女は力でねじ伏せることを覚えているみたいだ。手出しはできんな。しないけど。
「それで、どんなお願いをされたの?」
「写真の女子生徒がクラスで友達を作れるように幇助しろですって」
「だいぶセンシティブなお願いだね」
「荷が重い依頼ですよ。天音さんって友達とかどう作ってました?」
「友達って作るものじゃなくて、気づいたら成ってるものでしょ!」
「わぁ……すごい名言……でも、今は全然使えなーい」
この人に友達作りなんて聞くもんじゃなかった。
まだ出会ったばかりの男子の家に土足で上がり込んでくるくらいだ。友達の一人作るなんて朝飯前だろう。相手の方が友達と思っているかは別の話だが。
「にしてもこの子、おめかししたら化けそうだね」
「そう見えますか?」
「うん。おさげをストレートにして、眼鏡をコンタクトに変えるだけでもだいぶ雰囲気が変わると思う。見た目が変われば友達もできるかもしれないから、形から入るのはいいかもね」
「なるほど」
僕には考えつかなかった視点だ。
アドバイスしようと思って言っているようには見えないので、無意識に出た言葉なのだろう。天音さんって案外相談に向いていたりするのか。
「でも、どうやっておめかししてもらうかですよね」
「ふみやんみたいな男の子が言ってくれれば変わってくれると思うよ」
「そうですかね」
僕には『何こいつキモッ!』って思われるのがオチな気がするけど。
それもこれも、僕と日和さんの関係がゼロに等しいからだろう。まずは互いに親睦を深めていくところから始めた方が良さそうだな。
「天音さん、モリカやりましょ!」
「いきなりどうした!? まあ、私としては大歓迎だけど」
決まったところで僕らはモリカを始めることになった。
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