第5話:雑談しながらレーシングゲーム
着替え終えると、二人で昼食を食べる。
寝ていただけだから軽食で大丈夫かと思ったが、食べ始めたら胃が活動を始めたせいか急に空腹になった。
「なんか食う?」
天音さんの弁当を物欲しそうに見ていたら、気が付かれたようで食べたいものを尋ねられた。
「そんな申し訳ないですよ……唐揚げいただけますか?」
「食べる気満々だ。ほいよ」
弁当にあった唐揚げを箸で取り、僕の食べていたカップラーメンの容器に入れる。汁は全て飲んでいるため、コツンと音を立てて転がる。
先ほどまで天音さんが食べていた箸で取った唐揚げ。肉汁と天音エキスのブレンド。いやいや、僕は何を考えているんだ。
本当に食べて良いのだろうか。チラッと天音さんの方を見る。
彼女は特に気にする様子もなく弁当を食べていた。
すると、僕の視線に気付いたのかこちらを向く。僕はドキッとして視線を逸らした。
「もう一個はあげないからね。私もお腹減っているから」
「そこまで欲張りじゃないですよ」
「じゃあ、何で私を見ていたの……まさか!」
稲妻が走ったような衝撃で叫ぶ天音さん。どうやら気付いてしまったようだ。
「まさか、あーんして欲しかったの? ごめんね。そういうのは彼女ができた時にやってもらうもんだよ」
「いえ、そういうのは求めてないです」
バカらしくなってきたので、さっさと食べることにした。市販の弁当の唐揚げだが、味はまあまあだ。作りたてだったのか食感はパリッとしていた。
食べ終え、ゴミを片付けたところでゲームを始める。
棚に置かれたコントローラーを二つ取り、天音さんに一つ渡す。
床からソファーに腰を移してゲームをプレイする体制に入った。
「そういえば、ふみやんはブリーフ派なんだね」
キャラ決め、コース決めを行なっていく最中、天音さんが唐突にそんなことを口にした。
「そういえばで始める話題ではないですね」
「じゃあ、『やっぱり』とか」
「何で人のパンツを予測しているんですか? そもそもそんな話題を持ち出さないでくださいよ」
「良いじゃん。せっかくだしさ」
「せっかくって……立場が逆だったらセクハラですよ。僕が天音さんに『天音さんは赤派なんですね』って言ったらキモイでしょ」
「うわぁ、何で知ってるの!? キモッ! もしかして、私の部屋の壁に覗き穴とか作ってる!?」
「いや……偶然ですよ……」
まさか当たっているとは。
赤派か。記憶にメモしておこう。
「今の天音さんのリアクションがまんま僕のリアクションです」
「なるほど。確かにキモかった。すっごいキモかった!」
天音さんは心底軽蔑するような眼差しで見てくる。
何だろう。納得してもらえたのに、すごく損した気分だ。
キャラ決め、コース決めが終わり、レース開始前のロードが始まる。
「まあ、ブリーフなのは昔名残ですよ」
「あれだけ嫌がってたのに、ちゃんと答えるんだ!」
ロードが終わり、レース画面に切り替わる。
嵐の前の静けさとでも言うように、レース開始前に僕たちの会話は止まった。
聞こえるのはスタートを告げる信号の音。三つの赤が灯って青になる。
僕はスタートを好調に切って一番になった。
ドリフトをうまく使って悠々自適に進んでいく。だが、アイテムボックスのあるところに差し掛かると、亀の甲羅を投げられて失速する。
「お疲れさん!」
横から天音さんの挑発する声が聞こえた。
どうやら彼女が甲羅を投げたみたいだ。プレイヤーに邪魔されるのはコンピューターに邪魔されるよりもムカつくな。
「お返しっ!」
天音さんの攻撃によってワースト2位に転身したことで、次のアイテムボックスで強力な武器を得た。
羽根の生えた亀の甲羅だ。
早速使用する。1位を走っていた天音さんが餌食にあい、僕と同様に失速する。順位はみるみるうちに落ちていった。
「やったな!」
天音さんも僕にやられたことで腹が立ったらしく、急に体を僕の方に持たれかけてきた。決して良いムードになったわけではない。むしろ悪いムードになった。天音さんは体で僕を押すことでレースへの注意を逸らそうとしているのだ。
僕たち二人がやる時は、レーシングゲームの他にリアルファイトが始まる。それは決まって天音さんから仕掛けられるのだ。
肩で押してくる天音さんに対して、ソファーから床に逸れることで回避を試みる。
「うおぉ!」
天音さんは勢い余ってソファーに寝転がる。今のうちに僕はレースを進めた。
すると突然、視界を足が通り抜ける。何事かと思ったところで僕の顔を覆うように両端から足が襲いかかってきた。
「ホールド!」
僕は首を天音さんの足で拘束される。
息が苦しい。だが、なぜだろう。しばらくはこのままでいたいと思ってしまう僕がいる。
「よっしゃー。私の勝ち!」
レースは天音さんの勝ちで終わった。
勝ちと言ってもワースト1とワースト2だ。二人ともリアルファイトに勤しみすぎてレースに集中できなかった。
「拘束技はなしですよ」
ようやく拘束から解放される。咳を一つ二つ重ね、天音さんの方を向いた。
「ごめんごめん。つい熱くなっちゃって」
天音さんは謝るものの、表情はにこやかだ。きっとまたレースが始まれば、同じことを繰り返すのだろう。
ため息をつきながら床から立ち上がる。そのタイミングで天音さんは座る位置をずらすために体を前屈みにした。
ふと、彼女の着ていたTシャツの隙間から下着が垣間見える。
「ほんとだ。赤色だ」
僕は答え合わせができたことが嬉しく、つい声を漏らしてしまった。
「だから言ったでしょ」
天音さんは特に恥ずかしがる様子もなく座り直す。天音さんに見られた僕とは違って反応は薄いものだった。何だか余計に恥ずかしい。
それからも二人でゲームを楽しんだ。
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