ホラール帰宅でい

「ただいま戻りました」

「オンダさん、お帰りなさい! ダニーにジローにウルミも……ウルミは寝ちゃってるわね。パトリックさんもお疲れ様でした。一週間もみんなのお世話なんて、大変だったでしょう?」



 ルルガからホラールに戻って来る時は迷うことなく、四時間ちょいで帰って来られた。

 ナターリアに笑顔で出迎えてもらうと、ああ我が家に戻って来たなあという気持ちになる。


「いやあ、俺は全然! 初めての美味しいものもたくさん食べたし、ダニーたちと思いっきり遊べたし、楽しかったよ! ケンタローの方が料理したり、色々と大変だったと思うぜ」


 パトリックはうちの荷物を下ろすと、んじゃまたなー、と軽く手を挙げ馬車で自宅へ帰って行った。

 今日は馬車の手入れをして、うちの子たち用の馬車移動ボックスに貼る生地を見に行くそうだ。

 明日から仕事なのに元気ですねえと笑ったら、


「おいおい、俺たちが一週間もしていたのはバカンスじゃねえか。元気いっぱいだぜ」


 と言われて、ああ普通はそうかと納得した。

 俺は日本にいる頃から、車や飛行機、新幹線などの長時間の移動が苦手だ。

 体調によっては酔うこともあるので、旅行でも仕事でも酔い止め薬は常備していた。

 馬車は閉鎖空間じゃないからか酔うことはないが、腰に来るから少々辛い。

 でも実際ルルガの町では贅沢コテージで、セレブっぽいバカンスを過ごしたのは事実だし、美味しい魚介類を思いっきり堪能したので、元気いっぱいと言えば俺も元気なのだ。


(思えば、こっちに来てから大きな病気もしてないし、疲れても翌日にあまり残らない。俺も気づかないうちに体力がついてきたのかもな)


 まだ昼を回ったばかりだし、荷物を片づけて一休みしたら、ジルやアマンダ・ザックのところまで土産を持って行くか。いや、夕食を一緒にしようと伝えるか。

 ナターリアは普段店番をしている時は、サンドイッチなど仕事の合間につまめるような昼食を持って来ている。

 暇な時間帯というのも段々と決まって来たから、思ったよりも休めてるんですよー、と笑っているが、気が休まらないこともあるだろう。俺たちばかりバカンスで休養して申しわけない。

 いや、仕事はしたんだけどもね。

 今日もベーコンとレタスのサンドイッチを持って来ているそうだが、せっかく俺が帰って来たのだから、せめて温かい昼食ぐらい作って労らねば間違いなく罰が当たる。


「昼食は私に任せてください」


 と二階で荷物を片づけた後、急いで米を研いで火にかけた。

 フィルからもらったバカでかいアジの干物を焼き、ネギの味噌汁と青菜を茹でて胡麻和えを作った。

 ついでにダニーとジローには、サーモンの燻製と細かく切ったニンジンの昼ごはんだ。


「野菜もビタミンって栄養が入ってるんだ。あんまり好きじゃないだろうけど、健康にいいからしっかり食べるんだぞ?」

『……ポゥ』

『キュ……』


 明らかに気乗りしない感じの返事ではあったが、二人は言いつけを守って食べ始めた。

 ルルガで思いっきり美味しい魚介類を食べまくったので、彼らは少し太った。

 別に成長のために肉がつくのはいいけど、人だって動物だって、急激に肉がつくのは健康上よろしくはないだろう。

 現にダニーはいつも一番動いていたのに、疲れるのかルルガではゴロゴロ時間が増えた。

 栄養価の高い食事のせいか、尻尾のケガはすぐかさぶたが出来てほぼ完治したのはいいけど、ホラールではみんな少し節制させないと。


「ナターリアさん、二階に食事を用意しましたので交替しましょう。温かいうちにどうぞ。あ、サンドイッチは代わりに私がいただいてもいいですか?」

「まあオンダさんったら戻って早々……そんな気を遣わないでください。でもサンドイッチは食べてくださるなら助かりますわ」


 そう言いつつ、嬉しそうに二階へ上がって行った。

 彼女も慣れてるとはいえ一人でワンオペは疲れただろう。今回は特殊な事情もあったけど、次回からは短期間の出張にしないとな。


 その後、「あの魚、すごく脂がのってて美味しかったです!」などと喜んでいたナターリアと仕事をしつつ、アマンダの店とジルの家に電話をし、ジルの屋敷で今夜の夕食の約束を取りつけた。

 もちろん夕食の担当は俺だ。

 彼らも日本の調味料に舌が慣れて来たのか、俺が作るものを抵抗なく食べてくれるのが嬉しい。

 しかも今まで作った料理は、お世辞もあるだろうがみんな好意的な反応だ。

 ナターリアのお土産は、荷物になるからジルと一緒の時に渡すことにした。

 あらオンダ久しぶりねえ、などと声を掛けてくれるエドヤの常連さんに笑顔で挨拶をしつつ、俺は今夜の報告や相談を頭の中でまとめていた。




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