第9話
「おお~ここが第二の部室かぁ。こっちの方が豪華だね」
「……水瀬さん?」
DWO内の部室……いわゆるギルドホームにやってきた僕は、水瀬さんの姿を確認して軽く驚く。まさか、彼女がDWOにログインしてくるとは思わなかった。しかも、僕達と一緒に。
「くんくん、もぐもぐ、ぺたぺた……いったぁい! すごい、すごいよ。全部の感覚があるよ。最新のVR凄すぎるよっ!」
周囲のにおいを嗅ぎ、ちゃぶ台の上のクッキーを貪りながら自分のほっぺを触り、それを引っ張る水瀬さん。VR空間を堪能しているようだ。……僕も初めてこの世界に来た時は感動したな。あの時はまだ楓と疎遠になる前だったけど。
「結構育ってるみたいですね。このギルド」
「快適空間なのっ」
高橋と不知火妹の魔子が、テーブルの上に並べられている様々なお菓子を見て感嘆の声を上げる。確かにこの部屋は広い。それに、置いてある家具はどれも高級そうなものばかり。……このギルドはお金持ちなのだろうか。
「おっ、みんな集まっているな」
そんなことを考えていたら、扉から目院が入ってきた。その後ろには、楓の姿もある。
「こんにちは。本日お邪魔させていただく弓掛楓です。気になさらないでいただけると幸いです」
ペコリと頭を下げる楓。…… 表情からは読み取れないが、口調がいつもより硬い気がする。緊張しているのかもしれない。
「みんな集まったことだし、早速トレーニングルームに行こう。……スイッチON」
目院がボタンを押すと、一瞬で視界が切り替わる。DWOのバトルフィールドに飛ばされたようだ。周りを見渡すと、大きな広場の中にバトルフィールドがあることが分かる。……練習にはうってつけの場所だ。
「俺はこの子に弓術トレーニング機能の使い方を教える。みんなは訓練していてくれ」
「はいです」
「はいなの」
「了解です」
「了解っ!」
「了解」
目院の指示に従い、僕たちはそれぞれ行動することになった。
・
・
・
・
・
「ここをこんな感じで設定すると、的が上下左右に移動するんだ。そして、これをこうすると的が高速移動を行う。……あはは、これじゃ早すぎだな」
「移動する、的。……さすがはゲームといった所でしょうか」
俺は弓掛さんに弓矢トレーニングの基本的な操作方法を教えていく。……最初は彼女の望むとおりに弓の練習をさせ、警戒心を解かせる。次にゲーム部のみんなが楽しそうに練習しているのを見せて自分もやって見たいと思わせる。そして、入部してもらうのが俺の作戦だ。部員集めを頑張ってる空条の力になってやりたい。
「射ってしまってもよろしいですか?」
「別にいいが、的のスピードを緩めなくて大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。では……」
彼女はそう言うと、矢筒から一本の矢を取り出して弓にかける。そして、キリッとした表情のまま構え、弦を引き絞った。……彼女の集中力が伝わってくるな。
「……っ!」
パァンという音と共に放たれた一筋の光。それはまっすぐに飛び、高速で移動する的の真ん中よりやや右下に命中した。……あの速度の的に命中させた、だと?
「……ふぅ、私としたことがまだまだのようですね」
「いや、大したものだ。というか、凄すぎて驚いたぞ」
「そう言っていただけると嬉しいですね」
……弓掛さんなら、きっとDWOの世界に順応できるだろう。そう感心したとき、彼女が気になる事を口にした。
「DWOの弓、気に入りました。少々値が張るようですけれど、それだけの価値があると感じました。VR装置を家庭で購入してみようと思います」
気に入った? 装置を購入する? ……それってもしかして!
「もしかして、入部してくれるのか!?」
思わず身を乗り出して彼女に問いかける。すると、彼女はキョトンとした顔になり、少し間をおいてから口を開いた。
「……どうして入部する必要があるのでしょうか? DWO内での弓練習に仲間は不要です」
「えっ?」
予想外の返答に驚き、声が漏れる。……彼女にとっては、弓の鍛錬さえできればそれで良いということなのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます