第7話:再度やってきた保健室
三限の途中。僕は再び保健室にやってきていた。
クラス写真を撮る前の待機で暇を持て余したことで大きな眠気がやってきた。
クラス写真を撮る時の立ち姿勢で倒れて転落してしまう可能性がある。そう思って浅葱先生に声をかけて、保健室に行くことにした。
保健室に歩いていく途中でいくらかマシになったが、未だ完全に頭のモヤは取れていない。
「カウンセリング?」
保健室の扉を開けようとしたところ、扉に掲示された貼り紙に目がいった。昨日来た時には見なかった紙。まあ、入学早々カウセリングに来る生徒なんているはずないか。
どうやら、この学校の保健室は身体的不調と精神的不調のどちらも診てくれるみたいだ。四宮先生にしては粋な計らいをしているな。昨日の様子からして『学校を早く終わらせて娯楽を楽しむ』みたいなスタンスだと思っていたのだが。
学校の方針なのだろうか。そうだとしたら四宮先生は可哀想だな。
思っていることとは裏腹に頬が緩んでいた。どうやら今の僕は四宮先生の悲劇を好んでいるみたいだ。
保健室の二つ隣には職員室がある。
変に扉の前で長居すると、職員室から出てきた先生に変な目で見られる可能性がある。顔を引き締め、扉をガラッと開けた。
「失礼します……」
保健室では、四宮先生が自席と思われる奥にある机に座っていた。パソコンを広げ、片耳に有線のイヤホンをつけている。もしかすると、絶賛プレイ中かもしれない。二重の意味で。
「また君か。今日も眠くなったのかい?」
四宮先生は鋭い眼光で扉を見た。その表情は僕の首にカッターナイフを当てた時と同様、殺気に溢れていた。
しかし、僕の顔を認識した途端に、ホッとしたような様子を見せた。
十中八九、プレイ中だったみたいだ。
二重の意味のうち一つは確実となった。
「はい。先生もまたプレイ中ですか?」
「少年、言葉には気をつけろ。私が『カッターナイフ使い』だったら、今頃君の頭は床に落ちていたところだったぞ」
四宮先生は隣に置かれた文房具入れからカッターナイフを取り出す。いちいち怖い先生だ。
「カッターナイフ使いって……アニメやゲームでも聞いたことないですよ」
「私のやっているゲームには出てくる。カッターナイフ使いのナターだ」
そこは『カター』じゃないのか。ナターなら『鉈使い』であれよ。制作会社はどんなネーミングセンスをしてやがる。
「先生のやっているゲームってB級ですか?」
「私としてはS級だ。世間評価はC級だがな」
さすがはぶっ飛んだ設定を好むだけある。世間とは評価軸が全く違うみたいだ。
「ところで少年。ノックはしたか?」
「いえ、してませんね」
「次からはノックをするように。それとちゃんと貼り紙は見ておけ」
貼り紙?
僕は一度扉を開けて保健室に掲示された紙を確認する。
先生の言っていたとおり、カウンセリングについて書かれた紙の上に『入る時はノックを忘れずに!』と赤字で書かれていた。
「すみません。カウセリングの紙に目を奪われて見えてませんでした」
「ほぉー、そうか。どうやらやる気はばっちりみたいだな」
「やる気?」
「見るからに元気そうではあるが、眠いんじゃなかったのか?」
僕の質問はあえなくスルーされた。
そういえば、四宮先生とのやりとりで眠気が取れた気はする。僕にとっての天敵だからか警戒して興奮状態にあるのかも知れない。
「クラス写真の待機で強い眠気に襲われて。あのままだと倒れかもしれないと思って来たんですが、喋っているうちに冷めてきた感じはします」
「ナルコレプシーや重度の睡眠障害というわけではないみたいだな。昨日の睡眠時間は?」
「午後十一時に就寝。起床は午前七時なので八時間ですね。ただ、入眠までに結構な時間がかかったので実際はもっと短いかと思います」
「睡眠薬は使っているのか?」
「滅多に使わないですね。明日に大事な用がある時に一錠飲むくらいです」
「なるほど。通院はしているのか?」
「今はしてません。中学の時は月一で通ってましたが、高校から地元を離れたので、最近は行けてないですね」
四宮先生は「そうかそうか」と言いながらペンでメモを取っている。意外にちゃんと仕事をしているみたいだ。
「また帰っても眠くなるだけだろう。一度休んでおくといい。使うのは昨日と同じく一番奥にしてくれ」
先生の指示に従い、昨日と同じ場所に向かって歩いていく。
「保健室ではできる限り静かにしてくれよ。他の生徒の迷惑になるからな」
「寝るだけなんで大丈夫ですよ。それに、今は誰もいないじゃないですか?」
それに、先生は昨日イヤホンなしでエロゲやってたじゃないですか。
「いずれ誰かしらは来る。そんな時にうるさくしてたら引き返される可能性があるからな。特にカウンセリングに来る生徒はその傾向が高い」
確かに。これから大事な相談をしようって時に、部屋がうるさかったら意欲が削がれるか。アゲアゲのパーリーピーポーに相談なんて絶対にしたくないもんな。
「安心してください。ちゃんと寝るだけですから」
そう言って僕はスリッパを脱ぐとベッドで横になった。
先生は引き続きゲームをプレイし始めたようでマウスのクリック音が保健室に響き渡った。
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