S・A
セポールには
急な坂の脇に露天商が開いていいて、メイン広場に繋がっている。
シエリアはそこに仕入れに来ていて、斜面を登っていた。
そんな彼女はある店先で売っていた鞘さやのない細身の剣に目が止まった。
柄には白銀に輝く宝石が埋め込まれている。
真ん丸な
(わたし…をつれて…)
空耳だろうか。女性の声が声が聞こえた気がした。
気がつくと少女はその剣を買い取って雑貨屋に着いていた。
つい買ってしまったが、基本的にシエリアの店には武具の類は置いていない。
とりあえず後で考えようと店の奥の棚に立てかけておいた。
(ねえ……ねえあなた、聞こえているんでしょう? お願い。起きて……起きて……)
頭の中に響くような声でシエリアは目をさました。
戸締まりした店の内側から聞こえてくるらしい。
誰かが潜んでいるのだろうか。少女は警戒して声のほうへ向かった。
誰も居ない。どこから声がしているのだろうか。
(ここよ。ここ。さぁ、私を手にとって)
そのにあるのは細身の剣のみだった。
「まさか。そんなバカなことないよね
恐る恐る剣を手に取ると今までよりクリアに頭に声が響いてきた。
(やっと気づいてくれたのねシエリア。あのまま市場に並びっぱなしだったらどうなっていたことやら…)
雑貨屋は顔をひきつらせて剣を眺めた。
「うそ…剣が…しゃべった⁉ それに、どうして私の名前を?」
彼女の疑問に宝石をきらめかせながら武器は答えた。
「その剣、剣と言うのをやめてくれる?私にも"アルチェ"という名があるのよ。それに、あなたの名前は店先の話で聞いたわ」
シエリアはただただ混乱するしか無かった。
「ああ、私の声はあなたにしか聞こえないわ。だから、人前でむやみに会話しないほうがいいわね。すぐに慣れろという方が無理だけれど」
普通ならこんな不気味な剣は捨てるところだが、シエリアは興味深々だった。
営業時間が終わると、部屋においてあるアルチェと雑談したりした。
「ふふふ…あなた、度胸が座っているというよりは変わっているのね…」
少女は桃色の髪をかきあげながら照れた。
「…ほめてないわよ」
そんな穏やかな日々が続いた。
シエリアとしてはアルチェの身の上は気になってしょうがなかった。
だが、本人はそれを自ら語りださなかった。
むしろはぐらかしているフシもある。
そのため、余計な
結果、仲は良いが、妙な距離感が生まれてしまっていた。
ある夜のこと、シエリアがベッドにアルチェを立てかけて眠っていると剣が叫びかけてきた。
銀の宝石が輝く。
「シエリア!! 早く私を握って!!」
雑貨屋は寝ぼけ
「しゃきっとして!! さあ、外に走って!! 連中がくるわ!!」
何のことだかわからないままに店先の路地に出た。
すると真っ黒な大狼が2体、唸り声を上げていた。
「まだ被害は出ていないようね、こいつらは闇の
後ずさったシエリアはそのままぺたりと座り込んでしまった。
「うわああ!! ムリだよモンスター退治なんて!! それにこんなでっかい狼、相手にしたことないよ!! 剣だってろくすぽ振ったこともないのに!! うわああ〜。ど〜しよ〜!!」
大狼は飛びかかってきた。
アルチェが声をかける。
「目だけは閉じないことね!!」
次の瞬間、少女は電撃の如き速さで敵を串刺しにした。
そのまま蹴りつけて剣を抜くと、もう一方の頭を柄で強打した。
生じたスキで狼の首を切り落した。
そして2体は浄化されてかき消えていった。
思わずシエリアは自分の身体をぺたぺた触った。
確かに流れるようにモンスターを撃破した。その感触はあった。
しばらく沈黙した後、アルチェは重い口を開いた。
「あなたは巻き込みたくなかった。やつらとの戦いに。連中は世界を覆って絶望の世界に引き込む気よ。だから私は戦い続けているの」
真実を告げられて少女は
この剣はそんなに重い使命を背負っているのだと。
「ただ、私自身では移動できないわ。長らく持ち主に恵まれずに市場を転々としたの。だからあなたに会えた時は奇跡だと思った。でも、戦いに駆り立ててしまうのは気が引けて…」
黙って聞いていた雑貨屋少女だったが、おもむろに立ち上がった。
「私、やります!! 闇の
それからというもの、夜な夜なシエリアとアルチェの戦いが始まった。
ある夜は巨大な怪鳥が現れた。
闇のモンスターはどれも
少女がグッと踏み込むと、一気に飛行体の高さまで舞い上がった。
彼女のウェーブがかった髪は闇にはためいた。
そのまま背中に剣を突き立てると尻尾に向けて武器を走らせた。
そしてモンスターは落下していった。
アルチェの能力もあってか、戦闘に全く危なげがない。
素早い体術で敵の攻撃を避けていくスタイルだ。
やがてシエリアもこなれてきて、相棒の力をフルに活かせるようになってきた。
またある夜はゴーレムだ。あまりの硬さにアルチェの攻撃が弾かれる。
不利かと思われたが、少女が念じると宝石が光り、拳を覆った。
彼女が腰を落として
そしてその魔物は四散した。
モンスターはどんどん強くなっていき、いよいよドラゴンと対峙した。
黒い火炎を宝石のオーラで弾きながら
一度、着地してから驚異的な速度の突進を龍の心臓に突き立てた。
巨体はぐらりと歪み、地に沈んだ。
「はぁ、はぁ…。やったねアルチェ!! 私達、最強のコンビだよ!!」
「ふふふ。勇ましいこと。まぁそれは否定しなくもないわね」
――――
「えへへ〜〜。アールチェ〜〜」
…ガタン!!
シエリアはカウンターでビクッとして起きた。
「え……あ? ふぁ〜〜あ。なんだ、夢か…。にしても楽しい夢だったなあ。私もあんなふうに動けたらなぁ。モンスターを撃破していくのも
見た夢は彼女の願望を色濃く反映したものだった。
「でも、さすがにあそこまでの剣なんてないよね。私の親友。夢の世界だけで終わらせちゃうのはもったいないなぁ」
店主は手元に日記があるのに気づいた。
「そうだ。アルチェのこと書いておこう。そうすれば読む度に思い出せるから」
こうしてこの不思議な出来事はシエリアの忘れられない想い出となった。
しばらくして、彼女のポケットから"銀色に光る小石"が見つかったのだった。
……モンスターは怖かったけれど、とにかく楽しい夢でした。
もしアルチェみたいな親友がいれば嬉しかったかなって。
瞳を閉じて夢であるように…R.I.Pというお話でした。
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